学習者はよく下記のような間違いや不自然な言い方をしませんか?
- (✖)先生に宿題をあげます。
- (✖)両親は私に鞄を買ってあげました。
- (?)日本人の友達は私に日本語を教えました。
どうしてこのような間違いをしたりや不自然な言い方をしてしまうのでしょうか。日本人の授受表現の使用は無意識。故に授受表現のルールなんて知らないので、間違いには気づいてもすぐには訂正できないんですよね。
そんな新米日本語教師のみなさまに、今日は基本的な授受表現のまとめと、教えるときのポイントをお伝えします。必見です!
授受表現:教師の頭の中にコレ、ありますか?
新米日本語教師のみなさま、頭の中に授受表現の基本例文がありますか?以下に基本例文をまとめました。
基本中の基本!授受表現
- (1) 私は 友達に チョコレートを あげました。
- (2) 私は 友達に チョコレートを もらいました。
- (3) 友達は 私に チョコレートを くれました。
名詞
「あげます」「もらいます」「くれます」の前に名詞がくる場合は、上記の(1)~(3)のように「主語は+人に+名詞を+授受表現」という言葉の順番になります。
「あげます」「もらいます」「くれます」の前に動詞がくる場合は動詞がて形になります。
- (4) 私は 友達に 本を貸して あげました。
- (5) 私は 友達に 本を貸して もらいました。
- (6) 友達は 私に 本を貸して くれました。
動詞
この(1)~(6)までの基本的な授受表現を学習者に教えるときのポイントは3つ。
■「あげました」と「もらいました」の主語は「私」
■「もらいました」と「くれました」は物や動作の授受内容は同じだけれども、主語が違う
■「あげました」「もらいました」「くれました」の前の動詞はて形
学習者がこの3つのポイントを理解することが大切です。次に助詞の確認。下記の(1)~(4)を見てください。
- (1) プレゼントをもらいました。
- (2) プレゼントを買ってもらいました。
- (3) プレゼントをくれました。
- (4) プレゼントを買ってくれました。
物
このように「もらいました」と「くれました」の前に「物」がくる場合、助詞は「を」です。一方、「物」ではなく、「人」がくる場合は「もらいました」と「くれました」では助詞が異なります。
(5) 田中さん:素敵な時計ですね。
佐藤さん①:ありがとうございます。夫にもらいました。
佐藤さん②:ありがとうございます。夫に買ってもらいました。
(6)田中さん:素敵な時計ですね。
佐藤さん①:ありがとうございます。夫がくれました。
佐藤さん②:ありがとうございます。夫が買ってくれました。
この助詞、とても大切です。「夫にくれました」なんて間違うと、物や動作の授受方向がわからなくなりますからね。
上下関係ありの授受表現
初級の後半になると、上下関係を意識した授受表現を学びます。と言っても、基本的な文法構造は同じです。
- (1) 私は 友達に チョコレートを あげました。
(1-A) 私は 孫に おもちゃを やりました。
(1-B)私は 孫に おもちゃを買って やりました - (2) 私は 友達に チョコレートを もらいました。
(2-A)私は 社長に お土産を いただきました。
(2-B)私は 社長に お土産を持ってきて いただきました。 - (3)友達は 私に チョコレートを くれました。
(3-A)社長は 私に お土産を くださいました。
(3-B)社長は 私に お土産を持ってきて くださいました。
授受の内容だけを考えれば、「あげます」と「やります」、「もらいます」と「いただきます」、「くれます」と「くださいます」が同じですね。ですから、学習者が動詞の意味を理解するのは難しくないはず。でも、誰に対して「いただきます」「くださいます」を使うのかが、わからない(または瞬時に判断できない)学習者がいるので、要注意です。
授受表現導入のとき、何に注意していますか?
授受表現では登場人物が多いと難易度が高まりますから、気をつけてくださいね。最初のうちは「私(話し手)」「あなた」「第三者」くらいの登場人物で授受表現を練習するのがベストです。
「彼女は彼にプレゼントを貰いました」「彼は彼女にプレゼントをあげました」なんて、その場にいない第三者間の会話なんて、高度すぎます。
登場人物を少なくしても、授業中に下記のような日本語を耳にしますよね?
- (✖)先生に宿題をあげます。
- (✖)両親は私に鞄を買ってあげました。
- (?)日本人の友達は私に日本語を教えました。
このような間違いや不自然な表現にならないためのポイント、以下に書きました!
授受表現では、物の移動を明確に!
(1) 例文を板書するときは、必ず矢印なども書き、誰から誰に物が移動したのかを、明確にすること
例文と一緒に矢印で物の移動を表すと、主語が誰なのか、物は誰から誰に移動しているのかがよくわかります。上下関係がある授受表現の場合は、矢印の方向も上下に向けたほうがわかりやすいですよ。
そうすると「(✖)両親は私に鞄を買ってあげました」はなぜ間違いなのか、すぐわかります。動詞が「あげました」なのに、主語が「両親」なのはおかしい。なので、「両親は私に鞄を買ってくれました」が正しいと、訂正できます。
導入のとき、プレゼントに見立てた物などを使って教師から学習者へ、または学習者から学習者へ実際に物を移動させて説明するとき、ありますよね。そんな場合でも板書の際には矢印も一緒に板書します。なぜなら何回か導入をしているうちに、誰から誰への移動かがわからなくなったり、物のやり取りが教師や学習者の陰に隠れて、全員に見えなかったりすることがあるからです。
授受表現の重要ポイント!私の気持ち、大切に!
私たちが「もらいます」「くれます」を使うときって、どんな気持ちでしょうか?
■私は友達にプレゼントをもらいました。
■夫は私に時計を買ってくれました。
■日本人の友達は私に日本語を教えてくれました。
日本人が「もらいます」「くれます」を使うときって、うれしい気持ちのときや。感謝の気持ちがあるときですよね。学習者にも「ありがとう」と思ったときに使うんだと伝えれば、不自然な表現が減ります。
「(✖)先生に宿題をあげます」はなぜ間違いなのか、わかりましたか。
先生は宿題をもらっても、プレゼントをもらったときのような喜びはありませんね。学習者が「先生に宿題をあげます」と表現したときは、「宿題を出します」や「宿題を提出します」という言葉があることを紹介するといいでしょう。
逆に、「(?)日本人の友達は私に日本語を教えました」という状況では、日本人の友達に対して、感謝の気持ちがあるはずです。ですから「日本人の友達は私に日本語を教えてくれました」と言い直すことができます。
「に」なのか⁈「を」なのか⁈授受表現で重要な助詞問題
授受表現のときの助詞も学習者を惑わす要因の1つです。授受表現のときの助詞に注目してください。「人+に」「物+を」だけですか?
- (1) 私は 友達に チョコレートを あげました。
(1-A)私は 孫に おもちゃを やりました。
(1-B)私は 孫に おもちゃを買って やりました - (2)私は 友達に チョコレートを もらいました。
(2-A)私は 社長に お土産を いただきました。
(2-B)私は 社長に お土産を持ってきて いただきました。 - (3)友達は 私に チョコレートを くれました。
(3-A)社長は 私に お土産を くださいました。
(3-B)社長は 私に お土産を持ってきて くださいました。
これだけを見ると、「人+に」「物+を」が正しい助詞なんだと思ってしまいます。違うんですよ!
■[人]を連れて行く/連れて来る(例:私は友達を病院へ連れて行ってあげました)
■[人]を駅まで送る(例:社長は私を駅まで送ってくださいました)
■[人]を駅まで迎えに行く(例:私は孫を駅まで迎えに行ってやりました)
■[人]を招待する(例:社長は私を新年会に招待してくださいました)
このように「人+に」ではなく「人+を」になる動詞があるので要注意です。練習するときに、「人+を」になる動詞の説明を忘れずに!
基本の次に…徐々に授受表現の応用を教えよう
今回は授受表現の基本中の基本をまとめました。ですので、例文にはわかりやすいように主語を表記しましたが、実際の会話では毎回主語を言うことは少ないですよね。授業のときには、主語がない場合でも、意味が理解できるような練習が必要ですね。
基本ができてから、「私の妹はおじさんにペンをもらいました」のように、動詞は「もらいます」だけれども、主語が「私」でない場合や「国から奨学金をもらいました」のように助詞が「に」ではない場合の、ちょっとレベルアップした内容に移ってください。最初から教えると混乱するだけなので、避けてくださいね!
漫画やアニメが好きな学習者は「殺してやる!」なんて表現を耳にしているかもしれませんね。質問があっても答えられる準備をしないと…ですね。
なかなか習得が難しい授受表現ですが、まずは基本からゆっくりと学びましょう。
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