この記事を読んでいる方は、少なからず日本語教師の仕事に興味を持っていると思います。例えば、下記のようなことをお考えの方も多いのではないかと思います。
- 「転職したくて、日本語教師を一つの道として考えている」
- 「もう少しで養成講座を修了するので、就職活動のことを考え始めた」
- 「日本語教育能力検定試験の受験に向けて勉強している」
ただ、日本語教師を仕事にしようと考える際にネックになるのはズバリ「お金」ではないでしょうか。
「仕事がない」「貧乏」と思われがちな日本語教師。確かに「お金持ちになりたい」という理由から選ぶような仕事ではありませんが、生計を立てることは可能です。このお仕事で家族を養っている方も沢山いらっしゃいますし、一人暮らしの方なら、すごく贅沢はできなくても、工夫次第である程度はプライベートも楽しみながら生活していくことは可能です。
日本語教師の働き方は様々なのですが、今回は「国内で非常勤講師として働いて生計を立てる」ことを目標にした場合、知っておきたいことをお伝えしていきます。
日本語教師は週10コマぐらいで生きていける
日本国内で非常勤講師として働く方の多くは、複数の機関(2、3校)に掛け持ちで勤務しています。
コマ数ですが、一人暮らしの方で1週間に10コマ程度持つことが多いようです。それより少なめでも一人であれば生活できないことはないですし、逆に増やしすぎると、ある程度の経験があっても付随業務が回らなくなったり、無理をして心身の調子を崩したりということにもなりかねません。
コマ数はご自身の能力、家庭の事情などと相談しながら、徐々に増やしていきましょう。
養成講座の先生などが「デビューしたら、この準備が毎日なのよ?」などと脅すように、デビューしていきなり1週間に10コマ近くも持つのは相当大変です。他のアルバイトをしながら、日本語の授業は1週間4コマから始めてみるというほうが、精神衛生上いい場合もあるかもしれません。
また、仕事が欲しくても日本語教師の需要自体があるのか?という心配もあるかと思います。住んでいる地域にもよりますが、9年日本語教育に関わっている筆者から見ても、やはり全体的に日本語教育機関は増えてきているように思います。
東京を始め主要都市であれば特に、早い段階から自分の「欲しいコマ数」を得ることが可能なので、地方在住の方は日本語教師への転職を機に上京するという選択もいいかもしれません。
筆者は、ロシアで1年教えた後に帰国、上京し、最初の半年は週4コマだけでした。筆者の場合は、東京で最初に働いた機関が王道とは違う非常に特殊なやり方をするところだったため、週4コマが精一杯でした。でも、養成講座の延長線上のような授業をする学校や、授業自体が能力試験対策の色が強いところでしたら、未経験でももう少し(週6コマぐらい)多くてもいいのかもしれません。
非常勤講師として働ける機関とそれぞれの平均時給
それでは国内で日本語教師デビューしようと思ったときに、どんな選択肢があるのか見ていきましょう。詳しい仕事内容ついては、ここでは触れません。(筆者が多く経験した「大学」「養成講座機関」の仕事については別記事で紹介します。)
時給については、求人サイトの情報や筆者自身の経験、周囲の話などから、ざっくりまとめたものです。
- 日本語学校
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1500~2300円/1コマ45分
- 講師派遣会社(ビジネスマン向け)
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2000~3000円/1時間
- 大学
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4000~6000円/1時間
- 日本語教師養成機関
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2500~4000円/1時間
次に上記の機関に1回(1日)出講した際に発生する金額の例を見てみましょう。
- 日本語学校
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2000円/45分 ×4コマ= 8000円
- 講師派遣会社:
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3000円/1時間 ×4コマ= 12000円
- 大学:
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5000円/1時間 ×2※ ×2コマ= 20000円
- 日本語教師養成機関:
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3500円/1時間 ×1.5※ ×2コマ= 10500円
※90分授業が2コマと考えて計算。大学は90分授業は2時間に換算されることが多い。
どの機関も一日あたり3,4時間程度(通常は2コマに相当)授業をすることが多く、それに対して発生する金額が上記の通りです。上記を見ると、大学の給与が飛びぬけて高いように思いますが、一点注意したいのが、夏休みと春休みがあることです。夏・春休みを合わせると計4か月間、基本的に非常勤講師は授業がなく、報酬も発生しません(大学によっては集中講座を担当することもあります)。それを考えると、他の機関より少しいいくらいでしょう。
授業準備や採点などの付随業務にどのくらい時間が取られるのかというのは、個人の経験の長さによっても変わりますが、機関によっても、例えば大学同士、日本語学校同士で比べても差があります。付随業務が少ない機関だと、一日4コマなど持つことも可能です。
ぜひ、ご自分のしたいことができて、かつ、ライフスタイルに合う機関をデビューしてからも探し続けてください。
採用にあたっての条件
それでは、日本語教育機関に採用されるために必要なことは何でしょうか。資格、学歴、経験、その他(業績や外国語能力など)の4つについて、詳しくお話しします。
資格
皆さんこれはご存じかと思いますが、「日本語教師有資格者」と言えば、以下の3つのいずれかに当てはまる方です。
- 大学や大学院で、主・副専攻として日本語教育課程を修了した者
- 日本語教師養成講座420時間を修了した者
- 日本語教育能力検定試験に合格した者
日本語学校であれば、「有資格者」であることはほぼ必須条件、またこの3つの中でも「能力試験合格者」がより望まれる傾向にあるため、大学の過程や420時間の修了者でも、この能力試験を受験することが多いです。「能力試験合格者」であることは一つの武器になります。
一方大学が出している求人などでは、「有資格者」が必須条件になっていることは少ないです。むしろ以下で説明する学歴や経験、業績などが求められるのですが、実際は大学の講師であっても「有資格者」であることが多い印象です。
学歴
必要な学歴は明確にはないですが、日本語学校など、多くの機関では「4大卒」を求めていることが多いようです。大学の非常勤講師だとほとんどの場合「修士以上」が条件になっています。日本語教師養成講座講師の求人でも「修士以上」を求めていることがあります。
この業界では高卒よりは4大卒、4大卒よりは修士、修士より博士…と学歴が重視される面はあるものの、4大卒ではないからと言って諦める必要はありません。「4大卒が望ましいけれど、「有資格者」であったり日本語教師としての経験があればOK」という場合もあります。
求人をよく見て、はっきりと「4大卒者」「修士号取得者」と書かれていない限りはとにかく応募してください。
経験
上述の通り資格も学歴も大切ですが、「経験」があるということは強く、一つの武器になるのは間違いありません。日本語学校だと特に条件として「経験」を挙げていることは少ないものの、経験者が欲しいというのは本音でしょう。大学や講師派遣、養成講座講師などでは「〇〇での教育経験が〇年」という細かい条件がついていることもあります。
筆者の体感として、近年は「養成講座修了したての未経験者」であっても、国内で非常勤講師として(時に常勤講師として)採用されるケースも増えてきています。筆者が駆け出しの教師だった頃(8、9年前)は、未経験者は国内では採用されにくかったので、本人は希望しなくても最初の1~2年は海外で「日本語教師経験」を積んだものです。
以前よりも環境は恵まれていると思いますから、応募できるところは応募して、どこからでも雇ってもらえればとにかく1年でも経験を積みましょう。「経験者」となれば、今後色々な機関に採用されやすくなり、自分に合った教育機関に巡り合える機会も出てくるでしょう。
その他(業績や外国語能力など)
資格、学歴、経験の他、機関によって他の条件が付いていることもあります。
外国語能力
例えば、講師派遣会社に多いのですが、既に教える対象が決まっている場合などは「英語」「中国語」「ベトナム語」など特定の外国語能力を求めてくることがあります。特に英語力を求める場合は、「英検準1程度」などの条件がつくこともあります。
大学機関でも、英語力が求められることが多いですが、条件には「英語で授業した経験が〇年ある方」「英語で学生対応ができる方」などというふうに記載されています。
業績
これは主に大学で働く場合に必要なことですが、応募の際「研究業績一覧」の提出が求められます。論文や著書、教科書の執筆、学会での発表などの情報です。これらは沢山あるほど、特に発表よりも論文や著書など「書いたもの」が多いと印象がいいようです。
求人サイト紹介
以下、よく利用される求人サイトと、それぞれの特徴をご紹介します。
- 日本語オンライン
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メジャーなサイトの1つでしょう。国内外の日本語学校が中心に掲載されています。
- 日本村
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こちらもよく知られているサイトの一つです。日本語学校の他、養成講座や派遣講師の求人も多く載っています。
- 日本語そうがく社
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日本語学校、派遣講師のほか、ボランティア講師の求人もあります。
- 日本語教育学会
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大学レベルの教育機関が中心です。養成講座の求人もよく掲載されています。
- 研究者人材データベースJREC-IN Portal
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こちらも大学レベルの教育機関が中心です。これは日本語教育関連に限らず、あらゆる分野の大学の求人が掲載されているので、「日本語教育」などと検索をかけてみましょう。
まとめ
日本語教育の世界に飛び込んだはいいけど食べていけなかったら…という不安を軽減するべく、働き方の選択肢とそれに必要なことをお伝えしました。
日本語教師という仕事は「大変だけどやりがいがある」「お金にならないけどやりがいがある」と「やりがい」ばかりが強調されてしまいます。確かに「やりがい」を求めて、熱意をもって仕事に取り組むのはいいことですし、実際「やりがい」のある仕事です。
しかし、「できるだけ収入を得ること」を重要視するのに罪悪感を持つ必要はありません。皆様が楽しい日本語教師生活を送れるよう祈っています。
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