こんにちは!鈴木コウジです。
【違いのわかる文型指導】では、「文型Aと文型Bはどこが違うの?」「なんとなく理解はしているものの、授業で本当に伝わっているか疑問」「違いがはっきりわかる例が思いつかない」、そんな疑問を解消するシリーズです。
このシリーズは、
教師は、(このページで挙げた)この言い方をすれば、
- 勉強しているその時点の学習者に
- 最低限知っておいてほしいことを
- その時点の分かる言葉で伝えられて
- 学習者がわかるようになる
ことを紹介しています。
ここで書くことは、筆者の経験に基づいてまとめたものです。書くにあたって、文法の厳密な部分は、文型辞典などで確認しておりますが、「ちょっとこの表現はないんじゃない?」「私はそう思わない」「こんな説明じゃ伝わりっこない」「私のほうがわかりやすいはずだ」など色々と意見があると思います。そんなときは、「こんなやり方もあるんだな」と思っていただければ幸いです。
お急ぎの方は、「解説」と「学生への説明」からご覧ください。
初級ならではの疑問
なぜここで、「より」と「ほうが」を取り上げたかというと、初級の教科書で、動詞や形容詞や時制を勉強して、日本語のルールが少しわかってきた学習者からよく質問がでるところだからです。また、質問するための日本語も少しずつ話せるようになってきています。
「より」と「ほうが」については、私もはっきりとした教え方が確立するまで時間がかかった気がします。他の先生から質問されることもある文法です。(※この辺の話は、別の機会に。)
「より」と「ほうが」は、内容的には初級の序盤で、まだまだ学習者の日本語の語彙や文法レベルが低いため、彼らの質問の意図を教師が正しく理解しているか?を正しく把握するのが難しいところです。
違いを見る
それではまず、どちらも典型的な文を見てみましょう。(ここでは、初級で出てくるレベルの文を例文として挙げます。)
「より」の例
- 中国は、日本より大きいです。
- 飛行機は、新幹線より速いです。
- このカメラは、そのカメラより高いです。
- このボールペンは、そのペンより便利です。
N1は、N2より、い形容詞/な形容詞です……【a】
という構成です。
「ほうが」の例
- A:飛行機と新幹線と、どちらが速いですか。
B:飛行機のほうが速いです。 - A:日本の料理とあなたの国の料理と、どちらが辛いですか。
B:私の国の料理のほうが辛いです。
Nのほうが、い形容詞/な形容詞です……【b】
- わたしは海より山の方が好きです。
- この店は、日曜日より月曜日や火曜日の方がお客さんが多いです。
◯◯は、N1より、N2ほうが、い形容詞/な形容詞です……【c】
という構成です。
それでは、【a】と【b】、【a】と【c】を見比べながら、考えてみましょう。
解説
もうみなさんお気づきですね。
【a】と【c】のようなセットで例文を出してしまうと、学生は混乱します。違いが見えてきませんし、なんで2つの言い方があるのか?理解できません。
そして、「ほうが」の3)や4)を、いきなり単文で言うことはまずないと思います。これに気がつけば、バッチリです。つまり、「ほうが」の例文1)〜4)は全て、疑問文の答えとして使われる文です。3)と4)は以下のほうが良いと思います。
3)
- A:海と山とどちらが好きですか。
- B:(わたしは海より)山の方が好きです。
4)
- A:この店は、日曜日と平日とどちらがお客さんが多いですか。
- B:(この店は、日曜日より)月曜日や火曜日の方がお客さんが多いです。
これで、準備は整いました。学生への説明を考えましょう。あれっ?「より」の解説は…。
学生への説明
ーーーここからTとSのやりとりーーー
S:先生、「より」と「ほうが」は、いつ使いますか?
T:(「ほうが」の例1)や2)のような会話を板書。AとBじゃなく、QとAと書いても良い)
見てください。(板書を指して)
Aさんが「どちらが……ですか?」、Bさんが「◯◯のほうが…です」。
Aさんが聞きます、Bさんが答えます。Bさんが「◯◯のほうが…です」。
(会話にQとAを書いておけば、答えに「◯◯のほうが…です」とわかりやすい。)
ーーーここまでTとSのやりとりーーー
これが初級レベルで使える言葉を使って、「ほうが」の使い方を理解させる最も簡単なやりとりだと思います。ここでやっと「より」の解説、実際の説明を紹介します。
ーーーここからTとSのやりとりーーー
S:先生、「より」は……?
(明らかに見てすぐ比較ができるものがオススメ。地図を貼って中国と日本の大きさ比較とか。)
T:みなさん、地図を見てください。(中国を指して)中国は大きいです。(日本を指して)日本です。
中国は、日本より大きいです。(板書)
みなさんが、地図を見ます。中国は大きいです。日本を見ます。中国を見て、日本を見て、(頷くジェスチャーなどをして、納得した様子で)、中国は日本より大きいです。
ーーーここまでTとSのやりとりーーー
「より」は、状況を説明するとき(「より」は状況を比較する)に使うという点が重要です。しかし、状況を説明するという言い方はできません。その代わりに、ここでは「見る」という動作を強調することで、目で見てわかった情報を(客観的に)表す文型ということをわからせます。
私は地図を見たあとに「はいはいはい、わかりました」と言ったりもします。情報をちゃんと考えて処理して、「中国は日本より大きいです」という日本語を発しているという、わざとらしいジェスチャーを入れています。(※もちろん、目からの情報だけではなく、既有知識からの判断も当然ありますが、初級レベルにあわせています。)
おまけ
学生に余裕があれば、これまでの説明をした上でですが、再度、例文を板書します。
- 中国は日本より大きいです。(◯をつける)
- 中国のほうが大きいです。(おおきくバツをつけたり、取り消し線を引く)
- A:中国と日本とどちらが大きいですか。
- B:中国のほうが大きいです。(◯をつける)
このような確認があると丁寧ですね。「こんな日本語は無いんだ、使わないんだ」という例を示しておくことはとても大切です。作文の授業にも通じてきます。
このような確認には、簡単な作文練習が良いと思います。
まとめ
最後にまとめです。「ほうが」は、「どちらが……ですか?」と聞かれたときに、答えとして使う表現。「より」は、客観的に状況を(比較して)表すために使う表現。
初級レベルは、様々な制限があり、難しいところはありますが、何も怖がるところはありません。今後も、初級レベルでわかる、使える言葉でいかに説明できるか、という観点からすぐに使えるものを挙げていきたいと思います。
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