敬語嫌いにさせない指導法アリ!学習者が興味を持つ尊敬語の導入・練習方法【みんなの日本語第49課】

アナタは初級の敬語の授業に納得していますか?

いざ敬語の勉強となると、学習者は

  • 「敬語は苦手です」
  • 「敬語は使わなくても、通じるんでしょ?」
  • 「私たちの母語には日本語の敬語のようなものはありません」

なんて言う確率…高くないですか?笑

いやぁ、敬語学習は大変です…。いえ、教えるほうも大変ですよね。

何とか敬語を楽しく勉強する方法はないんでしょうか?しかも身につく方法…。

そこで今回は私が十数年実践している方法で、学習者に「敬語は難しい~!!嫌~!!」と言われなかった、学習方法をお伝えします!

学習者の敬語に対する食いつきをよくするには、授業前のアプローチが大切なんです!

これからの敬語学習が楽しくなりますよ~!ぜひお試しください!

目次

尊敬語の授業前にすること!敬語を苦手にしないためのアプローチ(導入と練習)

敬語を苦手にしないために、まずは学習者に「自分には敬語が必要だ」と思わせることが大切です。そして「敬語は難しい」と思わせないために、ゆーっくり学習することもポイント。

ではどうやったら、敬語が必要だと思ってもらえるのか?

  • 「敬語は人を敬うときに使います」
  • 「敬語は仕事で使います」

なんて言っても、学習者にはピンと来ず、敬語が必要だとは思ってもらえません。

そこで私が今まででやったやり方で、学習者が一番納得した台詞はコレ。

「敬語は人と人の距離を表します。日本人は時間をかけて距離を短くする人が多いです。」

なぜコレが学習者を納得させたのか?この説明の後に学習者に示す具体例が大切なんです。

★具体例1★私が好きな先輩がいつも同じ後輩としゃべっている!

私は彼らが恋人同士かどうか知りたい。
日本語なら2人が会話で使う言葉を聞けば、どういう関係なのかわかる(かもしれない)。
敬語を使っていたら、2人は恋人じゃない(可能性が高い)!

日本語母語話者の恋人同士が敬語を使うことってないですからね。敬語の話に加えて、日本と学習者の国のパーソナルスペースの違いなどと合わせて話すのも、学習者の食いつきがいいのでおススメです。

外国人のパーソナルスペースって日本人よりだいぶ近くて、「え?恋人同士なの?!」って聞きたくなるくらい距離が近いときがありますからね。

★具体例2★職場の上司は私のことが好き(かもしれない)。

私も上司のことが好きなら徐々に敬語の数を少なくして、上司と私の関係を近づけると恋人同士になれるかも?!
私は上司に興味がないなら、ずーっと敬語を使って、心の距離は遠いままにする。
すると、上司も私のことを諦める(かもしれない)。

「具体例2」のような日本人の言語面でのアプローチ方法はいつもクラスが盛り上がります。この話をすると、学習者が「話す相手によって言葉の使い方が異なるなら、普通形ばっかり使っていたら駄目だな~」って雰囲気になるんです。

ちなみに学習者の年齢が若いときは恋愛ネタが好評ですが、学習者が仕事のために日本語を勉強しているときは、上司と自分の関係などを例にするといいですね。

そして敬語を身につける練習の場として忘れてはいけないことがあります。

教師も敬語を使うこと

学習者が敬語を理解し、覚え、使うことは大切です。でも、学習者が耳にしていない外国語を使うって、かなり高度です。

授業中に教師がどんどん敬語を使い、学習者が敬語を聞く練習の場を作ってください。

参考書より明確に!3種類ある尊敬語をわかりやすく導入&練習する方法

「みんなの日本語」で学習する尊敬語の動詞は3つありますよね。

  1. 受身と同じ活用になる尊敬語
  2. 「お~になります」の形の尊敬語
  3. 「いらっしゃいます」「召し上がります」などの特別な尊敬語

私たち日本人は「この3つの敬語のうちどれが一番丁寧か?!」は気にしていないと思いますが、一応[低①→②→③高]となっていて、「いらっしゃいます」「召し上がります」などの特別な尊敬語の丁寧度が一番高いです。

学習者に「敬語の勉強いつまで続くの?たくさんあって嫌だな~」と思われないために教師がすること!!

最初に学習する量を伝え、尊敬語を制覇していく感じでひとつずつ学習を進める

これ、絶対です。

ゴールが見えない道は遠く感じますが、ゴールが見えていれば、距離(学習過程)は短く感じます。

ですから尊敬語を始めるときには「尊敬語は全部で3つあります!1つめの勉強は~。今から2つめの敬語を勉強します。最後に3つめ…」とまるで学習者の面接練習のような台詞を述べるのです。

それに「3つ」と聞くと、学習する量が少なく感じますしね。

受身と同じ尊敬語を練習するときの注意点

受身と同じ尊敬語とは?

★例★

  • 【尊敬語】課長は資料を読まれました。
  • 【受身】私は母に手紙を読まれました。
  • 【尊敬語】先生は今朝研究室へ来られました。
  • 【受身】私が宿題の答えを写しているとき、先生に来られました。

ほとんどの動詞が(全部の動詞じゃありませんよ)受身と同じ活用をするけれど、尊敬の意味になる動詞のことです。

この尊敬語を導入&練習するときに注意しなければならないこと!

  • わかります・いります・可能形の動詞には受身と同じ活用の尊敬語はないということを導入の時点で学習者に伝える
  • 受身なのか尊敬語なのかを判断する(使い分ける)練習をすること

この2点が大切です。

「わかります」や「いります」に受身と同じ尊敬語がないことを伝えておかないと、学習者が「わかられます」や「いられます」等といった間違いをしてしまいます。間違える前に注意を促してください!

そして「受身を復習する時間はない」と判断し、尊敬語の練習ばかりに力を入れていると、学習者が尊敬語か受身かを判断できなくなります。(受身を忘れている可能性もアリ)

学習者にレベルによっては、動詞のグループ分け・受身の作り方から復習することも検討してみてください。

例外が多い「お~になります」の形になる尊敬語

1グループと2グループの動詞のみに使える「お~になります」の形の尊敬語。

★例★

  • 先生はもう帰りになりました
  • こちらの本は、読みになりますか

このように「お+ます形+になります」の形になる尊敬語です。

この文法はルールに通りにならない例外が多く、3つの注意事項があります。

  1. 3グループ(します・来ます)や2グループでも「ます」の前が1音節のもの(見ます・寝ますなど)は「お+ます形+になります」の形にはできない
  2. 「わかります・いります・できます」も「お+ます形+になります」の形にできる
  3. 尊敬語を使って、自由に会話をさせると不自然な日本語になる可能性大

①と②は文法書にも載っている、有名な注意事項です。

「③尊敬語を使って、自由に会話をさせると不自然な日本語になる可能性大」とはどういうことでしょう?

尊敬語を学習するとき「社長と部下になって、会話を続けよう!」なんて練習をしますよね?こういうフリートークが危険なのです。なぜなら…

  • (△)社長は英語がわかりになりますか。
  • (△)先輩は子どものとき、ピアノを習いになりましたか。

こんな変な日本語がじゃんじゃん出てきてしまうからです(涙)。学習者がおかしな日本語を発言したら新米日本語教師は対応できなくなるから、要注意です~!

「社長は英語がおわかりになりますか」と目上の人に能力を尋ねるのは、何だか失礼な気がしますよね。

「先輩は子どものとき、ピアノをお習いになりましたか」は語感に違和感があります。通常は「ピアノを習われましたか?」とすることが多いのではないでしょうか?

こんな感じで練習内容にも配慮してくださいね。

特別な尊敬語はその日のうちに覚えきると授業しやすい

「行きます・来ます・います」が「いらっしゃいます」に。
「食べます・飲みます」が「めしあがります」になる。これが特別な尊敬語です。

今まで勉強した動詞とは異なる動詞で、尊敬の意味を表すのです。

今までに勉強した動詞尊敬語
行きます・来ます・いますいらっしゃいます
食べます・飲みます召し上がります
言いますおっしゃいます
知っていますご存知です
見ますご覧になります
しますなさいます
くれますくださいます

この尊敬語、学習者にとっては一番面倒です。

受身と同じ形の尊敬語や、「お+ます形+になります」の尊敬語は、ちょっと活用するだけで尊敬の意味を表し、聴解の難易度もそんなに上がらない。

でも、特別な尊敬語は動詞そのものの形が変わるので、7つの新しい動詞を覚えるのと同じ労力。
しかも1つの動詞が複数の意味を表すことがあるので、文脈から意味を判断する能力も必要。

こんな面倒な勉強は、教室で終わらせてください!!特別な尊敬語は授業中に覚えきること!!

覚えきれていない段階で、特別な尊敬を練習をしても、身につかず、苦手意識が残るだけ。

だから尊敬語の単語がきちんと覚えられてから、練習をスタートしてください。

フラッシュカードで覚えたり、神経衰弱のようなゲームで覚えるのも可。私は時間が許すときは、覚えた人から帰るというゲームを実施したことも。

ちなみに「みんなの日本語」には7つの尊敬語が載っていますが、他のテキストには「(動詞)着ます・(尊敬語)お召しになります」も載っていることがあります。

学習者のレベルや生活圏に合わせて、追加するのがいいと思います。

まとめ

敬語って、学習者が苦手とする分野でもあります。でも、学習者が敬語がうまくならない原因は日本語教師にもあります。

教師は学習者が試験で敬語を間違えたらバツ(✖)にするけれど、授業時間外だったら

  • 学習者が普通形で話しかけてきても、対応してしまう
  • 間違った敬語を使っても、意味がわかれば対応してしまう
  • 自分は教師だから、学習者と話すときは敬語を使わない

こんなシチュエーション、けっこうありますよね。

日本語教師って「教師」だけれど、小学校や中学校の教師とはちょっと違います。学習者はただ日本語ができないだけで、さまざまな経験を積んできて、今教室にいるのです。

教師も敬語を使うこと

これは学習者が敬語を身に付けるため、そして教師も学習者に敬意を表すために、敬語を使って授業をするのもいいと思います。
そして、学習者が日本人と円滑なコミュニケーションがとれるよう、敬語は人と人の距離を表すこと日本人は時間をかけて人と人との距離を短くする人が多いということを伝えることを忘れずに!

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