音声学の復習④口腔断面図の見るポイント~能力試験合格を目指そう

SenSeeライターおおたです。

音声学の復習シリーズ、4回目は口腔断面図についてです。

養成講座の受講生の方々から、音声学の何が難しいかという話になったときに必ず挙がるのが、この口腔断面図です。

口腔断面図の見方については、本当は復習シリーズの2回目と3回目の子音のところで、一緒に扱うのが普通だと思うのですが、今回、これだけで一記事書くことにしました。音声学の教科書にも必ず口腔断面図が出てきますし、その見方について説明があっても少しさらっとした印象かもしれません。

試験では、学習者と教師の発音を聞いた後、「学習者が間違えた発音をしているときの口腔断面図」を4つの中から一つ選ぶという問題が必ず出題されます。

正しいものをできるだけ早く選べるように、もう一度、口腔断面図の見方を確認しておきましょう。

目次

口腔断面図の見るべきところ

試験の問題で、答えの選択肢として4つの口腔断面図が並んでいると、全部同じに見えるという人もいるのですが、図の中で違いが表れているところ(注意して見なければならないところ)は主に以下の3つです。

唇と舌(舌の盛り上がる場所)

唇と舌でわかるのは…調音点です。

上記の図の調音点はどこかということは置いておいて、とりあえず横顔(口腔断面図)の見なければならない場所は唇と舌だという話です。

後述の通り、舌は調音点によって形が違う(舌の盛り上がる位置が違う)のですが、ある口腔断面図を見て「あれ?舌の盛り上がってる位置どこ?どこ?」といつまでも悩んでいたら、実は舌はどこも盛り上がっておらず、つまり調音点は舌ではなく唇(調音点=両唇)だったということもありますから、ご注意を。

どの口腔断面図も必ず、「唇、または、舌(のどこか)」が「どうか」なっています(笑)

閉鎖か狭め

「唇、または、舌のどこかがどうかなっています」の、「どうか」とはこの「閉鎖」か「狭め」のことです。閉鎖であるか狭めであるかは、調音法と関係があります。

唇がどうかなっている例(調音点:両唇)

違いはわかりますね。左は文字通り上と下の唇(両唇)がくっついて閉鎖しています。右は両唇が近づいているだけで(狭め)、閉鎖はしていません。

舌がどうかなっている例(調音点:歯茎かそれより後ろ ※この例は、調音点が歯茎である場合)

舌先が歯茎にくっついて「閉鎖」しているのが左、近づいていて「狭め」を作っているのが右です。調音点によって舌の盛り上がる位置、閉鎖または狭めが作られる位置は変わりますが、とりあえずここでは、「閉鎖」と「狭め」というものについてだけ、確認しておいてください。

鼻腔への通路

下の図で示しているところが開いているかどうか(咽頭の壁から口蓋帆が離れているかどうか)も見るべきポイントになります。開いていたら、この調音法は「鼻音」となり、閉じていたらそれ以外です。

それぞれの調音点を口腔断面図で表すと?

日本語の子音にある調音点のうち、「両唇・歯茎・歯茎硬口蓋・硬口蓋・軟口蓋」の5つを口腔断面図で表すとそれぞれ下の表のようになります。もう一つ、ハヘホの子音の調音点である「声門」がありますが、これについては後ほど補足します。

まずは、「両唇」と「歯茎」です。上段が「閉鎖」、下段が「狭め」です。

歯茎の舌の形ですが、舌端が歯茎についたり(閉鎖)、近づいたり(狭め)していて、舌全体は平らになっていますね。

続いては、残りの「歯茎硬口蓋」「硬口蓋」「軟口蓋」です。同じく上段が「閉鎖」、下段が「狭め」です。

それぞれの調音点に、舌のどの部分(舌端、前舌、中舌、後舌など)がつくかというのはわざわざ暗記するようなことではないでしょう。調音点が前のほうであれば、舌の前のほうが(後ろのほうであれば後ろのほうが)つくのが自然ですからね。

ただ、問題の選択肢で口腔断面図がいくつも並んでいると、区別がつかなくて、正しいものを選べないという方も多くいらっしゃいます。特に迷うのは「歯茎硬口蓋」「硬口蓋」あたりです。

「歯茎硬口蓋」は「舌端~前舌」ぐらいがつくので、図でも舌の前のほうが盛り上がっていますね。一方で、「硬口蓋」は「前舌~中舌」くらいですから、舌のだいたい真ん中が盛り上がっています。

舌がきれいな山になっていたら「硬口蓋」、歪な形をしていて、前のほうが高かったら「歯茎硬口蓋」、後ろのほうが高かったら「軟口蓋」だと思っておけばいいでしょう。

さらに「歯茎」と「歯茎硬口蓋」も点の位置としてはとても近いので、間違える方がいらっしゃいます。この2つをもう一度比較してみましょう。

この両者を見分けるポイントの一つは、舌の盛り上がりの後ろの部分の形です。「歯茎」は平になっていますが、「歯茎硬口蓋」はゆるやかにカーブしていますね。

調音法ごとに整理してみよう

それでは、調音法ごとの口腔断面図の特徴を整理しましょう。

日本語の子音にある調音点のうち「鼻音、破裂音、摩擦音、破擦音」について見ていきます。ラ行の「弾き音」については後ほど述べます。

※上記の図はどれも、調音点が「両唇」の場合です。

「調音点」のセクションでやったように、調音点が「歯茎」以降の場合は唇は開いた状態で、代わりに舌のどこかが高くなり、「閉鎖」や「狭め」を作ります。

鼻音

まず、口蓋帆を見て壁から離れていたら、それは鼻音です。そして鼻音の場合は、必ずどこかが「閉鎖」されています。図の場合は「両唇」で「閉鎖」を作っているので、これは日本語のマ行にあたります。

他は、以下のようなものがありますね。

  • ナヌネノ 歯茎
  • ニ 歯茎硬口蓋
  • カ゜行(鼻濁音)軟口蓋

破裂音・破擦音

鼻音と同じように「閉鎖」されている部分があるけれど、口蓋帆が壁についていたら、破裂音か破擦音になります。(後述する弾き音(ラ行)も「閉鎖」で口蓋帆がついていますが。)

図の場合は同じく調音点が「両唇」ですから「破裂音」となり、パ行かバ行ということになるでしょう。(「両唇破擦音」ってなかったですよね!)

他、破裂音は以下です。

  • タテト/ダデド 歯茎
  • カ行/ガ行 軟口蓋 

破擦音

  • ツ/語頭のズ(ヅ) 歯茎
  • チ/語頭のジ(ヂ) 歯茎硬口蓋

破擦音がどういう音だったかもう一度思い出してください。破裂音と摩擦音が一緒になった音ですよね。ですから、本当は「閉鎖」を開放した後で、その部分に今度は「狭め」ができて摩擦が起きます。ですが、口腔断面図は「最初の部分」を表すものなので、破擦音の口腔断面図では「閉鎖」になっています。 (閉鎖を開放した後の部分を表すと、後述する「摩擦音」の口腔断面図と同じものになるでしょう。)

摩擦音

閉鎖が無く、「狭め」があったらそれは摩擦音です。(口蓋帆が離れていたら鼻音、「狭め」だったら摩擦音、それ以外は破裂音か破擦音ととりあえず思っておけばいいと思います。)
上記の図は両唇摩擦音なので、日本語の「フ」です。

  • サスセソ/語中のザズゼゾ 歯茎
  • シ/語中のジ 歯茎硬口蓋
  • ヒ 硬口蓋
  • ハヘホ 声門

その他、知っておきたい口腔断面図

これまでの口腔断面図の他に、試験に出る可能性のあるものなど、一度くらい見ておいたほうがいいんじゃないかと私が思うものを載せておきます。

「ハヘホ」無声・声門・摩擦音

先ほど「調音点」のところで、後回しにした「声門」です。調音点が「声門」であるのはハヘホです。この子音の次に続く母音(ハ・ヘ・ホそれぞれの母音=a, ɯ, o)と同じ口の構えをして、口の中全体で摩擦させます。ですので、どの母音かによって上記の図の舌の形が変わりますね。

「ラ行」有声・歯茎・弾き音

調音点は、タテト/ダデドなどと同じ「歯茎」なのですが、調音法は「弾き音」で他に仲間がいません。上記の図のように舌が少し反った感じで表されることが多いです。

撥音「ン」は後に続く音によって調音点が変わります。(撥音「ン」の異音については、音声学の復習⑤で扱いたいと思います。)

図の左側、例えば「パン」や「日本」など、語末の「ン」のときは口蓋垂鼻音になります。舌のかなり奥のほうなので、自分では感じにくいと思いますが、口蓋垂に舌の奥が触れています。

右側は、後に母音や半母音、摩擦音が続く「ン」で、鼻母音(鼻腔への通路を開けながら発音される母音)と言われます。点線の部分、舌の形はやはり後に続く音によって変わります。

口腔断面図カルタ

口腔断面図もやはり何度も見て慣れることが必要ですが、そのための練習方法の一つとしてお勧めできるのが口腔断面図カルタです。

日本語にある子音の口腔断面図を中心に集めてカードにして束ねておきましょう。テキストに載っている口腔断面図のリストをコピーして一枚一枚切り離してもいいですし、この際自分でカードを作って、口腔断面図を一度でも書いてみてもいいかもしれません。

複数人いるときは、この口腔断面図のカードでカルタのように遊んでください。

カードを机の上に散らして、一人の人に調音点と調音法を言ってもらい(例:「両唇摩擦音」「歯茎破裂音」などと言ってもらい)、それに該当するカードを選んで取るという具合です。

一人のときは、カードを見て調音点と調音法また、日本語にある子音を言ってみるという練習もいいと思います。また、口腔断面図の裏に、調音点調音法、日本語の音を書いておいて、単語帳のように使うこともできそうですね。

まとめ

この記事では口腔断面図に焦点をあててじっくり解説しました。ぜひ音声学の復習②③と合わせて理解を深めてくださいね。

試験の中で口腔断面図を選ぶ問題は数問しかないので、それだけのためにやるのかと思ったらバカらしいかもしれません。日本語の子音一つ一つの調音点と調音法を覚える際に、自分で発音して口の中の動きを確認し、じゃあ図(口腔断面図)に書き表すとどうなるのか、というふうに見ていきましょう。

次回は特殊音素の一つ、撥音「ン」の異音についてです。

参考

  • 猪塚恵美子・猪塚元著『日本語教師トレーニングマニュアル1 日本語の音声入門解説と演習 全面改訂版』2019バベルプレス
  • ヒューマンアカデミー『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験完全攻略ガイド第4版』2019翔泳社
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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 調音点と調音法の違いが良くわかりました。無声、有声の違いが、よくわかりません。
    かの区別法を教えて下さい。

    • ご質問ありがとうございます。
      有声音と無声音を口腔断面図で示すとどのように違うのかということですね。
      実は有声音か無声音かというのは口腔断面図では示すことができません。
      軟口蓋破裂音[k, g](カ/ガ行)、歯茎破裂音[t, d](タテト/ダデド)、両唇破裂音[p, b](パ/バ行)のような有声無声のペアは、それぞれ全く同じ口腔断面図ということになります。
      歯茎摩擦音[s, z](サスセソ/ザズゼゾ(語中))、歯茎硬口蓋摩擦音[ɕ ʑ](シ/ジ(語中))、歯茎破擦音[ts, dz](ツ/ザズゼゾ(語頭))、歯茎硬口蓋破擦音[tɕ dʑ](チ/ジ(語頭))も同じです。
      ただ、調音法には有声音しかないもの(鼻音、はじき音、接近音)もあるので、口腔断面図の調音点調音法から、有声音であると判断できることはありますね。例えば、鼻腔への通路が空いていれば調音法は鼻音だと判断でき、その音は当然、有声音だということになります。
      ご不明点があれば、またコメント欄でお知らせくださいませ。

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