動詞活用の間違いの中でも、使役形を間違える学習者、多くないですか?教師同士の会話でも、「今日は使役形の学習なの~。大変だ~!」なんて会話がされていたり。
理解が難しいと感じる原因はさまざま。今までの動詞活用があやふやなまま使役形を学習してしまったり、使役形が使われる状況をイマイチ把握できていないまま、練習に進んでしまったり。
しかし、学習者のミスを防ぐ教え方があります!クラス授業で学習者の日本語能力レベルにバラツキがあっても、ミスを防げます!基礎固めに集中した教え方で、キーワードは「を使役文」と「に使役文」。今日はその教え方をご紹介します。
使役形文、どんな導入がわかりやすい?
「Aさんが指示をして、Bさんがする」という関係性が一目でわかる導入が適切です。ここでみなさんに使役形導入の代表格のような導入をご紹介します。
導入例の1つ目は、下記の「社長が部下の田中さんに指示(命令)をする」場面です。ざっくりとした導入手順は、次の①~③のようになります。
- 社長が部下の田中さんに「北海道へ出張に行ってください」と言う。
- 田中さんは社長の「北海道へ出張に行ってください」という言葉を聞き、北海道へ出張に行く。
- 「田中さんが北海道へ出張に行きたいかどうかはわからないけれど、北海道へ出張に行く」ことを、教師が学習者に確認する。
下記のようなイラストを学習者に見せます。
イラストを学習者に見せながら、イラストの内容確認をします。
教師 :田中さんは北海道へ出張に行きたいですか?
学習者:いいえ、行きたいかどうかわかりません。
【導入文①】
社長は 田中さんを 北海道へ 出張させました。
導入時に必ずイラストを使わなければならない、というルールはありません。しかし、使役形が使われる場合は、「Aさんが何をして、Bさんが、何をするのか」を確実に学習者に伝える必要があります。その為にはAさんとBさんの両方が描かれているストーリー性のあるイラストが効果的です。
導入例はあればあるほど役に立つ!ということで、2例目は「私は電車の中で娘を立たせます」という導入文を使用する場合です。以下の①~④の流れを使って導入します。
- 私(母親)と子どもが電車に乗っている。私(母親)は立っているが、子どもは座っている。
- お年寄りが電車に乗ってきた。子どもの近くにお年寄りがいる。
- 私(母親)は子どもに「お年寄りがいらっしゃるから、立って」と言う。
- 子どもは立つ。お年寄りが座る。
【導入文②】
私(母親)は、子どもを立たせました。
このストーリーをイラストや紙芝居などを使って伝えると、母親が「立って」と子どもにいい、子どもが母親の言葉を聞き、立つ。というストーリーがよくわかります。
「Aさんが、何をして、Bさんが、何をするのか」を確実に理解させると、学習者が使役形を使う状況が理解できるのです。
混乱が多い使役形の作り方
導入で文法の意味が理解できたら、次は使役形の作り方の説明です。説明は教師が一方的にするのではなく、学習者に発問しながら、気づかせるのがポイントです。
基本の使役形の作り方
動詞活用表をグループごとに学習者に見せます。ここでは3つの動詞しか載せていませんが、実際は練習で使う動詞を少し多めに提示するのが理想です。
学習者にとって混乱の少ない指導順は、
- 動詞2グループ
- 動詞3グループ
- 動詞1グループ
の順です。以下で指導のポイントを解説します。
- 動詞2グループ
-
食べます→食べさせます
届けます→届けさせます
辞めます→辞めさせます
動詞活用の説明は、一番単純な活用をする2グループから始めます。学習者に使役形の作り方を見せて、学習者に「ます」が「させます」に変わっていることに気づかせます。
- 動詞3グループ
-
きます→こさせます
します→させます
世話をします→世話をさせます
「来ます」の使役形は「来(こ)させます」で、同じ漢字ですが読み方が違うことにも意識を向けてください。「させます」の部分は2グループと同じなので、教師が「2グループと同じだから、覚えることが少ないですね!」なんて言うと、学習者の気持ちの負担が減ります。学習者がつまづきやすい文法だからこそ、ちょっとした声かけでストレスや「難しい!」という気持ちを減らすことも大切ですね。
- 動詞1グループ
-
歩きます→歩かせます
通います→通わせます
遊びます→遊ばせます
あ+せます
動詞のます形と使役形を見せ、「ます」が「せます」に変わり、「き」→「か」「び」→「ば」と、ます形では「い段」だった文字が、使役形では「あ段」になっていることを学習者に気づかせます。ない形のとき同様、「い」は「わ」に変わります。
学習者に気づかせることが大切ですが、もちろん気づかせて終わりではありません。理解度をさらに深めるために、学習者に「使役形はどうやって作りますか?」と聞き、学習者にます形から使役形への変換方法を説明させるのです。その方が、学習者の記憶に残ります。最後に教師が簡単な日本語で説明します。
練習方法については、「練習方法」に載せましたので、参考にしてください。
使役形の危険ポイント
学習者のミスや混乱を防ぐためには、次の3点に気を付けなければなりません。
使役形にできない動詞・使役形にすべきでない動詞
使役形の作り方を学習したら、学習者にはできるだけたくさんの動詞を使って練習をさせますが、むやみやたらに変換練習させるのは良くありません。
降ります→降らせます?
見えます→見えさせます?
出ます→出させます?
など、細かい状況設定がないと使役形を使わない動詞や、使役形が使えない動詞があります。「着ます」の使役形は「着させます」ですが、学習者が「着せる」という動詞を知っている場合は、学習者の混乱に繋がる恐れがあります。
使役形の変換練習では、その後の練習で頻繁に使う動詞を中心に練習するのが一番です。教師自ら混乱を招く練習をさせてはいけません。
使役形と受身形の違い
受身形と使役形をあやふやに覚えている学習者が多いです。原因は主に2つあります。
- 受身形を学習してから時間が経っており、受身形を忘れている。結果、使役形と受身形の違いがはっきりわからない。
- 受身形を使う状況、使役形を使う状況、それぞれを理解できていない。
これが、使役形と受身形を間違える原因です。
受身形をあやふやにしか覚えていない学習者には、使役形を学習しながら、受身形を復習するのはかなりの負担です。まずは、使役形の基本を理解させ、その次に受身形を復習するのがベストです。
使役形を理解しただけで満足してはいけない
使役形学習後は、使役形のない形・使役形の条件形・使役形の辞書形・使役形の意向形・使役形のて形などへもスムーズに変換できる必要があります。ない形や条件形はもう習ったことでしょう?と「できて当然」と思わず、きちんと確認することが大切です。
ちなみに、使役形は全て2グループに属します。
を使役文 と に使役文
- 社長は 田中さんを 北海道へ 出張させました。
- 社長は 田中さんに 資料を まとめさせました。
人+を使役形
人+に使役形
この助詞がかなりの難関です。多くの日本語教師の方は、自動詞のときは「を」、他動詞のときは「に」と説明していらっしゃるのではないでしょうか。でも自動詞と他動詞って、学習者がかなり苦手な分野です。しかも「ドアが開きます・ドアを開けます」のように対になっていない動詞の場合、自動詞か他動詞か理解するのはかなり難しいです。
そこで、私は「を使役文」と「に使役文」という言い方を使っています。
- 学校へ行きます(私は子どもを学校へ行かせます)
- 北海道に出張します(社長は田中さんを北海道へ出張させます)
- 公園で遊びます(私は子どもを公園で遊ばせます)
- 塾に通います(私は子どもを塾へ通わせます)
上記のように、もとの文が「名詞+助詞+動詞」で、助詞が「を」でない場合には、「人+を使役文」になります。
では、「に使役文」とは何なのか?以下の例で紹介します。
- 牛乳を飲みます(私は子どもに牛乳を飲ませます)
- 日本語を勉強します(私は子どもに日本語を勉強させます)
- 本を買います(私は子どもに本を買わせます)
- 準備を手伝います(私は子どもに食事の準備を手伝わせます)
「名詞+助詞+動詞」のとき、助詞が「を」のものは、「人+に+使役文」になります。
「を使役文」か「に使役文」か判断できることは非常に重要なので、私は教科書に載っている動詞は全て「名詞+助詞+動詞」で学習者に示し、言葉の意味と助詞を復習しています。
使役文の例外はどうやって教えてる?
「を使役文」と「に使役文」、どちらにも使える動詞もありますよね。
- 私は弟を駅で待たせました。
- 私は弟に父が到着するのを待たせました。
- 私は子どもを歩かせました。
- 私は子どもに山道を歩かせました。
どちらにも使える動詞は教科書に載っていますか?私は、載っていないなら教えません。教科書に「を使役文」と「に使役文」のどちらにも使える動詞が載っているのなら、そこだけ教えますが、基本練習の中には入れません。学習者を混乱させる要因は、初級の段階では省いたほうがミスが防げるからです。
中級の教科書になら載っているかもしれません。その時には基礎を復習したうえで、説明後に練習します。
基礎は非常に大切です。基礎が理解できていない段階で、それ以上のレベルのものは理解できません。逆に、基礎さえできていれば、その後いつだって理解できるので、例外の理解を急ぐ必要はありません。
まとめ
ミスを防ぐ使役形の教え方を復習します!
- 「Aさんが、何をして、Bさんが、何をするのか」明確にわかる導入をすること。登場人物をはっきりさせること。
- 使役形だけでも学習者にとっては負担が大きいので、自動詞や他動詞、受身形など学習者が苦手とする項目はできるだけ除外する。
- まずは基礎を固めることに集中し、応用問題や例外的な内容は基礎が固まってから学習する。
この3点を念頭に、使役形の導入と練習を考えてみてください。きっとうまくいくはずです!
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