こんにちは、日本語教師兼怪談作家の安達です!前回の『怪談のススメ1』はお読みいただけたでしょうか?怪談を使った読解授業や文法問題などについて書いているので、ご興味ある方は是非そちらもチェックしてみてくださいね。
さて、今回はアウトプットを中心とした活動について書きます。学習者のアウトプットをうまく引き出せるのが怪談です。
怪談授業:聴解
まずは怪談を使った聴解問題について説明します。聴解は問題を自作するのが難しいので既成の教科書や問題集を使いますよね。
答えに繋がるヒントがちょっと分かりづらくて、よく考えなければ正答にたどり着けないような、能力試験対策にもなるような、そんな「ちょうどいい問題」…自分でも作れたらいいと思いませんか?
そんな時は怪談を使いましょう!
聴解問題にぴったりですね。
例えば、こんな問題が考えられます。
<本文>
ある日、田中さんは最終電車で家に帰っていました。電車がA駅を出発した時、突然電気が消えました。それから電車は次の駅に停まりましたが、電気は消えたままでした。暗くて何も見えませんでしたが、電車を降りた人たちの足音が聞こえました。
また電車が動き始めて、しばらくすると電気がついて明るくなりました。その時、「次は、B駅です」という車内放送が流れました。
田中さんはびっくりしました。
A駅の次はB駅です。A駅とB駅の間に駅はありません。あの駅は何だったのでしょうか。
例えば、この短い怪談でもいくつかの聴解問題が作れます。
<問題例①>田中さんはどうしてびっくりしましたか。
1.A駅で降りたかったのに乗り過ごしてしまったから。
2.B駅でたくさんの人が電車を降りたから。
3.駅がないのに電車が停まったから。
4.電気が消えたから。
というように内容について問うものや、
<問題例②>( )に言葉を書き入れてください。
・・・突然電気が( )。それから電車は次の駅に( )が、・・・
などのように、ターゲットにしたい語彙や文法を穴抜きにして、聞いて書きとってもらうという問題も考えられます。もちろんこれだけでなく他にも色々な問題が作れますし、語彙や文法のレベルだってカスタマイズできます。
怪談(特に実話怪談)は聴解にちょうどいい長さのものが多いので、大まかな話の流れさえ押さえておけば、あとは好きなように問題が作れます。学習歴が長い学生の中には「N1とN2の問題集は全部解いたことがあります!」という猛者もたまーにいるので、マンネリ防止のためにもオリジナル問題が自作できるようになると安心ですよね。
怪談授業:アウトプット
みなさんは外国の怪談を聞いたことがありますか?学生から聞いたことがあるという人もいるかもしれませんね。
それぞれの文化や社会、そして宗教も深く関わっていてどれもすごく面白いんですよ。聞いてみたいですよね。ただ、「何か怖い話教えてください」というだけではなかなか思うように聞き出すことはできません。
怪談に限らずですが、相手の発話をうまく引き出すのにはちょっとしたコツがいるんです。怪談作家として怪談を書くにあたり数十人もの人にインタビューを行ってきました。そのノウハウも交えながら説明したいと思います。今日からすぐにできることばかりなので是非参考にしてみてください!
初級レベルの学習者編
初級の授業にありがちですが、学習者から発話を上手く引き出せないという問題がありますよね。どうして彼らにとって話すのが難しいのかというと、
- 話したいことがない
- 話したいことはあるが日本語で何と言えばいいか分からない
大体この2つが考えられます。
怪談をテーマにした活動ですので1つ目の問題はクリアできますね。そうそう、先程「怪談教えて!」というだけでは怪談を聞き出すことはできないと書きましたが、そうなんです。もし自分がその質問をされたとしたら「え?怪談…?さぁ…」と困ってしまうと思いませんか?
そこでスムーズに怪談を教えてもらう手順としては以下の通りです。
- 知っている怪談を話す。何でもいいですができればうっすら不思議な話がいいと思います。あまりにも怖い話だとハードルが上がってしまうので。
- ①で話したことにまつわる事柄について質問する。例えばあなたが話した怪談が電車で起きた話だったとしたら「電車に乗った時に怖いと思ったことはありますか?」というような質問をしましょう。
電車だけでなく、大きな範囲で「駅」とか「乗り物」としてもいいと思います。本人自身の体験でなくともOKです。「友達や家族の中にこんな体験をした人はいますか?」と聞いてみましょう。 - 書いてもらう。まずは話を頭の中で整理してもらうことが大事です。5W1Hをしっかり書いてもらうようにしましょう。授業時間内で書くのが難しいなら宿題にしてもいいですね。
初級だと大体ここで終わります。書いたものをクラス内で発表してもいいですが、十分な準備が必要です。例えば、学習者が書いた怪談に未習の語彙が多すぎる場合は既習の表現に変えたり、文法の間違いがあれば直したりしたほうがいいですね。
怪談は単純な起承転結がない場合も多くあります。そのため話の展開が読めず、分からないところがあっても自分で補完することが難しいです。せめて語彙や文法は聞いて理解できるように準備しておきましょう。
中・上級編
中・上級の学習者に怪談を聞く場合、基本的には初級と同じ手順です。ですが、より自由度の高い活動ができます。私が実際に行った活動をいくつか紹介したいと思います。
怪談会
怪談会とは言っても百物語のような壮大なものではありません。
とはいえ1コマの授業で完結させるには「1人3分以内」というように時間制限を設けましょう。時間内に話せるようになるには練習が必要です。1週間ほど準備期間があれば怪談会当日はスムーズにすすみますよ。
怪談を使ったオノマトペ指導
「ワンワン」や「とんとん」などは初級で学習する簡単なオノマトペですよね。
怪談にもオノマトペが多用されています。例えば「ぎぃぃ~」とか「ひたっひたっ」とか(ちなみに、前者は立て付けの悪い扉が開閉する音、後者は裸足で歩く音です)。
中には辞書に載っていないオノマトペも多く、文字だけで示されても学習者は理解できません。そのようなちょっと難しいオノマトペは怪談を使って教えましょう。
- オノマトペを板書
- 何を表すオノマトペなのか推測させる
- 怪談を視聴して答え合わせ
1つ注意してほしいのですが、稲川淳二さんの怪談は避けた方がいいと思います。日本滞在歴が長く、さらにN1にも合格した人でさえ稲川さんの怪談は聴き取れないようでした。
城谷歩さん、牛抱せん夏さんなどの若手の怪談師の話はとても聴き取りやすいのでお勧めです。例えば牛抱せん夏さんの怪談『娘』、わずか5分の話の中に「がりがり」「じー」「カラカラカラ」など多数のオノマトペが出てきます。
ほとんど全ての怪談で複数のオノマトペが使われているので、目当てのオノマトペを含むものがきっと見つかると思います。ぜひご自身で探してみてください。
もしかしたらあなたの学生がプロ怪談師に…!
現在、第一線で活躍している怪談師や怪談作家は日本人だけです。外国の怪談もありますが外国人から聞いた話を翻訳しているものがほとんどです。「これは私の国で本当にあった話なんですが…」と言って語り始める外国人怪談師がいたらいいのになぁと常々思っています。
学生を怪談師にするために日本語を教えているわけではありませんが、中にはそのような表現者を目標にする人もいるかもしれませんよね。
学習者の好奇心を刺激するような楽しい授業に、ぜひ怪談を取り入れてみてくださいね!それではまた次の記事でお会いしましょう。
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