初級第一難関「て形」 学習者にわかりやすいと言われた「~てください」の文法導入を伝授

初級日本語の第一関門は「て形」ではないでしょうか。私たちが国語の時間には習わなかった「て形」。動詞のグループわけとて形の作り方を知っておかないと、日本語を教えることはできません。

「みんなの日本語 第14課」で勉強する「~てください」の文法と「て形」の作り方。学習者から好評だった文法導入をここに書きました。動詞のグループわけについてはこちら

目次

~てください 導入

イラストを使用する導入

定番の導入のご紹介。教師がこのイラストを見せながら・・・

教師:ここはどこですか?

学習者:空港です

教師:(女の人の手元を指しながら)何ですか?

学習者:パスポートです

教師:(男の人の吹き出しを指しながら)男の人は何を言いますか?

予習している学習者:パスポートを見せてください(教師は板書する)

教師:そう!今日勉強する文法は「~てください」です。「見せて」は「見せます」と違います!初めて見ましたね!

…という感じで始め、て形の作り方に移っていく導入が定番です。間違っても、いきなり絵を見せて、「男の人は何を言いますか」と質問してはいけません。なぜならイラストを見せたからと言って、「イラストに描かれている情報が一瞬で全員がわかるとは限らない」からです。必ず、イラストを理解するための説明をします。

一つの導入でクラス全員が理解できるとは限らないので、導入を2・3個用意しておくのが賢明です。

下記のイラストを学習者に見せて、

教師:Aさんは何を持ちますか?(持っていますか?の文法はみんなの日本語ではまだ未習ですよ)

学習者:お茶です

教師:Aさんは何を言いますか?

予習している学生:どうぞお茶を飲んでください

教師:では、その後Bさんは?

予習している学生:ありがとうございます

と聞いたり、下記のイラストを学習者に見せて、

教師:この女の人は何をしますか?

学習者:料理をします

教師:ひとりで食べますか?

学習者:いいえ

教師:この女の人は何を言いますか?

予習している学生:どうぞたくさん食べてください

などと聞くのも、いいと思います。上記のイラスト、ご存知の方も多いと思いますが、ひとつめは「かわいいフリー素材集 いらすとや」から拝借したもの、ふたつめとみっつめのイラストはスタジオジブリ作品の「コクリコ坂から」の場面イラストです。

2020年9月からスタジオジブリが場面イラストの提供を開始し、話題になりましたね。その一部の作品を拝借しました。スタジオジブリ作品は海外でも評価が高く、知っている学習者も多いと思うので、「学習者を引き付ける」という点では非常に使いやすいです。

吹き出しを付けたのには理由があります。「~てください」は誰かにお願いをするときに使われる文法で、話者が自分以外の人にお願いをするときに使われます。よって、誰が誰に言ったのかを明確に学習者に提示するために吹き出しをイラストに加えています。

実際の場面で使用する導入

難易度は高いですが、実際の場面で文法導入をするのが、一番わかりやすいです。

  • 教室でいつも隣の人にペンを借りている人
  • 友達のポケットwifiを借りて休み時間にゲームをしている人
  • 友達の重い荷物を持って教室に入ってきた人
  • 教科書を忘れて、事務所にコピーしに行く人

などがいれば、その学習者を話題にして、導入するのも学習者にとって、わかりやすい導入となります。ただ、その場合は教師が学習者同士のやりとりを事前に把握しておく必要がありますし、導入時に話題にする学習者の聴解力も必要です。

教師:〇〇さん、そのシャープペンシルはだれのですか?

学習者:△△さんのです

教師:そうですか。

 〇〇さんは△△さんにシャープペンシルを借りました。↑状況を確認し、学習者全員既知の情報にする

学習者:〇〇さんは、△△さんに何を言います 借りましたか?

予習している学習者:シャープペンシルを貸してください

注意が必要な導入

導入する際に、注意が必要なものもあります。

注意が必要な導入 例1

教師が重い荷物を持つ。

教師:重いです。とても重いです。〇〇さん、持ってください。手伝ってください

この導入では、教師がひとりで話してしまっています。

  • 教室のチャイムが鳴ったからといって、学習者が全員教師の発言に注目しているとは限りません。
  • 教師が導入を始めたからといって、学習者が導入に注目しているとはかぎりません。

ですので、学習者が教師の発言に注目していない間に導入が終わってしまう可能性があり、危険です。

注意が必要な導入 例2

事前に教室を暗くしておく

教師:教室が…。〇〇さん・・・(電気をつけるアクションをする)

予習している学習者:電気をつけてください(注意:「みんなの日本語Ⅰ」では「暗い」は第16課の新出語のため、この導入時には使えません。)

「暗い」という未習語があるのはさておき・・・。この導入では

  • 教室が暗いことに気付いたのは教師
  • 予習をしている学習者Aが「電気をつけてください」と言う
  • 予習をしている別の学習者Bが電気をつける

という3人が導入に登場してしまいます。

  • 誰が何をお願いしたのか
  • 誰が何をするのか

が複雑になり、全く予習していない学習者にとっては、「え?誰が何をしたの?」と思っている間に導入が終わってしまう可能性があります。

導入から「て形」の作り方説明へ

パスポートを見せてください。
どうぞお茶を飲んでください。
どうぞたくさん食べてください。

導入例文を板書します。

教師:「見せて・飲んで・食べて」これは何ですか?「見せます」じゃありません「見せて」、「飲みます」じゃありません「飲んで」「食べます」じゃありません。「食べて」、これは何ですか

などと聞けば、学習者から「て形」という答えが買ってきますので、答えた学習者を大いに褒めたたえてください。

教師:そうです!今日勉強するのは「て形」です。日本語の動詞は「~形」「…形」がたくさんありますが、今日は「て形」を勉強します。「て形」は作り方があります。本を見ましたか?

これまた、「見ました」と言った学生に、「すばらしい!」と声をかけ、て形の作り方説明に移ります。

ここでのポイントはふたつ

  • 「て形」の作り方が簡単な2グループ→3グループ→1グループの順に説明をすること
  • 学習者が動詞のグループわけを覚えていると思うなかれ!グループわけの復習をしながら「て形」説明を!

決して、教師が「日本語の動詞はみっつありました。1グループ・2グループ・3グループです。2グループはEます の動詞です。食べます・寝ます・・・」などと、教師だけが一方的に話す説明をしてはいけません。学習者にそんなに長い時間日本語を聞く能力はありません。印象に残るよう、会話で復習させてください。

教師:日本語の動詞はみっつ種類がありました。何ですか?

学習者:1グループ・2グループ・3グループです

教師:そうです。2グループはどんな動詞ですか?

学習者:「Eます」の動詞です

教師:例は?

といった感じで、各グループにどんな動詞があるか学習者との会話で復習してください。2グループに例外があることも忘れずに!

2グループ

ます形て形
おしえます(教えます)おしえて(教えて)
たべます(食べます)たべて(食べて)
とめます(止めます)とめて(止めて)
ねます(寝ます)ねて(寝て)

2グループは「ます」ありません。「て」

3グループ

ます形て形
しますして
きますきて

3グループも同じです。「ます」ありません。「て」

1グループ

ます形て形
かいます(買います)かって(買って)
かきます(書きます)かいて(書いて)
いそぎます(急ぎます)いそいで(急いで)
まちます(待ちます)まって(待って)
のみます(飲みます)のんで(飲んで)

1グループは・・・?学習者に作り方を聞けば、予習していて発言に積極的な学習者は説明をしてくれます。学習者が説明してくれたあと、それをまとめて教師が説明します。

ます の前が「い」「ち」「り」の動詞は「って」
ます の前が「み」「び」「み」の動詞は「んで」
ます の前が「き」の動詞は「いて」
ます の前が「ぎ」の動詞も「いて」
ます の前が「し」の動詞は「して」

「行きます」は「行って」!

いちりって
みびにんで
いて
いて
して
いきます(行きます)いって(行って)

て形を覚える歌はネット上にたくさんあります。担当する教師によって歌が変わると学習者にとっては迷惑な話なので、勤務している場所で(担当教師全員で)決まった歌があれば、それを使って覚えるのもいいでしょう。

私は人前で歌うのが嫌だし、歌うのが嫌な学習者もいるだろうと思い、「いちりって みびにんで きいて ぎいて しして いきます いって」を呪文のように10回ほど学習者に唱えさせます。また、慣れるまでは1グループのて形の作り方の表は教室に掲示しています。

~てください 練習

て形の導入→て形の作り方説明 を乗り越えれば、次は練習です。学習者は新出語を覚えるだけでも大変なのに、動詞のグループわけ、て形の作り方と覚えることが多々あり、いっぱいいっぱいになっています。教師の急ぐ気持ちは禁物。ゆっくり階段を上るように練習を続けてください。

て形の作り方がわかれば、今までに学習した動詞をて形にする練習をします。

  • 動詞ます形→て形 にする練習
  • て形→ます形にする練習

このふたつを、書いたり、口頭で練習したりします。これがうまくできなければ、「~てください」なんて言えませんから、きっちり練習していきます。

ます形の動詞をて形に変換できるようになってから、「~てください」の文法練習に移ります。

  • 見せます→見せてください と言う練習

「~てください」の意味を再確認するために、導入時に使ったイラストや状況を再度活用。

  • イラストを見せて「~てください」を言う練習

イラストを見せて、適切なフレーズが言えるように、練習します。

まとめ

動詞のグループ分け・「~てください」の文法・「て形」の作り方、学習者は新出語を覚えるだけでもかなりの労力なのに、「て形」学習時にはそれ以上の労力が必要です。学習者が「難しい・大変。でも大切」を感じると、余計に学習が大変になります。学習者を褒め、楽しい雰囲気で学習できるよう、教師の雰囲気づくりも忘れないでくださいね。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 大変参考になりました!ありがとうございました!導入はそんなに細かいところまで配慮してやるべきなのですね!その回の文型に沿った導入にすることばかりを考えていましたが、学習者が聞いていないかもしれない、集中していないかもしれない、という前提も考慮しつつ、導入を考えていくべきなのだと学びました。
    あと、今回の記事は誤字脱字が多かったので、訂正をかけると良いのではないかなと思いました!

    • コメント、ありがとうございます。
      読み返してみたら、本当に誤字脱字が多いですね。
      お恥ずかしいです…。失礼しました。

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