音声学の復習⑥アクセント~能力試験合格を目指そう

音声学の復習シリーズ、少し間が空いてしまいました。6回目はアクセントです。

能力試験の音声パートで、アクセントを聞き取る問題は必ずあります。それは日本語学習者が少し変なアクセントで文を読んだのを聞いて、どのアクセント形式で言ったかを答える問題です。

能力試験のことだけを考えるなら、聞き取りの練習だけすればいいんじゃない?という気がするかもしれませんが、それでもやはり、日本語のアクセントについて基本的なことは知っている必要があります。

実際、能力試験のアクセントの聞き取り問題って難しいですよね。アクセントの基本を知っているのと知らないのとでは問題の解きやすさは変わってくると思いますから(知らなくてもできる人はいると思うのですが)、ここで一度おさらいしましょう。

目次

日本語のアクセント

日本語のアクセントは「高」と「低」2段の高低アクセントです。

英語は強弱アクセント、中国語は声調です。日本語は拍の言語であるというのも習いましたね。1拍1拍に「高」か「低」のどちらが配置されており、その配置はそれぞれの語において決まっています。

アクセントの機能

アクセントの役割です。それぞれの語に「高」「低」が決まっているということが何の役に立っているのでしょうか。

弁別機能

語を区別する機能です。

例えば「雨(高低)」「飴(低高)」や「箸(高低)」「橋(低高)」「端(低高)」は、同じ音の組み合わせですが、これらはアクセントによって、どちらの「あめ」、どの「はし」について言っているのかが分かります。

ちなみに3つの「はし」のうち、「橋」「端」はこれだけを見ると両方「低高」なのですが、お互い別のアクセントの型です。後で詳しく書きますが、助詞の「が」を付けてみるとどうでしょうか。「橋が(低高低)」「端が(低高高)」となり、「が」が上がったままなのか、下がるのかで別物になります。

統語機能

文の中で、語と語の切れ目を示す機能です。

「ニワトリガイル」はどんな意味の可能性がありますか。「鶏がいる」なのか「2羽鳥がいる」なのかは、やはりアクセントによって分かります。前者は「ニワトリ(低高高高)」後者は「ニワトリ(高低低高)」です。

これも、次のアクセントの規則のところを読んでいただくと分かると思いますが、一つの単語の中で一度「低」に下がって、再び「高」に上がるということはありません。よって、「ニワトリ(高低低高)」と言われたら、「ニワ」と「トリ」は別の単語である→「鶏」のことではない、と私たちは解釈しているのですね。 

アクセントの規則

アクセントの「高」「低」はどのような規則に基づいて配置されているのでしょうか。

規則①1拍目と2拍目は異なる

3拍の語で考えてみます。

1拍目と2拍目は「高低」か「低高」じゃなければならなく、「高高」「低低」はありえません。ちょっと、いくつか見てみましょう。

ご飯:ごはん(高低低)

日本:にほん(低高低)

休み:やすみ(低高高)

魚:さかな(低高高)

この辺はわかりやすいと思うのですが、この「1拍目と2拍目は違う」という規則が、え、本当に?と一瞬疑われてしまうものがあります。それは、「2拍目が特殊拍(撥音「ん」、促音「っ」、長音「ー」)である語」です。

映画:えいが(低高高)

散歩:さんぽ(低高高)

2つの語のアクセントは正しくは上記の通りですが、日常では以下のようになることも多いでしょう。

映画:えいが(高高高)

散歩:さんぽ(高高高)

ですが、例えば学習者に向けてゆっくりはっきり発音したりすると、やはり1拍目と2拍目は「低高」となります。

規則②高いところは一か所のみ

1拍目と2拍目が違うことはわかりました。それでは引き続き3拍の語で考えると、3拍目の高低はどうなるでしょうか。上記で挙げた例をもう一度見てみましょう。

ご飯:ごはん(高低低)

日本:にほん(低高低)

休み:やすみ(低高高)

魚:さかな(低高高)

3拍の語のアクセントの配置はこれしかありえません。

1拍目と2拍目が「高低」でスタートする場合は

高低低 〇

高低高 × ← 一度「低」になって、再び「高」になる

「低高」でスタートする場合は

低高低 〇

低高高 〇

連続して「高」になるのは大丈夫です。一度「高→低」になってしまったら、ずっと「低」のままということです。山が2つ以上できたり、谷ができたりということはありません。

ここで、ちょっと簡単な練習をしてみましょう。

4拍の語の、可能なアクセントの型はどれですか。(複数選択可)

①高低低低
②高低低高
③低高高低
④高高低低
⑤低高低高

可能なのは①③ですね。②⑤は規則②に、④は規則①に違反します。

アクセントの4つの型(頭高型、中高型、尾高型、平板型)

「高いところは一か所のみ」ということは、語の中で「高→低」になるところは1か所しかないということですよね。

この「低」に落ちる直前の「高」の拍をアクセントの核と言います。アクセントの核の有無、またアクセントの核がある場合はどこにあるのか、で4つの型(頭高型、中高型、尾高型、平板型)に分かれます。

ヒューマンアカデミー(2021)『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド第5版』のp490に出ているアクセントの型の表です。

先ほどの4つの例はどの型かわかりますね。

ご飯:ごはん(高低低) 頭高型

日本:にほん(低高低) 中高型

休み:やすみ(低高高) 尾高型 やすみが(低高高低)

魚:さかな(低高高)  平板型 さかなが (低高高高)

4拍の語だと、可能なアクセントの型は以下の5つです。(n拍の語にはn+1通りの型があります)拍数が増えていくと、中高型が増えていくのですね。

銀行:ぎんこう (低高高高) 平板型 ぎんこうが(低高高高高)

弟:おとうと (低高高高)  尾高型 おとうとが(低高高高低)

一万:いちまん (低高高低)中高型

図書館:としょかん(低高低低)中高型

毎日:まいにち (高低低低) 頭高型

あと、アクセントの核で覚えておきたいことは

  • ・特殊音素(撥音「ん」、促音「っ」、長音「ー」)
  • ・母音が連続したときの後部の拍

は通常、核にならない、ということです。

展覧会:てんらかい (低高高低低) 

定例会:ていれかい (低高高低低)

全国大会:ぜんこくたかい(低高高高高低低)

「会(かい)」という合成語は、後ろから3拍目、つまり「かい」の前の拍が核になることが多いですが、上記の場合は核が後ろから4拍目にずれます。

能力試験のアクセント問題

学習者が文を言い、その文を聞いてどのアクセント形式で言ったのかを選択肢の中から選ぶ問題です。学習者が言っているので、日本語母語話者が言うであろうアクセントとは違うことがほとんどです。

アクセントの知識で選択肢を選ぶわけではなく、高低を正しく聞き取り、それと同じアクセント形式の選択肢が選べるようになる必要があります。

聞き取りのコツ

この問題は、学習者が言った文の中の一部の語や分節について答えるので、5~9拍程度と長くなります。

ここで紹介するコツはヒューマンアカデミー(2021)『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験完全攻略ガイド第5版』pp505-509にも詳しく書いてありますから、ぜひ見てみてください。

仮名1文字1文字が、選択肢のどの数字に対応するか分かるようにメモする

例)問題:ワクチンの予約が取れません。

この文を学習者が言って、下線部「ワクチンの予約」のところのアクセント形式を選びます。ワクチンの予約(ワクチンのよやく)は8拍ですから、4つの選択肢a-dには数字①~⑧が並び、それぞれ違う高低が示されています。

「高→低」になるところ(=核)に注意して聞く

「低」に下がる直前の「高」は少し強く聞こえます。なので、強く聞こえる部分があったらそれを覚えておいて、その拍が核(「高」であり次の拍が「低」)になっている選択肢を選びます。

例えば、上記の例で、「ワクチンの予約」をaの形式で言ったとしたら

クチンノヤク:低低低低低高

「ワ」と「ヨ」が強く聞こえると思うので、この1拍目と6拍目が「高」であり2拍目と7拍目が「低」になっている選択肢を選ぶといいでしょう。

普段からアクセントを意識する

学習者の発音の「高」と「低」が聞き分けられないという方は、自分自身の発音の「高」と「低」がよく分かっていない、自分が今どんなアクセントの型で言ったのか分からない、ということが多いように思います。

ご自分が普段発音している語の数々を振り返り、どんなアクセントの型で言っているのか確かめることを繰り返してみましょう。

ヒューマンアカデミー『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験完全攻略ガイド第5版』(2021翔泳社)pp507-508で、高低をそれぞれ「ミ」と「ド」に置き換えて言ってみる練習方法が紹介されているのですが、実際これで少し聞き取りやすくなったという方は沢山いらっしゃいます。

ドとミは本当にドとミの高さで言う必要はなく、ご自分の無理のない範囲で、両者に相対的な高さの変化をつけるだけで結構です。(おそらく、これと同じくらいの高さで普段喋っているということになると思います。)

この教科書によると、

ひるやすみ → ンンンンン(ハミング) → タタタタタ → ドミミドド

というふうに言っていくのだそうです。自分のやりやすいように適当に過程を省いたりしてもいいと思いますが、「ンンンンン」で、言葉に惑わされずに音だけに意識を向けることができ、それを「タタタタタ」に置き換えるとより高低がクリアになり、ドとミをつけやすくなりませんか。それを繰り返しているうちに音感が養われていくと思います。

また、「ド」「ミ」が正しかったか自信がなければこちらのサイトでチェックしてみてください。

OJADオンライン日本語アクセント辞書

まとめ

アクセントの高低が正しく判断できる力は、能力試験はもちろん、現場に出てからも役に立ちます。文法や会話の授業の中で、新出語などのアクセントをさっと直してあげられる場面も多々あります。

次はイントネーション、プロミネンスについて書く予定です。

参考文献

  • 猪塚恵美子・猪塚元(2019)『日本語教師トレーニングマニュアル1 日本語の音声入門解説と演習 全面改訂版』バベルプレス
  • 田中真一・窪薗晴夫(2004)『日本語の発音教室 理論と練習』くろしお出版
  • 原沢伊都夫(2019)『日本語教師のための入門言語学 演習と解説』スリーエーネットワーク
  • ヒューマンアカデミー(2021)『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド第5版』翔泳社
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