【外国語教授法を知って深みのある授業をしよう④】直接法③オーラル・メソッドと直接法

日本語教師の皆さん、こんにちは。

今回のテーマは「外国語教授法」です。

「外国語教授法」とは「効果的に外国語を習得するために先人たちが編み出した方法」。だから、「外国語教授法」を知っておくことは「自己流ではない、理論的に裏付づけられた授業運営」、「より深みのある授業運営」につながるはず。

そこで、日本語教師養成講座で「教授法概論」を担当した筆者が、先人たちの知恵を活かそうと書き始めた「外国語教授法を知って深みのある授業をしよう」シリーズも今回で4回目です。

更新の間隔が空いてしまい、大変恐縮です……

文法翻訳法から時代順に見てきた「外国語教授法」ですが、今回見ていくのは「オーラル・メソッド」と「直接法」。どちらも日本語教育に携わる人には特に身近な「外国語教授法」と言えるでしょう。

それでは、早速「外国語教授法」の世界を見ていきましょう。

目次

これも広義の「直接法」オーラル・メソッドって何?-「使える!」を目指した外国語教授法

今回まず見ていくのは「オーラル・メソッド」(Oral Method)です。

「オーラル・メソッド」の特徴は以下の2点であると言うことができます。

  1. 「使える!」を目指した外国語教授法
  2. 「日本語教授法」のもとになった外国語教授法

それでは早速それぞれの特徴について見ていきましょう。

オーラル・メソッドとは?「言語運用」を目指した外国語教授法

オーラル・メソッドは、20世紀に入って提唱された外国語教授法です。

提唱したのは、パーマー(Harold. E. Palmer, 1877-1949)。イギリス出身の音声学者であり、語学教育家でもあります。

パーマーが影響を受けたのは、スイスの言語学者ソシュール(Ferdinand de Saussure)。ソシュールの考え方は以下のようなものです。

・言語能力「ランガージュ」には、社会的側面「ラング」と個人的側面「パロール」がある

ソシュールの影響を受けたパーマーは以下のことを提唱しました。

  • 言語には「記号の体系」(「ラング」に該当)と「運用」(「パロール」に該当)がある
  • 言語教育の対象は「運用」であるべきである

「ラング」とは、ある社会の成員が共有する文法・語彙・音声などの規則のこと。例えば、私たちが日本語で話してコミュニケーションが取れるのは、日本語を話す人たちが共通の規則を持っているからです。「ラング」は具体的な話し手・場面には依存しません。

「パロール」とは、個人個人が具体的な場面で使用する言葉のこと。「ラング」に依存していますが、話し手・場面によって異なります。

パーマーが目指したものは「運用」=具体的な場面での言語使用。つまり、「使える!」を目指した外国語教授法であると言えるでしょう。

パーマーによる言語学習の5習性・7つの練習活動

パーマーは外国語を使えるようになるためには、「言語学習の5習性」を身につける必要があるとしました。

「言語の5習性」とは以下のようなものです。

  1. 耳による観察
  2. 口まね(①耳で観察したものの模倣)
  3. 口慣らし
  4. 意味づけ
  5. 類推による作文

耳で聞いて、真似てみることから始め、自分でルールを探して使えるようになっていく……「言語の5習性」は幼児が母語を習得していくプロセスでもあります。

そして、「言語の5習性」を身につけるために、パーマーは「7つの練習活動」を提唱しました。「7つの練習活動」とは以下のようなものです。

  1. 音を聞き分ける練習
  2. 発音練習
  3. 反復練習
  4. 再生練習
  5. 置換練習
  6. 命令練習
  7. 定型会話

幼児の母語習得のプロセスを再現し、たくさんの練習をすることによって、知識を身につけるのではない、言語の「運用能力」を伸ばそうとしたのです。

オーラル・メソッドと長沼直兄―日本語教授法の開発

パーマーによる外国語教授法「オーラル・メソッド」ですが、日本語教育に大きな影響を与えた外国語教授法でもあります。

パーマーはロンドン大学で外国語教育に携わっていましたが、1922年、文部省の招きを受けて日本へやって来ます。来日後、15年にわたって、日本で英語教育の普及に尽力します。

来日したパーマーに協力したのが長沼直兄(1894年~1973年)。長沼直兄は、パーマーの理論をもとにして日本語教授法を開発しました。

もし、パーマーの「オーラル・メソッド」がなかったら、現在の日本語教育はなかったのかもしれませんね。

私たちに身近な外国語教授法「直接法」―二通りの「直接法」を知ろう

ここからは次の外国語教授法「直接法」(Direct Method)についてご紹介します。

「直接法」と一口に言いましたが、実は2通りの「直接法」があります。

  1. 一般的な「直接法」の定義
  2. 日本における「直接法」

それでは、さっそく「直接法」について見ていきましょう。

一般的な「直接法」の定義―○○な外国語教授法の総称

突然ですが、皆さんは今読んでいる、この記事のタイトルを覚えていますか。

はい、『【外国語教授法を知って深みのある授業をしよう④】直接法③オーラル・メソッドと直接法』ですよね。

「直接法③」と言っておいて、その中身は「オーラル・メソッド」と「直接法」。一体どういうこと?

筆者が記事のタイトルに「直接法」を繰り返し使っているのには、ちゃんと理由があるんです。その理由とは、ズバリ「一般的な直接法の定義」です。

「直接法」というのが、ある独立した外国語教授法のことを指すのかどうかというのは明確には決まっていないのですが…

「直接法」の一般的な定義は以下の通りです。

・ナチュラル・メソッド、フォネティック・メソッド、オーラル・メソッドなどの総称

だから、「直接法」の中に「ナチュラル・メソッド」や「フォネティック・メソッド」などを入れるようなタイトルをつけたわけです。

では、「ナチュラル・メソッド」、「フォネティック・メソッド」、「オーラル・メソッド」の共通点とは?
・使われる場面、状況を提示し、文や語の意味を直接、目標言語の形式と結びつけて理解させようとすること

つまり、直接法とは、「場面・状況を示すことによって、(なるべく)母語に翻訳することなく、目標言語を身につけることを目指した外国語教授法の総称」ということができるんです。

日本における「直接法」とは?私たちにとって身近な教え方

ところで、「直接法」という用語は日本語教育の現場では一般的な定義とは違う、独自の使われ方をしています。

日本語教育の現場における「直接法」の意味とは以下の通りです。
・媒介語を使用しない教え方

一般的な「直接法」の定義とは違い、単純に「媒介語を使用しない=日本語で日本語を教える」ことを日本語教育の現場では「『直接法』で教える」と言っているんです。

「日本語で日本語を教える」これって、筆者含め、国内の日本語学校で教えている人が日常的にやっていることですよね。

日本における「直接法」は私たちにとって身近な教え方なんです。

「直接法」の指導方針

それでは、「直接法」の指導方針とはどういったものなのでしょうか。

「直接法の指導方針」は以下の6点です。

  1. 語彙・表現の意味は、「実物」、「絵」、「写真」、「ジェスチャー」などで伝える
  2. 文法・用法は説明せずに例文を使って理解を促す
  3. 教師は学習者の母語を使って説明しない
  4. 媒介語を使わないので、クラス内の学習者の母語が共通でなくても問題はない
  5. 抽象的な意味の語彙は中級以降、既習語彙を使って教える(初級では教えない)
  6. 文字教育は会話能力向上後に実施する(音声重視)

う~ん、どれも身近。国内の日本語学校ではいつもやっている(目指している)ことですね。

「直接法」メリット・デメリットを知って賢く活用しよう

ここからの話も恐らく皆さん、普段感じていることではないかと思うのですが、「直接法」にはメリットもあれば、デメリットもあります。

「直接法」のメリット・デメリットを知っておくことは、学習者の特徴やクラスの構成などによって、具体的な教え方を考えることにつながります。

「直接法」のメリット

「直接法」のメリットとしては、例えば以下のようなことが挙げられます。

  1. 媒介語を使わない→学習者が目標言語に接するチャンスが多い
  2. 翻訳しない→目標言語で考える習慣ができる
  3. 口頭訓練中心→聴解・会話能力が向上する

学習者が日本語にたくさん触れられて、日本語で考えるようになり、日本語を聞いたり話したりが上手になる…本当にこうなったらステキですよね。

「直接法」のデメリット

「直接法」のデメリットとしては、例えば以下のようなことが挙げられます。

  1. 媒介語を使わない→意味説明が回りくどい、正確に伝わりにくい
  2. 説明、例文提示のため、教師がたくさん話す→学習者の発話時間が減る
  3. 目標言語だけで教える→教師の負担が大きい
  4. 初期段階で文字教育を行わない→失望する学習者が出てくる

いかがでしょうか。①「説明が回りくどい、正確に伝わりにくい」←身につまされます……

教師の説明が伝わらなかったときって、学習者同士「どういう意味なの?」母語でざわつくきっかけになってしまいますよね。

いかに効果的な例文を提示して、学習者に「分かった!」と思ってもらうか……筆者がいつも授業準備のときに頭を悩ませていることです。

説明するのが難しい分、一度でストンと学習者に分かってもらえたときの達成感(なかなか味わえない)ったらないですけどね。

「直接法」にはメリットもあるけど、デメリットもあり、実際の日本語教育の現場では純粋な「直接法」を採用せずに折衷法を採用することもあります。

純粋な「直接法」と折衷法を一覧表にすると以下のようになります。(媒介語を使用する場合:「〇」、媒介語を使用しない場合:「×」)

純粋な「直接法」折衷法①折衷法②
教師による媒介語の使用××
教材における媒介語の使用××

純粋な「直接法」では媒介語を一切使わない(ひたすら日本語だけを使って、学習者の母語は使わない)のですが、折衷法では教師または教材のどちらかで媒介語を使用します。

国内の日本語学校でよく採用されているのが、折衷法①。教師は日本語しか話さないけど、教材では学習者の母語も使うという方法です。

例えば『みんなの日本語』では、補助教材に各国語版『翻訳・文法解説』があって、語彙の意味など、学習者は自分の母語で確認しながら授業を聞くことができますよね。

折衷法②は、例えば海外の中上級クラスなどで採用されることがあります。学習者にとっては母国で日本語を学習しているんだけど、教材は日本で作られたもので翻訳なし。でも先生は母語で説明をしてくれるといった場合が当てはまります。

確かに母語の使用を適宜認めると、説明が回りくどくなりすぎずに理解が早く進むというメリットがありますよね。ただし、一方で結局母語に頼りすぎて目標言語(日本語)の練習時間が減るということもありうるので、さじ加減が重要です。

また、「直接法」は学習に時間がかかる分、急いで日本語を身につけたい人(身につけなければならない人)には不向きな部分もありますので、やはり調節が必要です。

今回は「オーラル・メソッド」と「直接法」についてご紹介しました。外国語教授法を知って、ぜひみなさんの授業運営に役立ててみてくださいね。

<参考文献>

  • 小林ミナ(2019)『日本語教育 よくわかる教授法―「コース・デザイン」から「外国語教 授法の史的変遷まで』アルク
  • 佐々木泰子編(2019)『ベーシック日本語教育』初版9刷、ひつじ書房
  • 高見澤孟・大島弥生(2008)『日本語教授法Ⅰ』(NAFL日本語教師養成プログラム2)改訂 2版第2刷、アルク
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