『みんなの日本語』教案どうやって作る?初心者必見!書籍紹介―第1回文法分析編

新人日本語教師のみなさん、こんにちは。

みなさんはどうやって教案を考えていますか?

筆者が日本語教師になりたてのとき、『みんなの日本語』を使って教えることになったのですが、授業準備でパニック状態に陥りました…。

  • まず、『みんなの日本語』本冊を眺めても、何をどう教えたらいいのか、分からない。
  • さらに、『みんなの日本語』には補助教材がたくさんあるのですが、何が何やらさっぱり。

とりあえず『教え方の手引き』をコピーして帰り、他の補助教材については、何か月、何年もかけて手探りで開拓していきました。

あれから10年余り、『みんなの日本語』を繰り返し教えるうちに、筆者なりの授業準備のノウハウができました。

そこで、「○○したいときはコレ!」という選りすぐりの教材を、授業準備の順番に沿って、ご紹介していきたいと思います。

第1回のテーマは、教案を書く前の「文法分析に役立つ書籍」。

どれも筆者が実際に参考にしている教材ばかりです。

目次

『みんなの日本語』教案作成にはまずこの1冊!『教え方の手引き』活用法

『みんなの日本語』で教えるにあたって、真っ先に手元に揃えたいのが『教え方の手引き』です。

『教え方の手引き』を見ると分かること、それは…

  1. 学習目標
  2. 新出語彙と『みんなの日本語』における語彙導入の留意点
  3. 文型の教え方
    1. 意味・接続
    2. 導入例
    3. 練習の流れ
    4. 『みんなの日本語』における文型導入の留意点
  4. 会話の教え方

まさに『みんなの日本語』で教えるためのポイントが丸わかりの、日本語教師のための「虎の巻」なんです。

日本語教師になって10年以上経つ筆者も、初めて教える文型に当たったときなど、不安になるとすぐに手に取るのが、この『教え方の手引き』です。

ここでは『教え方の手引き』の活用法を2つご紹介します。

『教え方の手引き』活用法①―導入のポイントを知ろう!

『教え方の手引き』では、『みんなの日本語』で学習する全文型の導入例が載っています。

新米だったころの筆者は、『教え方の手引き』に載っている導入をとにかく真似することで必死でした。

でも、それぞれの導入例はあくまでも例。

どうしてそういう導入になるのか、『みんなの日本語』では何を教えようとしているのか、導入のポイントに目を向けることが大切なんです。

例えば、『みんなの日本語』第1課の文型「~は<名前>です」の導入例は、次のようです。

  1. 教師と学習者のネームプレートを準備
  2. ネームプレートを持って「わたしは <名前>です」を各自言わせて導入

ここでの導入のポイントは、「『わたしは○○です』の『○○』には自分の名前を入れる」ことを学習者にいかに理解してもらうか。

ネームプレートは「『○○』には自分の名前を入れる」ことを伝えるための道具にすぎません。

「『○○』には自分の名前を入れる」ことが伝われば、ネームプレートの代わりに名刺交換をしてもいいし、もっと他のアレンジを考えたっていいんです。

『教え方の手引き』活用法②―基本を押さえて「私ならでは」の授業に

『教え方の手引き』で導入のポイントが分かったら、どんどん自分なりのアレンジを加えて、「私色」の教案を考えてみましょう。

筆者は、実際に教える学習者の顔を思い浮かべながら教案を考えることが多いです。

筆者がよくやるアレンジ方法、それは…

  • 学習者が興味を持っていること、学習者に身近な話題を取り入れる
  • 新出文型を使って話したくなる状況を作り出す

例えば、『みんなの日本語』第1課の「~は~人です」の導入は、『教え方の手引き』に次のような例が示されています。

  1. 教科書の登場人物の絵の中から「ミラーさん」の絵を見せる
  2. 「ミラーさん」の絵をアメリカの地図に移動させながら、「ミラーさんはアメリカ人です。」を導入

この導入のポイントは、「人」と「国」を結びつけて、「~は~人です」は「出身国を言うときに使う」ことを学習者に理解してもらうこと。

そこで例えば、事前に学習者の名前が分かっていて、学習者の顔写真を撮ることができる場合、「ミラーさんの絵」を学習者の顔写真に、「アメリカ」を学習者の出身国に変えて導入するのはどうでしょう?

「学習者に身近で、学習者が言いたい話題」になり、ぐっと導入が楽しくなるはず。

『みんなの日本語』の教案をワンランクアップ!『翻訳・文法解説』のススメ

『教え方の手引き』と一緒に筆者がよく参考にするのがコレ!『翻訳・文法解説』。

英語版をはじめ、中国語版やベトナム語版など13か国語とローマ字版がある、その名の通り、『みんなの日本語』を各国語で翻訳し、文法の解説を載せたものです。

留学生が自分の国から持って来て、よく授業中に開いているのもこの『翻訳・文法解説』。

『翻訳・文法解説』を見ると分かること、それは…

  1. 課ごとの新出語彙とその各国語訳
  2. 課ごとの文型・例文・会話の各国語訳
  3. 合わせて覚えておくと役に立つ語彙とその各国語訳
  4. 課ごとの文型・表現の各国語版解説

授業準備で文法分析をするときに、おススメしたいのが、④課ごとの文型・表現の各国語版解説です。

でも、『教え方の手引き』だけではダメなの?

ここからは『翻訳・文法解説』と『教え方の手引き』との違いを中心に、どうして『翻訳・文法解説』をおススメするのかをご紹介します。

『教え方の手引き』VS『翻訳・文法解説』―違いは学習者目線の分かりやすさ

『教え方の手引き』と「翻訳・文法解説』の大きな違いとは何でしょうか。

『教え方の手引き』と『翻訳・文法解説』の違い、それはズバリ、「誰のための書籍か」という「書かれた対象」です。

『教え方の手引き』は、教師が授業準備のときに参考にできるように書かれたもので、教師のための書籍。

『翻訳・文法解説』は、学習者が自習できるように書かれたもので、学習者のための書籍。

『本冊』で扱う文型・表現の解説が載っているという点では、『教え方の手引き』も『翻訳・文法解説』も同じですが、『翻訳・文法解説』のほうが、学習者を対象に編集されている分、解説が分かりやすいという利点があります。

比較①文法説明が違う

『翻訳・文法解説』の文法説明は、とっても見やすくて分かりやすいのが特徴です。

例えば、『みんなの日本語』第1課の文型「~は~です」の場合だと…

『教え方の手引き』の場合、「~は~です」の説明に費やしているページ数は2ページ弱

「~は<名前>です」に始まり、「~は~人です」、「~は<身分・職業>です」それぞれの導入例と注意点が詳しく解説されています。

ただし、助詞「は」と「~です」の説明はごくごく簡単。助詞「は」は主語を表すこと、名詞に「~です」をつけると述語になるという説明が1文だけ。

一方『翻訳・文法解説』では…

『翻訳・文法解説』の場合、「~は~です」の説明は半ページにも満たない分量です。

学習者が対象の書籍なので導入例はありません。

でも、助詞「~は」と「~です」の説明は分かりやすい!助詞「~は」は主題を表すということについて、『教え方の手引き』よりも詳しく解説してあるほか、「は」と書いて「わ」と発音することも書き添えられています。

まさに、学習者目線の分かりやすさ。

『教え方の手引き』に加えて、『翻訳・文法解説』にも目を通しておくことで、「『は』と書いて『わ』と発音することを教えなければ」といった、『教え方の手引き』にはないポイントをチェックすることができます。

比較②扱っている文法項目が違う

『翻訳・文法解説』で扱われている文型と『教え方の手引き』で扱われている文型は、実は100%同じではありません。

『教え方の手引き』で扱われていない文型が『翻訳・文法解説』に出てくることって、結構多いんです。

例えば、『みんなの日本語』第1課の場合。

『翻訳・文法解説』では、所属を表す「~の~」(例:○○社社員)と「名前+さん」(例:ミラーさん)が個別に解説されています。『教え方の手引き』にはありません。

『翻訳・文法解説』にも目を通しておくことで、「『教え方の手引き』には載ってないけど、忘れずに教えておくべきポイント」が分かります。

『翻訳・文法解説』を読むことで得られるメリット

いかがでしょうか。『教え方の手引き』だけでなく、『翻訳・文法解説』にも目を通しておくことで、より分かりやすく、学生の目線に立った教案が書けそうですよね?

『翻訳・文法解説』を読むことで得られるメリットは、以下の通りです。

  1. 『教え方の手引き』の文法説明にはない、学習者にとって難しい学習ポイントが分かる。
  2. 『教え方の手引き』では扱っていない、学習者に教えるべき文法が分かる。

それから、1.と2.のメリットを通して得られる最大のメリットが…

  1. 学習者に安心感を与えることができる。

筆者が教えているクラスでは、国から持ってきた『翻訳・文法解説』を広げて授業を聞いている学習者をたくさん見かけます。

『教え方の手引き』だけに沿って授業をしていると、学習者が「あれ?先生、教えてない文法があるんですけど?」という反応をすることが…

それは、『教え方の手引き』と『翻訳・文法解説』の内容に差があるから。

「習っていない文法」があると、学習者は不安になりますよね?

『翻訳・文法解説』にも目を通しておくことで、こういった「習っていない文法がある」という事態を防ぐことができます。

『翻訳・文法解説』は、日本語教師にとっては外国語で書かれているので、手に取りにくく感じるかもしれません。

でも、もし日本語以外に分かる言語があるのなら、一度目を通してみてください。

『みんなの日本語』補助教材だけでは物足りない!文法分析に役立つ必携ハンドブック2選

ここからは、『みんなの日本語』の補助教材を離れて、日本語教師ならぜひ手元に持っておきたい、おススメのハンドブックをご紹介します。

『みんなの日本語』の補助教材『教え方の手引き』と『翻訳・文法解説』は、どちらも『みんなの日本語』本冊に沿った、文法のポイントが分かる優れモノですが、教える文法によっては、もっと深く文法分析をしたくなることも。

以下でご紹介する2冊は、より深く日本語の初級文法を知りたくなったとき、筆者がいつも頼りにしているハンドブックです。

文法ごとの解説が分かりやすい!『初級日本語文法と教え方のポイント』

教案を書いていて、初級文法についてもっと知りたくなったとき、筆者が真っ先に手に取るのが、『初級日本語文法と教え方のポイント』です。

『初級日本語文法と教え方のポイント』のいいところは、何といってもすっきり、分かりやすく、それぞれの文法について解説してあるところ。

文法ごとの構成は以下の通りです。

  1. 例文
  2. 学習者はどこが難しいか、よく出る質問例
  3. 学習者の誤用例
  4. 文法の説明
  5. 教え方の例

「~は~です」や「~の~」といった文法ごとに、学習者が間違いやすいポイントやそれを踏まえた具体的な教え方が解説してあります。

学習者の誤用って、『みんなの日本語』の補助教材では特に解説がないのですが、教室ではしょっちゅう遭遇するもの。

『初級日本語文法と教え方のポイント』では、学習者の誤用から効果的な教え方を提案するというアプローチを取っているので、すぐに実践につなげられます。

『みんなの日本語』をはじめとする主要初級教科書の何課に該当する文法が出ているか、「対応表」がついているのも、嬉しいところです。

日本語がより深く分かる!『初級を教えるための日本語文法ハンドブック』

「この文法ってどういう意味なんだろう?」とか、「この文法とこの文法は何が違うんだろう?」というように、具体的な教え方というよりは、その文法そのものについて分析を深めたくなったとき。

『初級を教えるための日本語文法ハンドブック』は、文法分析を深めたいときに最適のハンドブックです。

教科書に出てくる具体的な文法はもちろん、動詞、名詞などの「品詞」や「活用」など、日本語全体の基礎的なことについて、詳しく解説してあります。

構成は、

  1. 最低限知っておきたい知識
  2. 知っておくと役に立つ知識
  3. 理論的な解説

の3段階で、自分にとって必要な情報を選んで読みやすい!

これから教えようとしている文法について、理論的にどうなっているのか、しっかり裏付けをしておきたいとき、とても役に立つ1冊です。

今回は授業準備で、教案を書く前の文法分析で筆者がよく参考にしている書籍を4冊ご紹介しました。

筆者の場合は、次のような順番で書籍を参考にすることが多いです。

  1. 『教え方の手引き』:教案作成の方針を立てる
  2. 『翻訳・文法解説』:必要なポイントを補う
  3. 『初級日本語文法と教え方のポイント』:効果的な教え方について、もっと情報収集したいとき
  4. 『初級を教えるための日本語文法ハンドブック』:文法について理論的な裏付けがほしい、もっと深く知りたいとき

ぜひ皆さんも参考にしてみてくださいね。

次回は、文法導入の絵カードを準備するときにおススメの書籍を紹介していきたいと思います。

それでは、また次回お会いしましょう。

<参考文献>

  • スリーエーネットワーク編著『みんなの日本語初級Ⅰ 第2版 教え方の手引き』スリーエーネットワーク
  • スリーエーネットワーク編著『みんなの日本語初級Ⅰ 第2版 翻訳・文法解説 英語版』スリーエーネットワーク
  • 市川保子著『初級日本語文法と教え方のポイント』スリーエーネットワーク
  • 松岡弘監修、庵功雄、高梨信乃、中西久実子、山田敏弘著『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク
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