みなさん、こんにちは!
私はイギリス在住、子どもの為の日本語教師として、主にミックスの子どもたちに教えています。もともと保育士として日本とイギリスで働いたこともあり、日本語教師としても自然な流れで「子どもの為の日本語教師」となりました。
さて、いきなり本題に入りますが、「継承語」って言葉を聞いたことがありますか?
恥ずかしながら、実は私も数年前にこの言葉を知ったばかりです…。
継承語として日本語を教える、子どもに日本語を教えたことが無くて不安という方の気持ちを少しでも軽く、そしてレッスンアイディアの一つになれれば幸いです。
継承語って何?日本語とは違うの?継承語として日本語を学ぶ子どもたち。
「継承語とは」…。様々な研究者が、色々な定義を紹介している「継承語」。
簡単に一言で表現すると、読んで字の如く「親から受け継いだ言葉」とあります。
出典:母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究会
中島 和子(名古屋外国語大学)
2003 NAKAJIMA
母語・継承語・バイリンガル教育研究会
問題提起「JHLの枠組みと課題-JSL/JFLとどう違うか」
ただ、様々な定義を読み漁った私自身が「これが一番分かりやすくて納得!」と相槌を打ったものがこちらです。
具体的に私の子どもたちを例にして話をしますね。
私が日本生まれ、日本育ち、日本語を話す母親なので、家庭では日本語で会話をしています。
所属するコミュニティとして捉える日本語教室でも、もちろん日本語で会話。
しかし、家から一歩外に出て、お隣さんに会おうものなら「Hi ! 」と、一瞬で英語環境!
日本語教室の帰りにアイスクリームでも買おうものなら、「Hi, Can I have ……」と、
こちらも一瞬で英語環境!
子どもたちが通っている学校でも、もちろん英語なので、日本語は主要言語として使われていません。
どうですか?先ほどの、「家庭や家族、また所属するコミュニティの人々が話す言葉だけれど、生活している社会や教育システムでは主要言語として使われていないものという」定義が「しっくり」きませんか?
他には、「子どもが継承語を失うときみんなが何かを失う。親と子は心置きなく話し合うことばを失ってその絆が断たれ、コミュニティは共有文化を失い、国は他国、他文化との橋渡しとなる人的資源を失う」という言葉もあります*2
つまり継承語とは
- 家庭やその言語を継承しているコミュニティで使う言語。
- 親子のコミュニケーションに必要な言語。(特に私のように現地語(英語)がそこまで得意ではない場合)
- 将来、異なる文化の橋渡し的役割を持つ言語
であるのではないかと思います。
あくまで色々なものを読んで、私なりに理解しやすくまとめた物です。
継承語として日本語を学ぶ子どもたちのバックグラウンドは様々。
次は具体的にどのような子どもたちが継承語として日本語を学んでいるのかをお話したいと思います。
様子・改善点を知ることで、子どもたちに何が必要なのかが分かり、レッスンのアイディアにも繋がりますよ!
例①両親ともに日本人で海外に住んでおり、メインの言葉は現地語
- 様子:
- 家庭で使うことがベースの継承語で、両親の二人から日本語のシャワーを浴びているので、聞く力、話す力が発達し、読み書きに関してもサポートを得やすい環境。
- 語彙の数も多く、文法も耳から自然に入って習得している様子。
- 親子では日本語での会話でも兄弟姉妹感では英語での会話になりやすい。
- 改善点:・兄弟姉妹間でも日本語での会話を意識させましょう。
例②両親のどちらかが日本人。
- 様子:「聞く・話す・読む・書く」の4技能がアンバランスになりがちな継承語の中で「聞く」力が最も発達し、「話す」力は「聞く」力よりは劣る。
- 改善方法:インプットする環境はあるのでアウトプットを意識してレッスンを進めましょう!子どもの自信にもつながります。話すことが面白い!と思ってもらえるようにしたいですね。
遠い血筋に日本人がいる。
「祖先が日本の侍」という理由で日本語学習を始めた生徒さんがいます。
本来は「日本語を学ぶ外国人」の枠かもしれませんが、広義な継承語なので、私はこの子が学ぶ日本語も継承語に入れたいと思いました。
- 様子:
- ご両親の言語は日本語ではないので学習は全くのゼロからスタート。
- 家庭でのサポートを受ける事も難しい環境。
- 改善方法:4技能だけではなく日本文化も積極的に取り入れていくと良いと思います。日本への興味が継承語としての日本語学習を続けていく力になります!
子どもたちの継承語学習の意欲も様々?日本語教材をそのまま使う難しさ
継承語を学習する子どもは、自分から「日本語を勉強したい!」というよりは、親がその言葉を受け継いで欲しいという思いから習わせている事がほとんどだと思います。ですので学習意欲を高める工夫が必要です。
子どもの夢中・集中が確実に変わりますよ!
そして先ほど話した継承語は「4技能がアンバランス」。
日本語教材をそのまま使う難しさはこれが理由です。
家庭での使用度が違うので、例えば、年齢は10歳でも日本語の力は5歳程度ということもあります。
興味と教材が合わないという事がここでも表れてきます。
市販されている日本語教材を参考にして、子どもの年齢、興味を考慮した自作の教材という方法も一つだと思います。
では、具体的にどうしたらいい?という方は、次の記事で紹介します!お楽しみに。
*1・2 継承語教育を研究している中島和子氏の言葉
中島和子氏
- トロント大学名誉教授
- トロント補習授業校高等部校長
- カナダ日本語教育振興会(CAJLE)名誉会長
- バイリンガル・マルチリンガル子どもネット(BMCN)代表
コメント
コメント一覧 (2件)
こんにちは。
英国在住、8歳のハーフの息子を持つ母親です。
この記事を、自然と自分の息子と照らし合わせて読み進めていました。あるある!そうそう!ということを、うまく表現して書いて下さっていて、実際に文字化されると納得するし勉強にもなった次第です。
息子は3年半ぶりにこの夏に帰省し、継承語のみとして英国内ではあまり重要視していなかった日本語が、実用語としてコミュニケーションの手段となる3週間を過ごしました。継承語がいつか実用化することもあり得るということを体験し、今息子が今一度、忘れかけていたひらがなやカタカナに興味を持ち始めた次第です。
継承語、侮れませんね。。。
ヨウコ様
記事へのコメントをありがとうございました。
この夏に息子さんは日本へ行かれたんですね!
3年半ぶりともなれば、楽しい経験も沢山されたことと思います。
私達母親が「いつか日本語の勉強をしていて良かったって思うから」と100回言うよりも、
「日本語が必要」と息子さんご自身が感じた事の方が、うんと説得力も有りますし、それに勝るものは無いですよね!
継承語としての日本語のモチベーションを保つ、高めるには日本へ行く事も一つだと私も実感しています。
これからはご家庭でも取り入れやすい勉強やゲームのアイデアも発信していきたいと思っています。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。