日本語教師になろうと日々勉強&模擬授業の準備を頑張っている皆様。日本語教育業界は、世間では周辺に追いやられがちであまり情報がないですよね。そんな未知の世界の入口で、先が見えなくて不安になることがあるかもしれません。
日本語教育業界で活動するということは、必ずしも日本語教師として教壇に立つことを意味しません。もちろん、数年日本語教師として教壇に立つ経験を積んだ後の話にはなりますが、その先には色々な道が開かれています。
その一つに、「日本語教師養成講座の講師として働く」ことがあります。そう、まさに今皆様の身近にいらっしゃる養成講座の先生方は、どのようにして養成講座の先生になったのでしょうか。
筆者はロシアで日本語教師1年目だったときに既に、養成講座講師の求人が目に入り、興味を持っていました。日本語教師という仕事が認知され情報が多くなってきた今でも「養成講座の講師になるには」という情報はあまりないのではないでしょうか。
筆者は日本語教師3年目のときに初めて養成講座講師として働き、これまでに4か所の養成講座機関で主に音声学、言語学、社会言語学、対照言語学など、言語学系科目全般を担当してきました。
日本語教育業界に入った後の一つの選択肢として、この養成講座講師として働くことについて紹介していきたいと思います。
メリットが沢山な日本語教師養成講座の仕事
日本語教師としての仕事も楽しいけれど、養成講座講師にも多くのメリットがあるのです。
やりがい
日本語教師養成講座講師として働くことは、日本語教師とはまた違った楽しさがあります。一つは間違いなく、「日本語教師としての経験が活かせる」ことでしょう。
実習を担当するときはもちろんですが、理論系科目を担当するにあたっても、この科目がどのように現場で役に立つのかを改めて考え、伝えていくことは日本語教師としての経験があってこそできることですね。皆様も、養成講座の先生が時々話してくださる、先生ご自身の日本語教師としての体験談や関連エピソードこそが、勉強になったと感じることがあるのではないでしょうか。
もう一つはその逆、「普段の日本語の授業(日本語教師としての仕事)に活かせる」ということです。理論系科目の方は特に、正直現場ではあまり使わず、忘れてしまっていることが沢山あると思います。それを養成講座で教えるためには、もう一度勉強し直す必要があります。
しかし、日本語教師としての経験がある状態だと、初めて能力試験の勉強をしたころと比べて、テキストが読みやすく、記憶にも残りやすいはずです。。養成講座で教えるために勉強し直すことによって、知識が定着し、普段の日本語の授業に活かせることがあったり、自分の日本語教育観を見つめなおす機会にもなったりします。
また、「受講生から刺激を受ける」機会が多いです。
日本語教師養成講座の受講生には、様々なバックグラウンドを持った方々がいらっしゃいます。現役大学生、社会人、主婦、定年退職して第2の人生を考えていらっしゃる方、外国の方もいらっしゃいます。純粋に日本語や日本語教育に興味がある、日本語教育の知識を今の仕事に活かしたい、海外に行ったときにできる仕事が欲しいなど、目的も様々です。
皆それぞれ家事や子育て、仕事、学業など忙しい中、教案を書いたり授業の練習をしたり、音声記号を覚えたりしているのです。個性豊かな方々の集まりであっても、色々な楽しさや大変さを共有する中で、受講生同士で深い絆が生まれているのがよくわかります(もちろん、機関によって雰囲気の違いはあります)。教える側もエネルギーをもらえるのです。
安定
養成講座の講師は、日本語教育業界で安定して働きたいという方にもお勧めな仕事です。理由は二つあります。
一つは、やはり「時給の高さ」です。
こちらの記事でもご紹介したのですが、養成講座講師の時給は筆者の知る限りだと2500~4000円程度/1時間くらいです。90分授業を1コマ行うと3750~6000円です。スタート時給は、保有資格、学歴、経験などにより決まることが多いようです。
もう一つは、比較的「コンスタントに担当するコマをいただける」ということです。
この記事を書いているコロナ禍である今もまさにそうなのですが、大地震など災害が起きてしまったときなどは、日本語教師としての仕事は確実に減ります。留学生が訪日を敬遠するようになってしまい、どの機関でも開講される日本語のクラスが少なくなり、専任講師だけで仕事が回るようになるからです。
それに比べて日本語教師養成講座機関であれば、もともと日本に住んでいる方が受講生ですから、災害の影響は受けにくいと言えます。
また、近年日本語教師という仕事が多く知られるようになり、筆者が日本語教育業界に入った9年前と比べると、日本語教師養成コースを開講する日本語学校などが増えているように思います。養成講座の経験者はもちろん、未経験の状態でも応募できるチャンスが沢山あります。
スケジュールの組みやすさ
日本語教師養成講座の講師はスケジュールが組みやすいので、日本語学校等で非常勤講師をしている人にはおすすめです。なぜスケジュールが組みやすいのか、理由は二つです。
一つは「平日夜や週末に授業が開講されることが多い」ということです。
お話しした通り、養成講座に通う受講生は色々な方がいらっしゃるのですが、昼間は会社勤めなどをしている方が多いです。そういった方々が講座に通えるのはやはり、平日の夜か週末になります。だから、ほとんどの養成講座機関では夜のクラス(18時台スタートが多い)や土日のクラスを開講しています。(もちろん、主婦の方などが通いやすい平日午前や午後のクラスもあります。)
日本語学校や大学同士で掛け持ちをしていると、スケジュールを組むというのは思いの外難しいものです。こういった学校の授業は午前から夕方ぐらいまでが多いためです。だから、一つの機関の仕事を優先して、仕方なく他の仕事を辞めたり、応募自体を諦めたりということがけっこうよくあります。
その点、養成講座機関だと、A校で日本語の授業をした後に、養成講座機関に移動して夜に授業をする、または、日本語の授業がない週末に養成講座機関で働く、ということが可能です。筆者も養成講座の仕事はだいたい夜で、「他校からの移動」後に勤務しています。
もう一つは「養成講座機関は付随業務が少ない」ということです。(日本語教師の付随業務については、下記記事をご覧ください。)
養成講座で同じ科目を繰り返し教える場合に限りますが、授業準備の時間を大幅に減らすことができます。授業準備の時間が少ないと、他の日本語の授業の準備に時間を当てたり、他校で更にコマ数を増やすこともできますね。
これは日本語の授業でも言えることだとは思いますが、一度教えたことがある項目を次に教える場合、うまく行かなかったところを改善する必要があったとしても、少しは授業準備の負担が減りますよね。
養成講座で教える場合は、相手は同じ日本人(または日本語が堪能な外国の方)です。自分も日本語教師を目指して勉強していた時期があるのですから、受講生と同じ目線で話すことができるので、日本語の授業よりは「教え方」に悩むことは少ないと思います。
逆に、養成講座である科目を初めて教えるときは、授業準備はそれなりに大変で時間がかかりますから、そこは頑張ってください!また、養成講座では毎回宿題の提出を求めるということもないので、採点をするのは最終日のテストのときぐらいです。
それに、一つの科目を一人の担当教師が教えることが多いので、チームティーチングのときのように他の先生に相談したり、引き継ぎをしたり、ということもほぼありません。
日本語教師養成講座講師になるには
さて、養成講座の講師になるにはどのような条件が必要なのでしょうか。
これも本当に機関によって様々で、「これは絶対」というものはないのですが、以下のようなものが多い印象です。
資格
いわゆる「日本語教師の有資格者」と同じです。
- 大学や大学院で、主・副専攻として日本語教育課程を修了した者
- 日本語教師養成講座420時間を修了した者
- 日本語教育能力検定試験に合格した者
特に3つ目、日本語教育能力試験に合格しているかどうかはやはり採用側も気になるようです。必須条件ではなかったとしても、養成講座で働くのであれば、合格しているほうがいいのは当然ですから、是非受験して合格しておきましょう。
学歴
4大卒、または大学院修士号以上(大学院在学中も可)という条件が付いていることもあります。
日本語教師としての経験
「日本語教師経験〇年」という条件が付いていることが多いですが、必須条件でないこともあります。理論系と実習のどちらを担当するのかによっても違い、例えば「日本語教師歴 理論系科目:3年以上 実習科目:5年以上」というように記載されていることがあります。
実習担当の講師のほうが、日本語教師としての豊富な経験を求められることは想像に難くないと思います。理論系科目を担当するのであれば、日本語教師としての経験が少なくても(あったほうがいいが)大学院で専門に学んだ経験があればOKということもあるようです。
養成講座講師としての経験
こちらは、少なくとも求人票では「未経験者可能」と書いていることが多いですが、「養成講座経験者優遇」と注意書きされているのも見かけます。「優遇」や「望ましい」という表現は色々な求人で散見されますが、そこは気にせずに応募してみてください。
未経験者でも「日本語教師歴が長い」「大学院修了」、または「熱意がある」「人柄がいい」などといったことも含め総合的に判断して、採用される可能性は十分にあります。
また、担当科目についてですが、ある科目を教えられるかどうかは「自己申告」になります。例えば、「音声学」を教えるのに何か資格がいるわけでもなく、「大学(院)時代の専門が音声学でなければならない」ということもありません。面接で数分の模擬授業をすることはあっても、音声学の知識が豊富にあるかが試験などによってチェックされることはありません。
自分の専門ではない科目を担当し、一から勉強して教えるということも普通にあります。筆者は大学院時代に応用言語学を専攻していたので、言語学系科目を中心に教えていますが、実習や教授法、語彙や文字表記など別の科目を担当することもあります。
未経験の方は、応募の際に教えられる科目を伝えるときは、とりあえず「学生時代の専門に近いもの」「養成講座時代に得意だった、または興味があった科目」を挙げればいいでしょう。万一採用側に違う科目をやってほしいと言われた場合でも、よほど嫌いな科目でなければ積極的に引き受けてみてください。
まとめ
日本語教師としてだけでなく、日本語教師養成講座講師として働くということについても知っていただきたく、養成講座の仕事のメリット、仕事を得るのに必要なことをお伝えしました。
日本語能力検定試験の勉強をしている方、養成講座に受講生として通っている方、特に興味を持った科目に関しては、ぜひそこで学んだ知識をアウトプットすることを意識して勉強してみてはいかがでしょうか。
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