日本語教師のみなさん、こんにちは。
みなさんは、中級以降の文型を教えるとき、どのように授業準備をしていますか。筆者はまだ新米教師だったころから中級以降の授業も担当しています。そして、手探りで中級以降の授業を担当してきて、思ったことがあるんです。
それは、中級以降の文型ってつくづく奥深いなということ。中級以降の文型って、初級文型に比べて、似たような意味や形を持った文型が多い!その違いを分析して教えるのって難しい!
『みんなの日本語』で初級を教えているときは、シリーズで出版されている『教え方の手引き』という強い味方がいました。でも、中級以降の教科書には、そんな「手引き」がなくて、いつもあたふた……。中級以降の文型にも導入から練習まで網羅した「手引き」があったら、助かりますよね。
そこで、日本語教師歴10年以上の筆者が、中級以降の文型について、どこよりもくわしくご紹介していきたいと思います。今回は中級文型の中から、例示の「~ように」についてご紹介します。
「~ように」って初級文型だけではないんです―中級文型の「~ように」大解剖
みなさんは「~ように」というと、どんな例文を思い浮かべるでしょうか。例えば、『みんなの日本語』を使ったことがある方は、次のような例文を思い浮かべるかもしれませんね。
- 日本の本が読めるように、漢字を練習します。
- 日本語で話せるようになりました。
- できるだけ野菜を食べるようにしています。
- 明日は9時までに学校に来るようにしてください。
『みんなの日本語』第36課に出てくる「目標」や「変化」を表す「~ように」の例文です。
この初級文型の「~ように」に関しては、またの機会にゆずって、もう少し「~ように」を使った例文について考えていきましょう。
中級文型の「~ように」4つの意味・用法
中級文型の「~ように」を使った例文には、以下のようなものがあります。
- 先生はAさんに毎日宿題を出すように言いました。
- 今から先生が言うように、言ってください。
- Bさんの家はお城のように広いです。
- 私はケーキやクッキーのように甘いものが好きです。
どうでしょうか。「~ように」を意味・用法って、本当にたくさんありますね。みなさんは、それぞれの例文で使われている「~ように」の意味が言えますか。
答えを言ってしまうと、こうなります。
- 間接話法の「~ように」
- 同様の「~ように」
- 比喩の「~ように」
- 例示の「~ように」
①~③の「~ように」もそれだけで一つの記事が完成しちゃうくらい、内容が濃いです。でも、それもまたの機会にじっくりご紹介するとして。
今回は④例示の「~ように」を徹底的にご紹介していきます。
例えば『学ぼう!にほんご 初中級』第3課では、②~④の「~ように」が一度に出てきます。その中でも④の例示の「~ように」が、いちばん学習者がつまずきやすいところ。実際に何度か教えてみての、筆者の実感です。
例示の「~ように」どんなときに使う?
例示の「~ように」って一体何でしょう?どんなときに使うの?例示の「~ように」を使うのは、ズバリこういうときです。
具体的な例を出して説明するとき
「具体的な例を出して説明する」とは?ここからは、実際に例文を見ながら考えていきましょう。
例示の「~ように」が使われるシチュエーション
実際の例文を見ながら、例示の「~ように」が使われるシチュエーションを考えていきます。分かりやすくするために、まずは「~ように」を使わない例文から。
例文(1)
A:Bさん、どんな食べ物が好きですか。
B:そうですね。辛い食べ物が好きです。
辛い食べ物ってどんな食べ物のことを言っているのか、ちょっと分かりにくいですよね。つんと辛いワサビを効かせた食べ物?それとも唐辛子たっぷりのヒリヒリした食べ物?次に「~ように」を使った例文を見てみましょう。
例文(2)
A:Bさん、どんな食べ物が好きですか。
B:そうですね。麻婆豆腐や担々麺のような辛い食べ物が好きです。
そうか、Bさんは唐辛子系の辛い食べ物が好きなんですね。例文(2)の「麻婆豆腐」や「担々麺」は「辛い食べ物」の例です。「~ように」を使った例文のほうが、「~ように」を使わない例文より、具体的で分かりやすいですね。
このように、例示の「~ように」とは、具体的な例を出して説明するときに使われる文型です。
ここにも注意!例示の「~ように」の接続は?
例示の「~ように」の接続はどうなっているでしょうか。例示の「~ように」の接続は以下のようです。後ろに動詞や形容詞が接続するときは「~ように」、名詞が接続するときは「~ような」となります。
- 麻婆豆腐や担々麺のように辛い
- 麻婆豆腐や担々麺のような食べ物
同じ意味を持つ中級文型の「~みたいに/~みたいな」を学習すると、「名詞+の」の「の」が抜けがちです。
- 〇 麻婆豆腐や担々麺みたいに辛い
- × 麻婆豆腐や担々麺ように辛い→〇麻婆豆腐や担々麺のように辛い
「~ように」と「~ような」の接続の違い、「~ように」と「~みたいに」の接続の違いは、N3の対策問題でも出題されやすいところです。最初に教えるときにしっかり押さえておきましょう。
また、「~ように」の前には名詞だけではなくて、動詞の普通形も接続します。ここが学習者にとって、難しいポイントなのですが、後で触れることにします。
例示の「~ように」どうやって導入すればいいの?
それでは次に、効果的な導入について考えてみましょう。効果的な導入とは、学習者にとって分かりやすい導入のことです。学習者にとって分かりやすい導入とは?筆者が考えるポイントは以下の3つです。
- 説明がシンプルであること
- 学習者にとって身近な話題を使った例文が示されていること
- 学習者が実際にその文型を使ってみたくなるようなシチュエーションであること
さっそく、このポイントを押さえた導入について見ていきましょう。
例示の「~ように」身近な話題で分かりやすい導入を
学習者にとって身近な話題を使った例文を示すためには、普段から学習者についてリサーチしておくことが大切です。学習者が好きなこと、得意なことは何?普段の生活はどんな感じ?
それによって、文法書などの例文をアレンジしていくのが、効果的な導入のコツです。ここでは、仮に日本のマンガが好きな学習者がクラスにいると仮定して、導入例をご紹介します。ここでは「~ような」を使った導入例を。
教師:Aさんは、ひまなとき、何をしますか。何が好きですか。
A:マンガが好きです。
教師:どんなマンガが好きですか。例えば?
A:『○○』!『××』!(←実際のマンガのタイトルです)
教師:「Aさんは『○○』や『××』のようなマンガが好きです。」
実際に筆者の学校にも日本のマンガ好きの学習者がいます。日本のマンガについて話を振ると、次から次に具体的なタイトルを教えてくれます。それはもう、目をキラキラさせて(笑)
熱烈なマンガ好きではなくても、日本の有名マンガのタイトルくらいなら、知っている学習者は多いです。知っている話題だから、「~ように」が例を示していることもすぐに分かります。好きなことだから、興味を持って授業が聞けるし、実際にその文型を使って話して見たくなります。
「マンガ」の部分は、スポーツが好きな学習者に教えるときはスポーツの話題に変えて、韓国ドラマが好きな学習者に教えるときは韓国ドラマの話題に変えて(筆者の学校では韓国ドラマ好きな留学生をちょこちょこ見かけます)。
ぜひ皆さんが教える学習者の好きなものに変えて、アレンジをしてみてください。
学習者にはここが難しい!「動詞―普通形+ように」
筆者は今まで繰り返し例示の「~ように」を教えてきました。意味は比較的すんなり導入できるのですが、毎回きまって学習者がつまずくところがあります。それは、「動詞―普通形+ように」または「動詞―普通形+ような」の例文を自分で作ってみること。
「麻婆豆腐や担々麺のような食べ物」、「ケーキやクッキーのようなお菓子」……
「名詞+のように/のような」の例文はどんどん作れるのに、動詞を前につけた例文を作るのはけっこう難しいのです。でも、大丈夫。教師がいかに誘導するかによって、少しずつですが、学習者も発言できるようになります。
筆者の場合は、次のような例文を使って練習することが多いです。
教師:みなさんはどんな人が好きですか。
先生は優しい人が好きです。
優しい人って、例えばどんな人?
学習者:お年寄りの荷物を持ってあげます。
教師:「私はお年寄りの荷物を持ってあげるような人が好きです。」
「お年寄りの荷物を持ってあげるような人」という言い方で「優しい人」のことを表すことができるんですよ、というふうに話を持って行きます。そうすると、学習者のほうからも「困っている人を助けてあげるような人」「お年寄りに席を譲るような人」といった例が出てきます。
『学ぼう!にほんご 初中級』の第3課に、この例示の「~ように/ような」を使った問題があります。
問題: テストがいいです。
解答例は「誰でも解けるようなテスト」、「この前のようなテスト」。
でも、いきなり学習者にこんな答えを言えといってもなかなか難しい……
教師が何も言わないと、「漢字テストがいいです。」のような答えが返ってきて、教師も学習者も困惑…、といったことになりかねません。筆者の場合、ここでも学習者に話しかけながら誘導します(笑)
教師:みなさんは、簡単なテストと難しいテスト、どっちがいいですか。
学習者:簡単なテストのほうがいいです。(←当然の反応ですね)
教師:じゃあ、自分で答えを全部書くテストと1番~4番から答えを選ぶテストはどっちが 簡単ですか?
学習者:1番~4番から答えを選ぶテストです!
そこで、次のような解答が完成します。
解答例:1番~4番から答えを選ぶようなテストがいいです。
このように教師の話の持って行き方次第で、難しい「動詞―普通形+ように/ような」の練習も、クリアできちゃいますよ。
例示の「~ように」どんな練習方法が効果的?
ここからは、例示の「~ように」を定着させるための練習方法をご紹介します。ここまでお付き合いいただいたみなさんは、きっともうお気づきですね。そうです!今まで出てきた例文のように、学習者の好きなもの、理想のタイプをどんどん尋ねちゃいましょう。
学習者の好きなもの、理想のタイプを尋ねよう
学習者の好きなもので、いちばん聞きやすいのはなんといっても食べ物です。
教師:Aさんはどんな食べ物が好きですか。
A:そうですね。すしや天ぷらのような日本料理が好きです。
このように、「( )や( )のような( )が好きです。」の形で、好きな食べ物をどんどん言ってもらいましょう。
「動詞―普通形+ように/ような」の練習でおすすめなのは、やはり理想のタイプを尋ねることです。実は、この例示の「~ように」を教えるたびに、筆者の頭の中でぐるぐると繰り返し流れる、韓国の歌があります。
男の人が理想の女の人について歌うという内容の歌詞です。少しだけ内容をご紹介すると、こんな感じです。
- 「ジーパンがよく似合う女の人」(→スタイルがいい人ってこと?)
- 「僕の話がつまらなくても笑ってくれる女の人」(→優しい人ってこと?)
- 「キムチチャーハンを上手に作る女の人」(→家庭的な人ってこと?)
ひたすら男の人が自分に都合のいい女性像を歌い上げるという歌ですが、結末は……。最後の最後に女の人が出てきて、こう歌うところでこの歌は終わります。
「そんな女の人に釣り合う男の人、そんな男の人が私はいいわ」どうでしょう?全部例示の「~ように」を付け加えたくなりませんか?ちょっと極端な例だったかもしれませんが、こんな感じで学習者の理想のタイプも言ってもらっちゃいましょう。
教師:Bさんはどんな人が好きですか。
B:優しい人が好きです。
教師:例えば?
B:困っている人を見たら、すぐに助けてあげるような人が好きです。
例示の「~ように」の導入方法と練習方法はいかがでしたでしょうか。ぜひみなさんの授業にも取り入れてみてくださいね。
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