日本語教師の鈴木コウジです。
前回の準備編に続いて、今回から試験勉強の進め方、ポイントをシリーズでご紹介します。
ここでは、本当に覚えておかなければならないこと(=合格するのに必要最低限の知識)を中心に書いていきます。
そのため、テキスト(『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド 第5版』)に載っていてもここでは取り上げないもの、簡単な紹介程度に留めるものもあります。
余力がある人はテキスト内の欄外の説明などを読んでください
知識を実践の場で役立てよう!
養成講座で勉強した用語や知識について「◯◯ってどういう意味?」「▲▲はどういうこと?」と聞かれたときに、最低限の説明ができるようになることが第一歩です。そして、ここでは、「知識と実践のどこがつながっているか」を知ることを最終目標にしています。
太字、色付き文字、ハイライト(黄、青など)をまずは覚えましょう。
「養成講座で勉強した知識は、現場で役に立たない・意味がない」というような話が聞かれますが、それは勉強したことが身についていないという証左です。試験のために、講座を修了するためだけに覚えたことだからです。
さらに言えば、「知識と実践のどこがつながっているか」ということを養成講座で教えている講師が、わかっていない・教えていないということです。
養成講座の講師の中でも、実習を教えたい講師のほうが多いという印象があります。現場の経験があるから実習を教えたいのはわかりますが、本当にできる講師は、知識と実践のどこがつながっているか、理解をしています。
【試験対策・ここがポイント!】異文化コミュニケーションと社会編
ここでは、文化の概念や、異文化適応、異文化理解について学びます。その他、社会と言語の関わりから各国の言語政策や言語教育についても学びます。
【日本語教育能力検定試験・日本語教員試験対策】文化の概念・文化のモデル
ここでは「文化」とはなにか?について学びます。
c文化(スモールシー文化)とC文化(ラージシー文化)→ブルックスの考え。
c(スモールシー)文化は、低文化、見えない文化。=考え方、価値観など
C(ラージシー)文化は、高文化、見える文化。=文学、美術、音楽、建築、料理など
昔はC(ラージシー)文化重視だったが、1960年以降はc(スモールシー)文化重視となってきている。
文化については、トータルカルチャー(=主要な文化)、サブカルチャー(=下位文化で、世代特有の文化などがこれに該当。)、カウンターカルチャー(=サブカルチャーの一部。反体制の文化。)という捉え方もある。
P372の図4-1-1が頭に浮かぶように!
→カーターが提唱。
目に見える部分=意識レベル。その文化の目に見える習慣、特徴など。
目に見えない部分=無意識レベル。その文化の考え方、価値観など。
=普遍的レベル。人間生活を維持する基本的なレベルのこと。
異文化間コミュニケーションともいう。
異なる言語・文化の人同士のコミュニケーションのこと。同じ国内であっても、地域や習慣の違いがある人同士のコミュニケーションもこれに該当する。
【日本語教育能力検定試験・日本語教員試験対策】異文化適応
異文化適応とは、自文化と異文化を何度も往復することです。
P374の図4-1-2を説明できるように覚える!
自文化適応(=文化化)は、生まれた文化圏に適応すること。
文化変容(カルチュレーション)は、異文化を学び始めること。
脱文化は、古い自文化を捨てること。
異文化適応は、文化変容と脱文化をくりかえすこと。
同化(アシミレーション)は、異文化を完全に受け入れた段階のこと。
文化変容モデル(アカルチュレーション・モデル)
→シューマンが提唱。異文化への態度が言語学習に影響を与えるという理論。
アコモデーション理論(適応理論)→ジャイルズが提唱。学習者が所属している集団(=ウチ集団)と、目標言語を使用する集団(=ソト集団)への帰属視点から論じたもの。
ソト集団への帰属意識が高くなれば、目標言語の習得は促進される。
(1)P376の図4-1-3を説明できるように覚える!
リスガードは、異文化適応過程を、Uカーブ仮説で、異文化に接触した際の心理的過程を説明した。ハネムーン期→ショック期→回復期→安定期と流れる。
さらに、この後、自文化へ戻ったときに同様な心理状態がおこることがある。これをガラホーンは、Wカーブ理論として提唱した。(Uカーブが2つでWカーブとなっている。
(2)らせん状図
キムは、異文化適応をショックと安定を繰り返してショックの度合いが小さくなると説明。
(3)アドラー
アドラーは異文化接触の過程を、異文化との接触(初期ショック)→自己崩壊(移行期)→自己再結合→自律(安定期)→独立の5段階で説明。
(1)共感(エンパシー)
→異文化への共感を持つことが大切。
(2)相互尊重のコミュニケーション(アサーティブ・コミュニケーション)
→相手の権利も尊重する。
(3)自己開示
ジョハリの窓(ジョセフとハリントンをとってジョハリ)
P378の図4-1-5を説明できるように覚える!
開放の窓→自分が知っている・他人が知っている
隠蔽の窓→自分が知っている・他人が知らない
目隠しされた窓→自分が知らない・他人が知っている
未知の窓→自分が知らない・他人が知らない
(4)エポケー(判断保留)
異文化に対して自分の価値観で判断せずに、一旦判断を保留する。
【日本語教育能力検定試験・日本語教員試験対策】異文化理解
相手の文化の言語的特徴は?相手の文化は何を重視するのか?を学ぶことが異文化理解を助けます。
ホールが提唱。言語の使用頻度から見て、文化を分けた。
高コンテキスト文化=高文脈文化とも。言葉として表現したことよりも言外の内容を理解する必要がある。
「言わなくても通じる」→代表的な言語:日本語
低コンテキスト文化=低文脈文化とも。言葉として表現したことが全て。
「言わなければわからない」→代表的な言語:ドイツ語
文化を2つに分ける考え方として、以下のような2つがある。
どちらが優れているというものではない。
集団主義=集団の利益や目標を優先する。はっきり言うのを避ける傾向がある。
個人主義=個人の利益や目標を優先する。自分の意見をはっきり言う傾向がある。
自文化中心主義=自民族中心主義、エスノセントリズムとも。
自文化が最も優れていると考える。他文化を自文化の価値観で見る。
文化相対主義=カルチュラルレラティビズムとも。
文化には優劣はないと考える。自文化の価値観で判断するのではなく、相手の文化を考慮にいれて判断する。
※文化人類学者のボアズは自文化中心主義を批判している。
【日本語教育能力検定試験・日本語教員試験対策】コミュニケーション能力と異文化間トレランス
コミュニケーション能力とよく聞きますが、コミュニケーションをとるのに必要な能力にはどんなものがあるのかを学びます。
他文化と自文化の違いについての気づきのことを言う。
ハイムズ
→実際の会話では、言語能力だけでなく、適切な言語使用が必要だと説く。
カナルとスウェイン
→ハイムズのいうこの能力をカナルが3つに分け、更にストラテジー能力をスウェインがストラテジー能力と談話能力に分けた。
文法能力・・・語や文法を正確に組み立てて使える能力。
社会言語学的能力・・・相手や場面に合わせて話す能力。
ストラテジー能力・・・コニュニケーションを円滑に行うための能力。
談話能力・・・談話(=コミュニケーションのために使 われるときに作る、文脈)を構成、理解する能力。
トレランス=寛容さ、公平さ。
異文化への違和感や、異文化接触の際にうけるショックを、和らげることができる能力や状態。
人や集団や文化・習慣等に対しての画一的な考え方や評価=固定観念のことをいう。良い面を捉えるものと悪い面を捉えるものの2つが言える。
偏見や差別という言葉と混同しがち。
例)日本人は時間に正確。(=良い面)
日本人ははっきりと意見を言わない。(=悪い面)
知識と実践のつながり
今回の「異文化コミュニケーションと社会」は、実践の場のどことつながってくるでしょうか?
学習者の文化的背景は、普段の会話のやりとりでももちろん出てきますが、教室活動では、「作文」などが一番イメージしやすいのではないでしょうか?
自文化と異文化(=日本文化)とのギャップについて書かせる作文授業では、様々な考え方や意見が出てくると思います。日本に対してのステレオタイプや偏見があるかもしれません。否定したくなる気持ちを保留したり、学習者の考えを尊重したり、または、何かに気付かされたりするかもしれません。このような場面で、「異文化コミュニケーションと社会」で勉強したことが生きてくると思います。
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