1ヶ月しかない技能実習生の日本語授業!効率よくするための3つのポイント

こんにちは、ライターの安達です!今は外国の大学で日本語を教えていますが、以前は日本で教えていました。

その時に外国人技能実習生(以下、「技能実習生」とします)の授業も担当していたんですが、一般的な留学生の授業に比べて大変なことが多かったです。

  • 日本での授業期間が1ヶ月しかないとか、
  • 技能実習生間での日本語レベルに大きな差があるとか、
  • さらに日本語教師1人につき50人以上の技能実習生を担当しないといけないとか……!

主にベトナム人技能実習生を多く指導していたので、本記事での「技能実習生」はベトナム人技能実習生を元にしています。が、ほとんどの部分が他の国の技能実習生にも共通するので、技能実習制度に関わるたくさんの人に読んでほしいです!

技能実習生にとって必要な知識は何か?それをどう教えたらいいのか?かなり具体的に書きました。ちょっとした工夫で短期間の授業でもグッと効果的になります。ぜひ参考にしてくださいね。

目次

技能実習生の日本語授業

これを読んでくださっている方の中にはすでに技能実習生に日本語を教えているという人も多いと思いますが、知らない方のために技能実習生について日本語教育に関する事柄だけを簡単に説明します。それ以外のことももっと詳しく知りたいと言う方はぜひJITCO厚生労働省のウェブサイトをご参照ください。

日本語授業期間

まず、日本語授業期間についてです。全員同じ日数というわけではなく、技能実習生の実習期間(実際に仕事を行う期間)や母国での事前講習の期間によって多少変わります。

本記事では最も多い「約1ヶ月」を前提としています。しかもこの期間はフルで日本語教育に使えるわけではなく、日本での生活ルールや交通ルール、そして実務に関する講習も行われます。日本語教育に割ける時間は3週間といったところです。

そして、日本語教師は授業計画を立てなければなりませんが、技能実習生は留学生のように入国の時期が決まっているわけではありません。

日本での実習先のスケジュールに合わせて入国するのでその時期は結構ばらばらです。例えば

  • 技能実習生Aさんが入国して2週間経った頃に、技能実習生Bさんが新たに入国
  • 教師はAさんの授業スケジュールの中盤で同時にBさんの授業をスタートさせる

といった状況になることもよくあります。

日本語レベル

また、技能実習生の日本語レベルは個人差が本当に大きいです。母国で日本語を一定期間勉強してから入国ということになっていますが、「とりあえず授業に出席していただけ」で全く日本語が理解できないという人もいます。

技能実習生の授業の効率と効果を上げるちょっとした3つの工夫

このように、技能実習生に対する日本語授業は難題が山積みです。先生達は日々試行錯誤を繰り返しながら工夫を凝らした授業をしています。

私もより効率がよくて効果的な授業を目指して、ありとあらゆることを試してきました。その中でも特にやってよかったことを以下にまとめたので参考にしてください!

授業ポイント①プレイスメントテスト

プレイスメントテスト、要はクラス分けテストです。「クラス分けも何も1クラスしかないよ!」という人もいるでしょうが(実際私がそうでした…苦笑)、技能実習生の日本語レベルをざっくり確認するためのものです。

テスト作成時のポイントは、

  • 1時間以内に回答できる形式にする(入国後に技能実習生が日本語の授業を受けられる時間は短い!)
  • 問題は4択で出題(記述式の問題ばかりだと考え込んでしまい時間内にきちんと答えられないという人もいる)

内容は『みんなの日本語』の語彙・文法を1課から順番に出題していたので、回答を見れば習得度が一目で分かるようになっていました。

もちろん、時間が十分にあって技能実習生1人1人とじっくり面談をすることができるならそれに越したことはありません。でも、何十人単位で次々に入国してくるといった場合は是非プレイスメントテストを活用して、さくっとクラス(またはグループ)分けをしましょう。

授業ポイント②文法は10個だけピックアップ

そして2つ目のポイントは文法の取捨選択です。あれもこれもと教えたくなりますが、「これだけは必ず覚えて欲しい!」という文法は10項目に絞りましょう。

どの文法を教えるのか、ということですが、実習先から指定がある場合はそれを優先します。ですが、大抵の場合「日常会話ができればいい」というようなことしか言われませんよね…

そこで、私は実際にいくつかの実習先に見学に行き、日本人がどのような文法を使って技能実習生に指示を出しているのかを聞いてきました!!その結果わかった、「実習先でよく使われる日本語表現」は、下記のとおりです。

  1. ~てください
  2. ~ないでください
  3. ~ておく
  4. 授受表現(あげる、もらう、くれる)
  5. ~なくて(ないで)いい
  6. ~ないといけない
  7. 普通体
  8. 可能形
  9. 命令形
  10. 禁止形

1日7~8時間の日本語授業を約3週間行うと考えると、文法10項目は少なく感じるかもしれませんね。でも1つの文法でも実際に日本人が話す時にはいくつかバリエーションがあります。

授業のポイントは、1つの文法から、日本人が話すときに使うバリエーションまで教えること!

例えば依頼する時に言う「~てください」は日本人から技能実習生には「~て」とだけ言われることが多かったし、「~ておく」も「〇〇しといて」のように使われていました。

文法の基本の形を教えた上で、実際の会話で使われているいくつかの応用表現も教えなければなりません。しっかり教えようと思えば10個の文法はむしろ多すぎるくらいです。

技能実習生はこの他にも実習で使う専門用語などを覚えなければならないので、10個すべて教えるのが難しそうなら少し減らしたりしていました。

彼らはよく理解していなくても「大丈夫です、分かりました」と言いがちなので、一度授業で教えた文法や語彙であっても何度も繰り返し教えてしっかり定着させましょう。

授業ポイント③カルタで覚える専門用語

先程少し書いた「専門用語」についてですが、これも日本語教師が教える場合がほとんどだと思います。もちろん実習で使う道具などの現物を見せてあげられるならそれに越したことはないんですが、職種によっては現物を教室に用意するのが難しいこともあります。そんな時、私はカルタを作っていました。

文法は講義形式で教えて、専門用語はゲーム性をもたせて教えます。メリハリのある授業だと技能実習生も長く集中して取り組んでくれるんですよね。

カルタの作り方は絵カードと同じです。厚紙に専門用語を表す絵や写真を貼って、その裏に日本語と各言語の対訳を書くだけで完成です。教師が専門用語を読み上げて、技能実習生が該当するカードを取ります。

また、裏にそれぞれの言語で訳が書いてあるので、教師と一緒にカルタ取りをするだけでなく自習もできます。職種が同じ技能実習生が複数人いる場合は実習生同士で問題を出し合ったりすることもできますよね。

技能実習生の実習先での「わからない」はなぜ起こる?理由と予防策

技能実習生は約1ヵ月の日本語講習を経て実習先へと旅立つわけですが、教室では難なく聞き取れていた日本語が実習先では分からなくなってしまった、という人がいます。

理由は2つあります。

  1. 日本語教師の発話にしか慣れていなかったこと
  2. 日本語の意味は分かるけど言葉の意図が分からない=あいまいな表現で指示を出されること

どちらも「長く一緒に働いていると分かるようになる」と言ってしまえばそれまでなんですが、できれば最初からスムーズに実習ができるようにしたいですよね。私が行ってきた対策を以下にまとめました。

色々な日本人と交流

日本語教師はどうしても、学習者にとって理解しやすい日本語で話してしまいますよね。ただ、技能実習生と一緒に仕事をする日本人が話す日本語と日本語教師のそれとはかなり違っている場合がよくあります。

ですので、教師以外の日本人と交流するのが一番の近道です。例えば…

  • 実習先の人と毎週10分程度テレビ電話などで話す時間を作る
  • 地域の市民センターで飛び入り参加OKのクラブを見学させてもらう

…など、色々な方法があります。時間がある時は教室に地域の方を招いて茶話会や料理教室などを開催していました。

技能実習生が色々な人の日本語に触れることが大事なので、わざわざ人数を集めて交流会という形でなくともテレビ番組やYouTubeの動画を活用してもいいですね。

あいまいな表現の指導

一言であいまいな表現と言っても、範囲が広すぎて何をどう教えたらいいのか分からず途方に暮れてしまいますよね。

ですが、あいまいな表現は技能実習生と日本人のコミュニケーション上のトラブルになることが多いんです。そこで、私は何とか解決できないかと調査をしました。

まず、すでに実習を開始している技能実習生に「聞き取れなかった(聞き取りづらかった)日本語」についてインタビューをし、その中からあいまいな表現の事例を取り上げました。

比較的多かったのは日本人側が何かを頼む時と注意する時に使われる表現でした。
例えばですが、作業するところを掃除してほしい時「掃除してください」とは言わずに「ここ汚いね」とか「ちょっと散らかってない?」などのように言う人もいます。

すぐに理解して掃除を始める技能実習生もいますが、中には「そうですね、汚いですね」と言うだけの人もいます。この場合日本語の意味は理解できているんですが、日本人にとっては思うような反応が得られないので「この技能実習生は日本語が分からない」となってしまいます。

本当は実習先の日本人にも「技能実習生にとって理解しやすい日本語」について知ってもらえればいいんですが、それもなかなか難しいですよね。

それで、技能実習生への指導ですが、私は自作の短い動画を作って授業で見せていました。

こんな感じで、実習に即して作業中の場面に設定した動画です。動画では女性が「ハサミどこ?」と前に座る男性に尋ねます。これを見せて「あなたがこの男性だったらどう答えますか?どんな反応をしますか?」と質問をするんです。

そこで技能実習生の回答と、良しとされる反応を照らし合わせて説明します。この場合「ハサミを渡す」ですね。

ただ、あいまいな表現については個人差も大きく、絶対的に正しい答えというものはありません。ですので「こういう場合もあるよ」という程度に説明します。

私の経験ですがベトナム人技能実習生は勘が良い人も多く、あいまいな表現の真の意図を汲み取って行動できる人が多かったです。それでもやはり理解しにくい場面もあります。様々な場面を想定した動画をいくつか見せて説明することでギャップを少しでも埋めていきましょう。

あいまいな表現指導のポイントは「違いを楽しむ」ことです。日本で実習をするんだから技能実習生が日本人に合わせるべきだという考えの人もいるでしょうが、私は否定するのではなく「こんなところが違うんだね」と前向きに捉えられるような指導を心がけていました。

ちなみに、自作の動画は決して面白くはないのに何故か毎回技能実習生たちにウケていました。教室が和やかな雰囲気になるのでお勧めです。いつか別の機会に全ての動画を公開できればと思っています。

技能実習生のための「楽」な日本語授業をして、短期間で効果を上げよう!

このように、技能実習生への日本語指導は短期間なのに教える内容が多すぎるという問題がありますが、彼らにとって必要なものとそうでないものを把握することで指導が楽になります。

彼らにとって一番重要な目的は、日本でたくさんの技能や技術を身につけ、無事に国へ帰ることです。それなのに実習前の日本語授業が精神的な負担になってしまうのは本末転倒ですよね。

「楽=教師の手抜き」ではなく、技能実習生の負担を少しでも減らすための工夫です。今後技能実習生だけでなく外国人労働者の数は増加することが予想されます。彼らにとっても日本人にとっても、よりスムーズなコミュニケーションのために、本記事がたくさんの人の参考になれば幸いです。

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