みなさん、こんにちは。鈴木コウジです。
今回は、具体的な指導方法から少し離れて、N5〜N1になるにつれてどんな文章を書けるようになるかを見ていきます。
そして書く文章には、それぞれの文章が持つ役割があります。
例えば、
遠足に行ったので、遠足の感想文を書きましょう。
これは、よくある作文の授業風景です。
ここで、みなさんに質問です!
例えば、
感想文を書くには、どんな文法が必要でしょうか?
感想文がもつ役割とは何でしょうか?
これを知ることで、
作文から、学生一人一人の日本語に何が足りないのかがわかるようになります。
逆にいえば、学生に足りないものをできるようにするために、作文を練習させることが出来るようになります。
そこで第4回は、
- 『練習する文章がもつ役割』を外すな!
です。
作文ロードマップ
日本語レベルが上がるにつれて、書けるようになる文章のレベルやジャンルも変わっていきます。
ここでは、日本語レベルと文法・文型と、それによって書けるようになる文章を、以下のようにまとめてみました。
レベル | 勉強する文法・文型 | 書けるようになる文章 |
---|---|---|
初級(N5〜N4) | 名詞文、形容詞文、動詞文 単純な複文(時、理由、条件など) | 日記 説明文 感想文 |
初中級(N3) | やや高度な文型(否定、条件、順接、逆接、比較など) | スピーチコンテスト原稿 |
中級(N2) | 高度な文法(順接・逆接・否定・因果関係など) | 志望理由(願書) 記述問題(EJU) 卒業文集 |
上級(N1) | 慣用表現など含む高度な文法 | 同上 |
[注意]
- 書けるようになる文章は、他にもありそうですが、あまり細かくならないようにしました。
- 書けるようになる文章は、習った文法や語彙に合わせたもので、あくまで目安です。
- 2)に関連して、「初級でもスピーチコンテスト原稿は書ける」「N3でもEJUの記述問題は書ける」などのご指摘があると思います。これに関して、私も異論はありませんが、「文章を書くのに充分な能力がある」「内容が目的を充分に満たすことができる」という観点から各レベルに分けました。
いろいろな作文を書いてみよう
表にまとめてみると、いろいろな文章の種類があることがわかります。
作文の授業でいろいろな文を、学生にただ書かせれば、練習させればいいというものではありません。作文の授業で書く作文には役割があります。
上の注意の3)で書きましたが、下のレベルの学生でも上のレベルのものが書ける(例:初級でもスピーチコンテスト原稿は書ける)ことはありますが、やはり、文法も語彙も足りないことは明らかですし、読み手や聞き手は物足りなさを感じます。
このように考えてみると、学習レベルに応じた文章を練習することをおすすめします。
それでは、それぞれのレベルで書ける文章が持つ役割を紹介します。
日記
英語の授業で「英語で日記を書いてみよう」という宿題が出たり、「英語が上達するために英語で日記を書いてみましょう」と英語教師が言ったりしていて、みなさんも馴染みがあると思います。
もちろん、これは、日本語もあてはまると思います。
みなさんは、日記を導入されたことはありますか?
私は、オンラインのマンツーマン授業で使っていました。2〜3文の短い文でいいので、1週間分書いてみるというものでした。授業の最初に読んでもらい、私が気になったことを質問するということを続けていました。
初級の学生3名でしたが、習ったことを使ってみるという練習にはとても効果があると感じました。未習の語彙でも必要なら調べて、日記に使ってみるという行為が、その後の文法や語彙の学習にプラスになったと思います。
とは言え、日本語学校での日記の導入となると、提出チェックや添削に手間がかかることが予想できるため、初級クラスではなかなか導入が難しいのも事実…。しかし、中上級クラスで余裕がある期間に実施することで、書く能力のチェックと向上に役に立ちますよ。
説明文
これは、作文のテーマで、「自国の歴史や有名人や建築物などを紹介する」ときに使われることが多いので、みなさんも指導したことが多いのではないでしょうか。
初級文法というのは、客観を表す文法・表現がほとんどですので、説明文を書くことが文法や表現の復習や定着につながると思います。
感想文
こちらもみなさん、指導したことが多い文章だと思います。課外授業へ行った際には、次の日、作文の時間があり、遠足の感想を書きましょうということがよくあります。
「〜がよかった/よくなかった」、「そして/しかし」、「〜ので」、「〜と思いました」など使える文型も増えて、主観的な表現や、文章の細部が書けるようになります。
スピーチコンテスト原稿
スピーチコンテストを開催している学校や、外部のスピーチ大会への参加を学生に勧める学校もあります。
コンテストとなると、正確な文法や適切な語彙の使用は当然とされます。それ以上に、文章全体の構成や論の展開と、読む能力(表現能力)が評価の対象になります。
作文の授業では、文章全体の構成や論の展開を重視した文章を書く練習をしなければなりません。
これを念頭に置くと、書く文章の量は一定以上必要になりますので、文型や語彙の量が要求されることになり、初級レベルには難しいと考えます。(ただし、初級レベルのなどクラス分けされたスピーチ大会は除きます。)
志望理由・将来の夢(願書)
学生が避けて通れないのが願書に書く作文です。志望理由や将来の夢といった作文を書く欄や用紙が、願書には必ずあります。これをもとに面接が進んでいくことが多いです。
私は留学生に願書を書く指導したこともありますし、留学生の面接をしたこともあり、願書を読む側も経験しています。
願書のほとんどの場合が、テンプレートのようなものです。「◯◯を勉強したいので御校を選びました。」、「将来は日本で云々…。国に帰って云々…。家族を云々…。」という内容です。
学生を選ぶ側もテンプレートで書いているのをわかっていますし、詳しい内容は面接で本人から直接聞けばいいと思っています。しかし、学生はテンプレートを丸暗記してきますので、面接でも話すことは願書と同じです。
テンプレートではなく自分の言葉で書いている学生は、面接でも自分の考えをしっかり話せる印象があります。
願書に書く作文であれば、必ず自分の言葉で書かなければいけません。漢字や文法はしっかり書けていることに越したことはありませんが、日本語学校の教師が添削をしているはずですので、学生を選ぶ側はこの辺はあまり気にしません。本人の考えが伝わる内容が書いてあることが一番です。
記述問題(EJU)
こちらは、別の回に詳しく説明します。
EJUの記述問題で一番大切なことは、記述問題のルールと問題形式を知ることです。
これを守って書けば、N3序盤レベルの学生でもある程度の得点が取れるようになります。
こちらの記事も楽しみにしていてください!
卒業文集
卒業文集を作っている学校は結構多いと思います。日本語学校は1年、1年半、2年とコースが分かれている場合が多いので、それぞれのコースのレベルで、在学中の思い出や将来について書くことが多いでしょう。
これに関しては、いろいろなレベルがいろいろなテーマで書くと思うので、学生の持っている日本語レベルで自由に書いていくのが良いと思います。強いて設定することがあるとすれば、他の学生が読んで意味のわかる文法や語彙を使っているのが良いでしょう。
まとめ
『練習する文章がもつ役割』
- 日記 → 習ったことを使ってみるという練習
- 説明文 → 説明文を書くことが文法や表現の復習や定着につながる
- 感想文 → 主観的な表現や、文章の細部が書けるようになる
- スピーチコンテスト原稿 → 文章全体の構成や論の展開を重視した文章を書く練習
- 志望理由・将来の夢 → 自分の言葉で書く、本人の考えが伝わる内容を書く
- 卒業文集 → 他の学生が読んで意味のわかる文法や語彙を使う
を外すな!
作文の授業で扱う文章や、作文が必要になってくるものを挙げて、その文章に必要なことやその作文がもつ役割をまとめてみました。ある程度くわしく、簡潔にまとめたつもりです。
一方で、こんなことまで考えて作文の授業をやらなきゃいけないの?と思った方もいると思います。ここまで書いたことは私が作文の授業を通してわかったことの全てです。
作文=書く練習(4技能のうちの一つを伸ばす練習)というイメージで授業を行ってしまうことが多いと思います。
役割や狙いを念頭において作文を指導することで、学生の書く能力以外の部分が見えてくると思います。ここで挙げた作文を指導する時には、少しでも思い出して指導してみてください!学生の力も、先生方の作文の授業に対する心構えも変わるはずですよ。
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