こんにちは。おおたです。
突然ですが、私は小学生の頃からもう30年近く「ゆっこ」と言われています。
ゆきこ [juk ʲiko]
という名前の人はどうして「ゆっこ」と呼ばれるのでしょうか。
これは「母音の無声化」→「促音化」された例ですね(覚えていますか。笑)
ゆきこ [juk ʲiko]と発音するとき「き」の母音[i]は
- 無声化しやすい母音[i]である
- 無声子音[k ʲ]と[k]に挟まれている
ということから、文句なしに無声化の対象になります(笑)
「ゆきこ」(無声化)を経て、さらに「ゆっこ」(促音化)となるのですね。
もちろん、ニックネームはそんなこととは関係なく、純粋にその人の雰囲気に相応しいものなどが付けられるんだと思いますが、
「ゆきこ」→「ゆっこ」となるのは、「促音化」の例として挙げられる
- せんたくき(洗濯機)→せんたっき
- おんがくかい(音楽会)→おんがっかい
などと同じ現象で、とても理にかなっていると思うのです(笑)
いきなり雑談でしたが。
私はここ数年、複数の日本語教師養成スクールで、音声学・音韻論(以下、「音声学」としますね)を担当してきました。
音声学は沢山ある科目の中でも、覚えることが沢山あって大変だと言われます。また、覚えることを覚えた先にはまた待ち構えている壁があり…本当に面倒な科目です。
また、音声学は好き派と嫌い派に分かれるかもしれません。私自身はどうだったのかと言うと、大得意ではないものの割と好きだったので、実はあまり大変だったという記憶がありません(すみません!)どうして好きだったのか、このあたりは別の機会にお話ししたいと思います。
このシリーズは音声学を一通り学び、日本語教育能力検定試験の受験を考えている方が対象です。音声学を教える中で、受講生の方々から出た質問や間違いが多かった問題などから、難しいと思われる点を考え、それを一つ一つ潰すべく、ここに連載していくことにしました。これから音声学を学ぶという人も、予習として軽い気持ちで読んでみてください。
第一回目は母音の話がメインとなります。子音と比べながら、母音とは何か確認しておきましょう。
母音と子音の違い
まず、基本に帰って、母音と子音の違いを確認しておきましょう。音声学をとりあえず一通り終えたばかりの方は、子音のところであまりにも覚えることが多かったので、最初にやった母音のことを忘れてはいませんか。
母音と子音
日本語の母音は「ア、イ、ウ、エ、オ」の5つでしたね。
ア行以外の行は「子音+母音」(例:サ(s+a))でできています。
- 母音:息の妨害が無い 全て有声音(声帯が振動する音)
- 子音:息の妨害がある 有声音も無声音もある
子音を発音するには必ず、舌や唇を使って息の通路を塞いだり狭めたりしていましたが、母音はそのようなことはないので、出しやすい音ですね。
また、母音を発するときは常に声帯が振動し声を伴うので、全て有声音となります。(有声音=喉仏に手を当てて確認した、アレです!振動を感じますね。)
母音の分類基準
母音の違いは何によって作られるのでしょうか。
母音の分類基準
- 舌の高さ(口の開き具合)
- 舌の前後位置
- 唇の丸め(突き出し)の有無
でしたね。もう一度、母音は息を妨害しないで出す音です。唇を閉じたり、舌をどこかに付けたりと、息の通り道を妨げることはしません。ですから、調音点(息を妨害する場所)は(ついでに調音法(息を妨害する方法)も)ありませんよ。それは子音の話です。
日本語の母音「ア、イ、ウ、エ、オ」を分類すると、
こんな図を書きましたね。
何ならもう一度、口の動きに注意して母音を発音してみてください。イエア、イエア…と言うと、舌は徐々に下がっていきますね(つまり、口の開きが大きくなる)。次にアオウ、アオウ…と言うと、舌はまた上がります(口の開きが小さくなる)。
①舌の高さ
- イ・ウ 高い(高母音または、狭母音)
- エ・オ 普通(中母音)
- ア 低い(低母音または、広母音)
次に、舌が高くなるときに、舌のどの部分が盛り上がるのかという問題もあります(舌の前後位置)。今度は高母音同士イとウを比べてみるとどうですか。イウ、イウ…。中母音エオ、エオ…。盛り上がる位置は、イとエは前、ウとオは後ろのほうです。
②舌の前後位置
- イ・エ 盛り上がりが前(前舌母音)
- ウ・オ 盛り上がりが後(後舌母音)
- ア 区別なし
最後に③唇の丸めの有無です。日本語の母音で唯一唇の丸めがあるものは何だったでしょうか。
…オ ですね。ウではありません!ウは非円唇母音なのです。
③唇の丸めの有無
- ア・イ・ウ・エ 非円唇母音
- オ 円唇母音
①舌の高さ
高母音 たかぼいん、こうぼいん
中母音 なかぼいん、ちゅうぼいん
低母音 ひくぼいん、ていぼいん
狭母音 せまぼいん、きょうぼいん
半狭母音 はんせまぼいん
半広母音 はんひろぼいん
広母音 ひろぼいん、こうぼいん
②舌の前後位置
前舌母音 まえじたぼいん、ぜんぜつぼいん
後舌母音 あとじたぼいん、うしろじたぼいん、こうぜつぼいん、
試験ではまさか「母音の読み方を書け」とは言われないでしょうけど、独学の方は特に何て読むのが正解なのか気になるかもしれないので、参考までに。
子音の分類基準
子音については、次回詳しくやりますが、母音との違いを確認するために、ここでも子音の分類基準をざっと復習しておきましょう。
子音の分類基準
- 声帯振動の有無:有声音・無声音
- 調音点:息を妨害する場所
- 調音法:息を妨害する方法
①声帯振動の有無
母音は全て有声音でしたが、子音は有声音も無声音もあります。
②調音点
母音と違い、子音は息の妨害がある音でしたね。調音「点」ですから、「どこで」息を妨害するかで、日本語の子音だと「両唇、歯茎、歯茎硬口蓋、硬口蓋、軟口蓋、声門」があります。
③調音法
これは息を妨害する方法、「どうやって」です。日本語の子音には「鼻音、破裂音、摩擦音、破擦音、弾き音、半母音」があります。調音法によって、調音点を「閉鎖」するもの、完全に閉じずに「狭め」を作るものがあります。
二つの発音、何が違う?(母音を中心に)
音声の試験ではよく、学習者の間違えた発音と教師の正しい発音の両方を聞いて、両者の何が違うのか(学習者は何を間違えたのか)を考える問題が出ます。
とりあえず、以下の2つの場合は、間違っているのは「母音」であることが多いでしょう。
50音図で同じ行にあるもの同士の場合
以下の①~③の下線部は何が違うか、選択肢の中から選んでみてください。
①キライ クライ
②ウミ ウメ
③エイガ エイゴ
選択肢: 調音点 舌の高さ 調音法 舌の前後位置
どうでしょうか。
①舌の前後位置、②舌の高さ、③舌の高さ です。
まず、①~③で、問題なのは「母音」ですから、この時点で調音点と調音法ではないことがわかりますね。
①キ・ク ②ミ・メ ③ガ・ゴ はそれぞれカ行、マ行、ガ行というふうに同じ行に属する者同士です。子音はそれぞれk、m、gと同じなので、①イ・ウ ②イ・エ ③ア・オ の違いと考えるのです。
この図を思い出してください。①イウは舌の高さが同じ、前後位置が違う、②イエは前後位置が同じ、高さが違う、③アオ同じく高さが違う(アは舌の前後位置は区別しないと考えます)ということがわかりますね。
ただし、同じ行に属する者同士でも子音が違うことがあります!
子音のときに詳しくやりますが、例えばサ行の「シ」。「シ」は他のサ行音「サスセソ」と調音点が違うのです。サスセソは歯茎音ですが、「シ」は少し後ろの歯茎硬口蓋音となります。他、タ行の「チ」、ナ行の「ニ」なども同様で、イ段の音はしばしば、口蓋化という現象が起き、調音点が変わる場合もあるので気をつけましょう。
イ段の音と、その音で始まる拗音の場合
ところで、拗音(ようおん)って何のことかわかりますよね。はい、イ段の音に「ャ、ュ、ョ」をつけたものです。
以下の①~③の下線部は何が違うか、選択肢の中から選んでみてください。
①シッチョウ シュッチョウ
②キュウシ キョウシ
③ヒク ヒャク
選択肢: 調音点 舌の高さ 調音法 舌の前後位置
①舌の前後位置、②舌の高さ、③舌の高さ です。
①~③のそれぞれ2つのペアは、同じ子音で始まる「イ段の音と拗音」または、「拗音同士」ですね。①はイ・ウ ②ウ・オ ③イ・ア の違いを考えるとこの答えが出てきます。
まとめ
音声学の復習第1回目は母音でした。
- 母音:息の妨害が無い 全て有声音
- 母音の分類基準
- ①舌の高さ(口の開き具合)
- ②舌の前後位置
- ③唇の丸め(突き出し)の有無
次回からは子音です。沢山あるので、3回ぐらいに分けて書いていきますね!
参考
- ヒューマンアカデミー『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド第4版』2019翔泳社
- 猪塚恵美子・猪塚元著『日本語教師トレーニングマニュアル1 日本語の音声入門解説と演習 全面改訂版』2019バベルプレス
- 松崎寛・河野俊之 NAFL日本語教師養成プログラム7『日本語の音声Ⅰ』2009 株式会社アルク
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