イントネーションとは
「文全体の抑揚」であるイントネーションは、アクセントによって決まるところがあるのですが、言語教育などの分野では、その中でも「話者の表現意図に関する音の高さの変化」を指すことが多いです。
(ヒューマンアカデミー(2021)『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド第5版』翔泳社)
イントネーション:文レベルの、話者の表現意図に関する音の高さの変化
このイントネーションには文頭イントネーションというのもありますが、ここでは文末イントネーションについて詳しく見ていきましょう。
イントネーションの種類~文末イントネーション(上昇調、下降調、平調)
文末イントネーションの種類は、研究者によって色々な分類方法があるそうですが、大まかにこの3つに分類するのが一般的です。また、それぞれで表される話し手の表現意図が違います。
- 上昇調:最後の音の中で上昇しているもの(質問、勧め、誘いなど)
- 下降調:最後の音の中で下降しているもの(確認、納得、残念など)
- 平調:最後の音が上昇も下降もしていないもの(中立的な発話、遠慮がちなど)
A:本日担当させていただきます、Aです。
B:そうですか。
Bの「そうですか」をどんなイントネーションで言うのかでだいぶ印象が違いますよね。また、例えば同じ下降調でも色々な下がり方があって、それによって「納得」だったり「残念」だったりします。
アクセントとイントネーションの違い
両方とも音の高さの変化を表しますが、アクセントは単語レベル、イントネーションは文レベルです。そしてイントネーションは先述の通り話し手の表現意図で変わりますが、アクセントは個々の語について決まっているものですから、変わりません。
以下の語を上昇調(疑問文)で言うとしたら、どうなりますか。
- げんき? ↗ (高低低)
- あした? ↗ (低高高)
それぞれのアクセントが保たれたまま、最後が上がっているのが分かるでしょうか。
「元気(げんき)」のアクセントは「高低低」(頭高型)なので、最後の拍の「き」は2拍目の「ん」に続き低いところからスタートして途中で上昇しています。一方「明日(あした)」は「低高高」(尾高型)で最後の拍の「た」は「高」ですが、2拍目の「し」よりさらに上昇していますよね。
日本語においては、イントネーションは変わってもアクセントは変わりません。
ところが、学習者の中で例えば、英語圏出身の人などは、上昇調で言おうとするとアクセントまで変わってしまうことがあります。
「げんき?↗」というときにアクセントが変化して「低高高」になり、「げ」「ん」「き」の順番で徐々に上がっていく感じに(つまり「あした?↗」と言うのと同じように)よくなります。これだと途端に「外国人っぽい」という印象を受けますよね。
プロミネンスとは
文の中で一部分を目立たせるように言われたら、その部分に「プロミネンス(際立たせ、卓立)」が置かれたといいます。
目立たせる手段は声の強さ、高さ、速さを変化させたり、ポーズを入れたりなどがありますが、強く読んでプロミネンスを示すことが多いようです。プロミネンスが置かれる場所は普通、疑問詞や、疑問文の答えとなる部分、「新情報」です。
以下の会話を見てください。
(Aは待ち合わせ相手のBを探して電話をかけている)
A:今、どこにいますか。
B:南口にいます。
Aさんは、「どこに」という疑問詞にプロミネンスを置きますよね。これが「どこに」じゃなくて「いますか」のほうにプロミネンスを置くと違和感を持つのではないでしょうか。
いるかいないか、ということではなくて、(おそらくこの状況ではAさんは、Bさんは少なくとも同じ駅の中に「いる」ことを前提に話してるでしょう)その駅の中でBさんがいる「場所」を聞きたいわけですから。
それに対してBさんは「南口」、先ほどの「どこに」に対しての答えになる部分にプロミネンスを置いて答えます。
もう一つ見てみましょう。
A:説明会はA館の1階でしたか。
B:いいえ、B館の1階ですよ。
この場合、BさんはAさんの言ったことを訂正していますが、Aさんが間違えているところ、つまりAさんにとって新情報になる部分である「B館」にプロミネンスが置かれますね。
以下は松崎・河野(2009: 39)の例なのですが、どこにプロミネンスを置くべきでしょうか。
(あなたが学習者を車で送ってあげていて、学習者の家の近くに来たとき)
学習者:ここでけっこうです。
もちろん、「ここで」のほうですね。車を止める「場所」が大切で、伝えたい情報ですよね。もし「けっこうです。」のほうにプロミネンスを置くと、「仕方なくここで降りてやる」というような感じの悪い言い方に聞こえてしまいます。
試験について~プロソディーの聞き取り問題
アクセント、イントネーション、プロミネンスについて見てきましたが、これらは「個々の単音のレベルを超えた音声の特徴」(猪塚・猪塚(2019:129))であり、プロソディー(超分節的特徴)といいます。
学習者が文を言いますが、プロソディーの何かを間違えているので、教師が後から同じ文を言う形で訂正します。学習者と教師の発音を聞いて、学習者が何を間違えたのかを判断して選択肢を選びます。
選択肢にあるのはだいたい、このようなものです。
- アクセントの下がり目
- 句末・文末イントネーション
- プロミネンス
- 拍の長さ
ですが、この中で2つが組み合わされて「アクセントの下がり目とプロミネンス」のような選択肢があることもあります。学習者の間違いは1つとは限りません。
これまでの復習のようになりますが、選択肢を選ぶ際の判断基準をまとめてみます。
- アクセントの下がり目 →学習者と教師で、一単語の中の高低が違う場合
- 例)雨(あめ)と飴(あめ)
- 句末・文末イントネーション →両者の間で、文の最後の上昇、下降に違いがある場合
- 質問しているのか、納得を示しているのか、などの印象が違えばこの選択肢です。
- 例)「もう帰るんですか」の「か」が上昇↗︎するか下降するか↘︎
- プロミネンス →両者の間で、文の中で強調する箇所が違う場合
- 多くは強く言ってプロミネンスを置きます
- 例)「横浜にいるの?」の「横浜に」と「いるの」のどちらを強く読むか
- 拍の長さ → 両者で拍の長さ(拍数)が違う場合
- 特殊拍(撥音「ん」、促音「っ」、長音(引く音)「ー」)が含まれていることが多いです。
- 拍についてはこちらの記事に少し書いてあるので、ご覧ください。
- 例)「知っています」と「しています」
まとめ
いかがでしたか。
音声学の復習シリーズ、今ちょっと考えている最中ですなのですが、まだ書きたいテーマがいくつかあるので、これからも続くのは確かです(笑)
次回をお楽しみに。
参考文献
- 猪塚恵美子・猪塚元(2019)『日本語教師トレーニングマニュアル1 日本語の音声入門解説と演習 全面改訂版』バベルプレス
- 田中真一・窪薗晴夫(2004)『日本語の発音教室 理論と練習』くろしお出版
- 原沢伊都夫(2019)『日本語教師のための入門言語学 演習と解説』スリーエーネットワーク
- ヒューマンアカデミー(2021)『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド第5版』翔泳社
- 松崎寛・河野俊之(2009)『7日本語の音声Ⅰ』NAFL日本語教師養成プログラム 株式会社アルク
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