こんにちは、SenSee編集部のいのっちです!
いのっちが日本語学校で働く前に疑問だったこと「イスラム教徒の学習者への対応ってどうしてるの?」でした。
私はマレーシアに住んでいたことがあるのですが、その時の友人たち、めちゃくちゃ厳格なイスラム教徒だったんです。
断食(ラマダン)期間中、一緒に出かけても水一滴飲みません。山登りなのに・・・!!それどころか唾も飲み込んじゃだめだと教えてくれました。
基本的な知識が浅いまま、厳格なイスラム教徒の友人たちに出会った私。帰国後日本語学校で働くことになって、頭を抱えました。どうやって対応するの!?
基本的な知識やイスラム教徒の学習者に対して気をつけるべきことを知っていればその不安は解消されただろうな~と思います。
その辺について、内藤先生が「イスラム教徒の学習者を教えることになったら!?知っておきたいイスラム教のこと」の記事でバッチリ書いてくれています。
日本語教師なら知っておきたいことがまとめられています。当時の私に教えてあげたいぐらい分かりやすいです。まずはこちらでイスラム教徒の学習者について知識をゲットしましょう!
日本語学校での対応やイスラム教徒の学習者を知って、学習者への理解を深めましょう。きっとみなさんが初めて耳にするような事例も。知って不安が減ると学習者対応がスムーズになるはずですよ!
同じイスラム教徒の学習者でも・・・?
みなさんは、イスラム教徒と聞くとどんなことをイメージしますか。
以前の私のように厳格なイスラム教徒を考えたり、または身近にいないからニュースでしか見たことがなかったりって方もいるかもしれません。
実は、同じイスラム教徒でも国や住んでいる地域、年齢や性別、宗派などによって習慣や信仰への考え方などが違うんです。これを知ってることはとても大事。
私はインドネシア、バングラデシュ、ウズベキスタンのイスラム教徒の学習者に教えたことがありますが、信仰の度合いは、個人はもちろん国・地域によっても大きく異なるということを感じました。
例えばウズベキスタンはイスラム教徒が多い国ですが、教えていた学習者の中には豚肉はダメだけど、お酒は飲むよという方が多くいました。そう話してくれた多くは男性でした。
今回の記事では、世界一イスラム教徒が多い国(注:2019年4月調べ)であるインドネシアの学習者の中で、私が出会ったそれぞれの学習者に焦点を当ててご紹介したいと思います。
出典:Pew Research Center(Jeff Diamant)- The countries with the 10 largest Christian populations and the 10 largest Muslim populations(APRIL 2019)
イスラム教徒の学習者対応でよく使う言葉と対応法
日本語学校でイスラム教徒の学習者に対応する場面、授業以外では行事があります。
今はコロナ禍で難しくなりましたが、日本文化の理解や交流を目的としてお花見や遠足、バーベキューなども学校によってはあることも。
そんな時に知っておくと役立つ言葉がこの2つ
- ①ハラール
- ②ラマダン(断食)
特に初級のクラスではこの2つを知っておくと安心です。あいうえおから勉強するゼロ初級では「だんじき・・・??」となります。
ここできちんと学習者と意思疎通ができないとトラブルになってしまう可能性もあるので要注意!そのための「ハラール」と「ラマダン」、使えますよ。
ハラール
イスラム教で食べることが許されているものは、「ハラール」と言います。
詳しくは、内藤先生の記事の「食べてはいけないもの」に書かれています。チェック!
最近では日本でもハラール認証マークのついたハラール食品を見かけるようになってきました。とは言ってもまだまだ少ないので、学習者たちは苦労しているようです。
日本語学校では、バーベキューやお花見などの食べる行事がある場合、学習者に食べられないものを必ず確認します。イスラム教では豚肉やお酒は食べません。
学校にもよりますが、事務さんが名簿を作ってくれ名簿の横に食べられないものが書いてあって、学習者一人一人に確認します。
私が勤めていた学校(埼玉県の日本語学校)では、名簿と共に親切に「豚、鳥、牛」のイラストが描かれた紙も用意されていました。イスラム教徒の学習者はもちろん、他の宗教の学習者にも同様に聞くためです。
初級のクラス4月、5月に確認すると、「豚肉」や「食べられない」などもなかなか難しい。そこで絵を見せながら「ダメです」ときちんと確認します。
さらに「ハラール」と言葉を加えるだけで学習者は安心します。学習者は、「ハラール、いいです」とニッコリ。来日1~2か月、学習者を不安にさせないことが大事。
ラマダン(断食)
イスラム教徒の学習者の理解、対応で欠かせないのが断食(ラマダン)です。
断食は、1か月の間、日が昇ってから日没まで何も食べたり飲んだりしません。期間は毎年違いますが、2021年は4月12日から5月12日まででした。
このラマダン(断食)期間、学習者によって反応は様々です。
私が教えていた学習者の多くは、「慣れているので大丈夫です」というもの。
いやぁ~見ている私としては辛そうだな、大変そうだなと思ってしまうのですが、イスラム教徒にとっては神聖なもの、辛いとは聞きませんでした。
しかし、海外である日本で迎えるラマダンには戸惑う学習者も。ある学習者がラマダン前に来て、
「先生、ラマダン、心配です。」
と話してくれました。
初級クラスの学習者で「だんじき」という日本語も知りませんでした。国(インドネシア)では、家族と共にラマダンをしていて、周りのほとんどの人がラマダンをする環境とのこと。
日本では初めて一人でラマダンをする、生活環境、気候も全然違うので不安だと相談してくれました。
確かにクラスでイスラム教徒はその学生一人、さらに日本語学校がある北海道の4月はまだまだ寒い日もあって体調も崩しやすい。日が昇る前に食べたり飲んだりを終えるために生活リズムも変わります。
ちなみに今はラマダンの期間や日が昇る時間や日没、お祈りの時間を教えてくれるアプリがあって全世界どこにいても分かるので便利なのだそう。現代的だなぁ~と関心しました。
ラマダンという言葉を知っていること、その期間を把握しておくことは絶対にお勧めします。ラマダン期間中、学習者の状況や体調を気遣うことが日本語学習をサポートする上で重要になるからです。
日本語学校でのイスラム教の学習者への実際の対応方法
じゃあ、実際に日本語学校ではイスラム教徒の学習者にどのように対応しているのでしょうか。
その答えは、それぞれの学習者に柔軟に対応している!なのですが、実際にはどんな感じで対応しているのか、この2つについて事例をあげながらお伝えします。
- 食事がある行事はどうしている?
- 厳格なイスラム教徒の学習者とそうじゃない学習者の対応はどうしている?
学校によって対応方法は違うかもしれませんが、イスラム教徒の学習者にはこうやって対応しているんだ~と少しでもイメージしてもらえたり、こんな反応の学習者もいるのねと知ってもらえたりしたら嬉しいです。
食事がある行事はどうしている?
食事がある行事は、意外と多くあります。バーベキューやお花見、遠足、卒業式の懇親会など。
クラスでは行事の前に、各学習者に食べられないものの有無を確認します。「イスラム教徒のみなさんは豚肉を食べませんよね」ではなく、一人一人にきちんと聞きます。
朝の会にクラスの全員に確認をします。しかし、それだど初級のクラスでは確認ミスがおこることも。みんなの前だと注意力散漫になっていたり、日本語がわかってないのに「はい」と言ってしまうこともあります。
そこで私は初級クラスでは、ハラールと言う言葉や絵カードを使って一人一人に確認をすることを大切にしています。
2年生の中級クラスでは、日本語力や信頼関係がアップしてこんなやり取りも。
私:Aさんは、バーベキューで豚肉を食べません。いいですか。
すかさずAさんと同じ国のBさん:先生、でもAさんはコンビニの肉は食べます。
私は大げさに驚いて見せ、クラスのみんなも笑います。
Aさん:先生、ここは日本ですから!クラスのみんなで(笑)
郷に入っては郷に従え?!Bさんのツッコミもさることながら、Aさんの返しもなかなかです。イスラム教徒の学習者の中でも考えや反応は人それぞれです。
こんなやり取りができるのもクラスみんなが2年目で気心も知れて、AさんやBさんのキャラクターを理解しているからこそ。ちなみにBさんは、絶対に食べないんだとか。
これがまだ数か月のクラスや厳格なイスラム教徒の学習者がいるクラスではトラブルになってしまうかもしれません。日本語教師として各クラスでの柔軟な対応や反応が求められます。
初級後半になるとみんなの前で簡単な言葉で確認することも意識します。それが学習者同士の理解に繋がるからです。ベトナムの学習者は身近にイスラム教徒の人がいなかったのでいい勉強になると話していました。
ちなみに学校以外では??
以前勤めていた埼玉県の学校では、学習者はそれぞれアパート暮らし、スーパーなどで苦心しながらハラール食品を探していました。調味料はハラール専門店で買ったり国から持ってきている場合がほとんどのようでした。
一方、北海道の学校では寮があります。寮では朝・晩と食事がでます。イスラム教の学習者が留学するようになってから寮ではハラール対応を始めました。お昼は、ほとんどのイスラム教徒の学習者が自分でお弁当を作ってきていました。気軽にハラール対応のお弁当を見つけるのは難しいんですね。
厳格なイスラム教徒の学習者とそうじゃない学習者の対応はどうしている?
イスラム教徒の学習者と言っても様々な人がいます。様々ってどんな学習者?って思いますよね。そこで日本語学校の行事での3人の学習者の反応をご紹介したいと思います。
みなさんが目にしたことのある反応でしょうか。
北海道の日本語学校でお花見遠足を実施したときのこと。北海道で桜が満開を迎えたのは5月ゴールデンウイーク明けでした。ちょうどラマダン(断食)の時期でした。
お花見遠足は、1時間くらいかけて歩いていく→お昼にバーベキューをする→お花見をするというもの。この予定で水も飲めない、食べられないというのは危険だと学校側は判断。
そこで参加の有無は学習者本人の意志に任せ、不参加でも欠席扱いにはしないという対応を取りました。学習者の体調の優先と判断を尊重することに。学習者には事前にそのことを伝えました。
100名程度の小さな日本語学校で、当時イスラム教徒の学習者は6名。その中の3人の反応です。
<上級クラス、Cさん(男性)>
私:お花見、参加しますか。
Cさん:すみませんが、参加しなくてもいいでしょうか。ラマダン中なので・・・
私:わかりました。大丈夫ですよ。(この後は、他の雑談を少し)
Cさんは、とても厳格なイスラム教徒の学習者でした。宗教に関わる冗談も嫌います。宗教の話題の時はとても慎重に対応しました。
<中級クラス、Dさん(女性)>
私:お花見、参加しますか。
Dさん:はい、参加します。とても楽しみです!
私:でもラマダン中ですよね・・・大丈夫ですか。
Dさん:先生、大丈夫ですよ。クラスのみんなと行きたいですから。
実際に参加したDさん、バーベキューの鉄板の周りでクラスメイトと談笑したり、クラスのテーブルでは、進んで友達に飲み物やおにぎりを配ったり。
お天気も良く暑い日でしたが、もちろんDさんは何も口にしません。声をかけると、笑顔で「先生、楽しいですね~」と。辛そうな素振りを見せないどころか周りに気をつかっていました。
私(心の中で):すごいなぁぁぁぁ~
<初級クラス、Eさん(男性)>
私:お花見、参加しますか。
Eさん:はい、参加します。肉をたくさん食べます!楽しみですね~!
私:えっ・・・ラマダン中ですよね。
Eさん:あ~そうですね~じゃあ、ええと・・・一日だけ休みます。
私:(えっ!?ラマダンを休むとかあるのー!と心の声)でもハラールじゃないんです。
Eさん:そうですかぁ~。わかりました・・・う~ん・・・一日だけ大丈夫です!
通常のバーベキューや食事が出る会では必ずハラール対応をするのですが、この時はラマダン中、参加者もいないのでは?ということでハラール対応はありませんでした。
初級クラスでも会話はよくできるEさん。(読み書きはボロボロですが)クラスでもみんなを盛り上げ中心にいるようなキャラクターでした。当日もクラスの輪の中で楽しそうにお肉をモリモリ食べていました。
ちなみにDさんとEさんは仲が良く、クラスは違いますがよく一緒に過ごしていました。Eさんが肉を食べてもDさんが咎めるようなことはようなことはありません。
私は担任だったのでEさんのキャラクターをよく知っていましたが、一日だけOKとは・・・!初めて出会った反応、いい学びになりました。
イスラム教徒の学習者と言っても実はこのように学習者によって様々なこともあります。教師もその学習者に合わせて反応や対応を変える必要がありますね。
イスラム教徒の学習者に柔軟に対応して、学習者対応をスムーズにしよう
いかがでしたか。本日は、実際にあった事例をあげながらイスラム教徒の学習者についてお話しました。
日本語学校ではどんな対応をしているの?の答えは、やはり学習者一人一人に柔軟に対応してる!ということに尽きます。
日本人=〇〇な人と括ることがないように、イスラム教徒の学習者=〇〇と決めつけることはできません。
今回の記事でこんな学習者の反応もあるんだと知って、イスラム教徒の学習者にも柔軟に対応できる日本語教師になりましょう!
「厳格なイスラム教徒の学習者とそうじゃない学習者」という書き方をしましたが、「そうじゃない学習者」というのはちょっと違うかもですね。色々な人がいるということです。
事例に出てきた学習者も普段の言動を見ていると、国ではめちゃくちゃ厳格なんだと思います。ただ日本という国に留学している間、いくつかのことを柔軟に対応しているだけなのかもしれません。
ハラール認証の食品が気軽に買えない、だから日本の食事も色々試してみようとか、他の国の学習者と交流するために少し変えてみようとか。元々の考え方や習慣も影響していたり。
日本語学校ではイスラム教の学習者にも全力で対応します。食べ物のイベントなどでは特に気を配ります。でも豚肉を食べたから「イスラム教なのに!」と言うこともしません。
でもでも!学習者の中にはそのようなことを良く思わない人もいることにも配慮が必要です。
イスラム教徒の学習者の対応と考えると、少し身構えてしまいます。でも国や住んでいる地域、個人によって違いがあるということを念頭に置いてみると変わってくるかも。
柔軟に対応しようとしているイスラム教の学習者もいるし、信念を貫いているイスラム教の学習者もいる。それを分かって一人一人に対応していけば、学習者対応が今まで以上にスムーズになりますよ。
さらに教師が柔軟に対応することで、クラス内でイスラム教徒の学習者への理解が深まり、クラス運営もしやすくなるはず!学習者理解を深めて、学習者との信頼関係をより築けたらいいですね。
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