【特集】作文指導のコレは外すな!(1)作文初級者卒業への指導

みなさん、こんにちは。鈴木コウジです。

今回は、『作文』について書いていきます。【特集】ということで、作文指導全体を見ていきたいと思います。

【特集】では、「外国人(留学生)が外国語(日本語)で書く」ということから始まり、「日本語学校での作文指導」、「書く能力のレベルアップとは?」、「おすすめの作文指導法」、「初級〜上級レベルの作文」などを扱っていきます。

「作文の指導法って?」と悩むこれから作文指導を担当する教師の皆様や、「作文のクラスは担当したことがあるけどこのやり方で良いの?」という教師の皆様のお力になる内容を書いていきたいと思います。

第1回は、早速初級レベルといきたいところですが、具体的な教授法ではなく、作文授業について教師が考えておきたいことを中心に扱います。

第1回は、

  • 『「外国人(留学生)が外国語(日本語)で書く」ということを理解する』を外すな!
  • 『作文初級者卒業は、何ができることなのか?』を外すな!

です。

目次

作文を学ぶ意義:外国人が書くことが求められる場は?

具体的な作文の授業の話に入る前に、少し考えていただきたいことがあります。

日本で外国人が「書く」場面が、どのくらいあるでしょうか?

私は、「かなり少ない」と考えます。

大学や専門学校へ進学する場合の願書や授業を除くと、アルバイトや職場の契約書、役所への提出書類、スーパーなどのポイントカードの作成などでしょうか。

といっても、書く内容は名前・住所・電話番号など決まりきったものです。それらを記入せず、在留カードのコピーで済ましてしまうこともあるので、やはり書く機会は少ないと言えます。

それよりもその内容をしっかり読めることのほうが重要です。漢字が読める能力であったり、語彙や文法を知っていることのほうが、書く能力よりも重宝されるということです。

そうなると、作文よりも会話や語彙を教えるほうが良い。そして、実際に日本語学校でも、作文の時間は他の科目に比べて少なくなっています。極端に言えば、文章が書けることよりも、漢字が書けるほうが良いように思えます。

作文の勉強ができるのは、学生の特権!

将来書く機会が少なくとも、書く練習ができる機会があるということは、非常に貴重と考えるべきです。

読む・書く能力があるということは、日本語を使った就職活動に有利に働くことが間違いありません。特に書く能力は、とても大きなアドバンテージになります。

なぜ「書く能力」が有利になるのか?それは、正確に意味を取れなくとも、ある程度読めている(=日本語が理解できる)と判断される事が多いからです。

読む能力は漢字圏の学生にはある程度最初から備わっていますよね。でも、漢字圏の学生であっても、書く能力は勉強しないとうまくなりません。

漢字圏の学生でも勉強しないと、異常に漢語が多い文章を多用するという傾向があります。これは日本人なら漢字から意味をわかってくれるという考えに由来しています。日本人からすると、「わかるけど読みづらい・不自然」と感じてしまうので、やはり作文の練習は大切です。

作文=書く能力?

それでは、何のために「作文」の授業があるのでしょうか?書く能力を伸ばすため?間違ってはいませんが、これでは充分ではありません。

作文は、論理的に考えをまとめる力が必要になりますし、そのための語彙や文法も必要になります。書く能力とは、単に書く能力ではなく思考です。さらには、思考をまとめる力といってもいいでしょう。

「日本語学校に通うこととは、読み書きを学びに行くこと」と私は考えています。話す聞くは、誰でも自然とできるようになります。しかし、読み書きは、教えてもらわなければできるようになりません。

先生方は、作文を書く練習と考えるだけでなく、「作文=書く=思考をまとめること」と捉えて作文指導にあたるといいですよ!

外国人が「日本語で書く」大変さを理解せよ!作文授業の心構え

「日本語(外国語)で書く」とは、慣れるまでは「非常にストレスになること」です。みなさんも例えば「英語で、メールしなければいけない」状況に置かれたら、時間もかかりますし、ストレスがあると思います。

日本語を話すことも難しいと思っている学生に「日本語で書け」といっても、書けるものではありません。

私は作文の授業の第1回目では必ず「自分の国で作文が好きだったか?」を訊きます。ほとんどの学生が苦手だと答えます。日本人に訊いたとしても、得意と答える人は少ないでしょう。私も今はこのように文章を書いていますが、小学校や中学校のころは苦手でした。

しかし、書く方法がわかって、書けるようになってくると、いつの間にか苦ではなくなってきます。

私がN3序盤レベルのクラスで、EJU(日本留学試験)の記述対策授業を担当していたときのことですが、数人を除きほとんどの学生が「作文は苦手。書きたくない。」という状況でした。しかし、やり方がわかるにつれ、書ける量は格段に増えました。また書くモチベーションも上がり、卒業時に作る文集も立派なものが出来上がりました。

そこで感じたことをまとめると、以下のようになります。

  1. 「書くことは難しくない」ということを感じてもらう。
  2. 書くのが難しいのは、書き方を知らないから。
  3. 書き方がわかれば、学生は書きたいことがたくさんある。

これらに、あとは、作文の授業中に学生一人ひとりにあったアドバイスをすれば、作文の授業は教師も学生も楽しいものになること請け合いです。

初めての日本語作文:目標は「場面と日本語が直結」すること

みなさん、なにかテーマを与えられて、外国語で作文を書くとなったら、どうしますか?何をしますか?

作文が得意な人でも苦手な人でも、まずは日本語で考え、日本語で下書きをするのではないでしょうか。

例えば、英語の場合、「英語で考えて英語で書く」というような言い方をします。

私が大学入試のとき、英作文の問題は実際にありましたが、「英語で考えて」ということは全くしませんでした。日本語の文を読んで、使わなければいけない英単語や英熟語を考えて、部分的に英訳しながら書いていきました。

日本語を学ぶ学生だって、同じです。最初から日本語で考えて作文ができれば、学校で日本語を学ぶ必要はないですよね。

初めて書くのだから…

「日本語で考えて日本語で書く」。これは、初級者には無理な話です。

私は、初級のうちは「母語で文を考え、それを日本語に翻訳する」というプロセスで構わないと考えています。母語で考えていることがあっても、日本語が頭に浮かばければ書けません。

そこで、私は「場面(テーマ)と日本語が直結して、作文が書けること」を目標に、作文指導を行っていました。

それでは次で「場面(テーマ)と日本語が直結する」ということを説明していきます。

作文力アップでも実は重要!文法や会話練習!

例えば、家族について作文を書くとしたら、まず思い浮かぶのは、家族構成だと思います。そこで必要な文は、「私の家族は4人です。」や「父、母、兄がいます。」という文でしょう。

作文が書けない理由は、まず上記の2つのような文が、家族というテーマと直結していないことにあります。「4人」という数詞や、「〜がいます」という文法はわかっていても、家族というテーマに必要なものなのかということが思い浮かびません。

作文の前に復習を!

私が作文の授業でやっていたことの一つに、使ってほしい文法の復習があります。これはレベルに関係なく行っていました。

作文のテーマを発表したあとに、どんなことを書くかを全員で話し合います。「家族」をテーマにすれば、上記のような文型は思いつきますし、ペットのことを書きたい学生もいたりします。そのようなときは、「匹」の数詞が必要になります。

教師は学生の考えに応じて、そのレベルで使える文法や語彙をチョイスし、提示します。私の場合は、できるだけ板書をしておき、学生が作文中に見て使えるようにしておきます。

これによって、文法や会話の練習で出てきたものなどが、自分が書く作文に必要だとわかるようになります。

(※このような練習を取り入れているのが『みんなの日本語やさしい作文』だといえます。詳しくは第2回で取り上げます。)

作文初級者を卒業=場面と日本語が直結して書ける

上記のような授業をすれば、早ければたった数回で作文の授業のルーティーンのようなものができ、慣れた学生は頭の中に母語で文章が浮かび、日本語のアウトプットが作れるようになります。

テーマや場面が与えられた時点で、「ああ、あの文を使えば良いんだ。」とか「この語彙の日本語はわからないから調べなきゃ。」とかが学生の頭の浮かぶようにしていく練習が必要です。学生の思考が、文法や語彙の授業と作文の授業の間を行ったり来たりするイメージをしてください。

これが「場面(テーマ)と日本語が直結する」ということです。
場面(テーマ)と日本語が直結して書けるようになれば作文初級者卒業です!

まとめ

学生の作文が上手くならない!書く量が増えない!と嘆くのではなく、

学生の書く意味や、最終的な目標を念頭において作文授業を進めていきましょう。

みなさんの「作文の授業は苦手だな」という気持ちが、「私にも作文の授業ができそう」という前向きな気持ちに変わっていくはずです。そして、最終的には「作文の授業を早くやりたい!」となれば、最高です!

今回のまとめです!

『「外国人(留学生)が外国語(日本語)で書く」ということを理解する』とは、
 
 →外国語で書くことは、ストレスと理解すること。
 →書き方を知ることで、学生のストレスが緩和される。

『作文初級者卒業は、何ができることなのか?』とは、

 →場面(テーマ)と日本語が直結して書けるようになること。

作文授業の担当となると、書かせることや文量を多くすることを気にしてしまいがちです。そして、書けない学生を書けるようにすることに注力すると思います。でも、実はいちばん大切なことは、書けるようにする前段階で、原因を探ることなんです。

学生一人一人の書けない理由を見つけるのはなかなか難しいと思います。しかし、書き方がわからないから書けないという学生がほとんどです。(これと別の理由として、書きたいことがないということがありますが…。)

作文初級者卒業レベルが、「場面(テーマ)と日本語が直結して書けるようになること」なんて、レベルが高すぎる!と思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、専門学校や大学入試で必要がある学生などを除けば、作文初級者卒業の設定時間は気にしなくても良いのではないでしょうか?日本語学校卒業まででも良いですし、N3までにでも良いと思います。

とはいえ、私が紹介したやり方を続ければ、3か月程度で作文を書けるようになる学生が目に見えて増えます。EJUの記述対策クラスのことを書きましたが、このクラスの学生は1か月半ぐらいで、語彙や文法はN3序盤レベルの中でも、テーマに沿って自分の書きたいことを書けるようになってきました。

今回は、外国語でも作文が書けるんだと思わせるために、教師が知っておくとよいこと、効果がある方法を紹介しました。

次回は、『みんなの日本語やさしい作文』を取り上げ、初級レベルの作文指導を扱っていきます。

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