「~んです」には複数の意味があり、学習者がそれぞれの意味を理解して使うのは非常に難しいです。私たちも外国語を勉強するときは同じですね。ひとつの単語に複数の意味があると、覚えにくいものですね。どうしたら、覚えやすくなるのか?それは、学習者に「いつ・どの場面で使えるのか」を、的確に伝えることが大切です。
そして、意味が頭に残るよう、印象に残る導入を用意すること。理由を付け加えるときに使う「~んです」の導入。どうしたら、意味が印象に残るようになり、的確に伝えられるのか。教師歴17年目の私の方法をお伝えします。
導入の作り方
導入はその学習者、クラスに合ったものを用意すべきです。「そんなこと、養成講座でも習ったし、わかっているわ!」と言われてしまいそうですが…。教師になりたての方の教案をチェックした際、「え?この例文はいつ使うんですか?!」という例文を準備している方は多いんですよ…。
導入は、
- 学習者の朝から晩までのスケジュールを考えながら例文作成。
- 学習者の仕事やアルバイト、趣味などを考えて、例文作成。
- 導入は3種類ほど用意する。
この3つがポイントです。
導入を考える時、学習者の朝から晩までの生活の中で、どの場面で理由を付け加えるときに使う「~んです」が使えるか、考えます。学習者の生活スタイルがわからなければ、仕事やアルバイト、趣味などを考えて、使用場面がないか想像を巡らせます。例えば、次の4人の学習者がいたとします。どんな導入が考えられますか?
- 学習者1:海外で趣味で日本語を学習している学習者
- 学習者2:配偶者が日本人だから日本語を学習している学習者
- 学習者3:日本のアニメが好きな学習者
- 学習者4:食品会社社員の学習者
考えられる導入例文
学習者1:私は趣味で日本語を勉強しています。外国語の勉強が好きなんです。
学習者2:私は夫と日本語で話しません。夫は私の日本語がわからないんです。
学習者3:私は鬼滅の刃が好きです、ストーリーがとてもおもしろいんです。
学習者4:私の会社に日本製品があります。日本の食べ物は人気があるんです。
このように、学習者が違えば、導入で使う例文が違います。ですので可能な限り、学習者が実生活で使う例文を用意します。なぜこのように学習者に合わせて導入を考えるのか?それは、教科書に載っている例文より、自分や友だちが話題になっているもののほうが印象に残りやすいからです。
しかし、勘違いしないでくださいね。学習者全員分の導入を用意するわけではありませんよ。導入時に、話題にする学習者を選んでくださいね。そのときに、話題にする学習者を3人挙げ、導入を3パターン用意するのです。「3パターンも準備するなんて、面倒~!」「そんなにもアイデアが浮かばないよ~」
と思うかもしれませんが、話題にする学習者が欠席するかもしれません。一種類の導入では理解できない学生がいるかもしれません。念には念を、どんなアクシデントがあっても導入が失敗しないよう、準備しておくのです。
もちろん、「パーティーに行けない女の人」のイラストなどを使って、クラス全員に対して「 私は来週のパーティーに参加しません。都合が悪いんです。」という例文を提示することも可能ですが、これでは学習者が実際に発言できる内容でないため、印象に残らないのです。
ポイントは導入前
導入のポイントは導入前です。導入開始前から、導入が始まっています。どういうことか?!「海外で趣味で日本語を学習している学習者」がいるクラスで導入するとき、教師は教室へ入り、出欠席をとります。その後、すぐに導入に入り
教師:では今から授業を始めます。〇〇さんは趣味で日本語を勉強しています。外国語の勉強が好きなんです。
なんていう教師はいませんね。実際の授業では、出欠席を取り趣味で日本語を学習している学習者に
教師:事務所で、〇〇さんはみっつの国の言葉を話すことができると聞きました。本当ですか。
学習者:はい、本当です。英語とイタリア語と日本語です。
教師:仕事で使いますか。
学習者:いいえ、趣味です。
などという導入の前段階になる会話をし、その会話の流れで導入するのがベストです。「配偶者が日本人だから日本語を学習している学習者」を話題にして、導入する場合はどのような前段階の会話ができるでしょうか。
具体例
教師:この間、事務所で〇〇さんのご主人を見ましたよ。どうしてご主人が学校に来たんですか。
学習者:私を迎えに来ました。
教師:そうですか。優しいご主人ですね!習った日本語をご主人に言うんですか?
学習者:いいえ、日本語を話しません。
というような感じです。この前段階の会話では、学習者の注目を集めることが目的です。学習者に「あ、何かおもしろい話を始めたな。なんの話かな?」と思わせるのです。そうすれば、自然とその会話の後に行われる導入も注意して聞いてくれます。導入を考える時は、この前段階の会話も考える必要があります。
前段階の会話をするとき、私は笑顔で学生の話を聞いていますが、内心は「どうやって、会話を意図する方向に持って行くか??」を考え、必死です。ここでひとつ前段階の会話をスムーズにするコツを伝授します。それは、常日頃から学生の様子を気に留めておくこと。学習者に関しては、噂話好きのオバサン(オジサン)になることです。
私は学生の仕事やアルバイト、趣味はもちろん、持ち物などもチェックして、学生の好みを意識しています。チェックしようがない、初めての授業のときは名前、性別、年齢のほかに出身地(出身国ではない)もメモしています。学習者の母国の芸能ニュースなんかも、チラっとみておいたりします。どうぞ試してみてください。
まとめ
導入を考える時は、
これがポイントです。文化や習慣の差を例文に使うのもアリです。
遅刻しました。雨が降っていたんです
日本人の心の声:(日本では、雨が降ったのは遅刻原因にならないよ)
COVID19が流行する前なら、
学校を休みました。せきが出たんです。
日本人の心の声:(え?せきだけで休んだの?そんなにひどかったの?!)
というように、文法は正しいけれど、日本人は違和感覚えるような文章を提示するのも、場が和みます。落語が枕部分から始まり、本編に入る。聞き終わったら、ストンと内容が心に入ってくる。そんな感じで、導入から練習に繋げ、授業が終わったときにストンと文法が理解できている。そんな授業はいかがでしょうか?
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