怪談のススメ①授業で使いやすい怪談と読解問題例

こんにちは、日本語教師兼怪談蒐集家の安達です!子供の頃から怖い話が好きで、夏になると怖いテレビ番組が日々の楽しみでした。『あなたの知らない世界』とか懐かしいですね。

大学生になり、色々な国へ旅行できるようになると各国の怪談を集めてまわるようになりました。その頃から怪談蒐集をしているので、怪談のキャリアは日本語教師歴よりも長くなってしまいました。

怪談好きが高じて、今では様々な媒体で怪談を書くようになりました。あの稲川淳二さんからも講評を頂いたことがあるんですよ。ちょっとした自慢です。

さて前置きはこのくらいにして……。今回は怪談蒐集家でもある筆者が、怪談を取り入れた日本語授業の提案をしたいと思います!大好きな怪談を学生にも紹介したくて時々授業に取り入れているんですが、意外にも怪談は色々な活動に使えて、しかも学生の反応も良いんです。

怖いのが好きな方も怖がりな方も、皆さん最後まで読んで頂けると嬉しいです!(※本記事に幽霊は登場しません。読んでも呪われたりしないのでご安心ください)

目次

なぜ怪談なのか?

突然ですが、怪談と聞いてどんなことをイメージしますか?怖い、暗い、気持ち悪い、大体こんなところでしょうか。何となくですが、授業では使いづらいイメージですよね。

ですが、怪談は何かと使い勝手がいいんです。その理由を私の経験も踏まえてまとめてみました。

まず第一に、四技能(読む・書く・聞く・話す)全ての活動に使えるということが挙げられます。

怪談というと「先生が一方的に話すだけでしょ?」と思う人が多いでしょうが、そうではありません。もちろんそういう使い方をしてもいいんですが、長文読解に使ったり怪談をベースに文法の問題を作ったり、また、学生の発話練習に使ったりすることもできます。

極端な話ですが、怪談が一話あれば読解にも聴解にも使えます。使い方は先生次第、それが怪談のいいところです。具体的な指導例は後述します!

それから2つ目の理由は「授業のマンネリ化を防ぐことができる」です。

教科書や問題集に載っているトピックは同じものが何度も使われていることがあります。
その点、怪談は学生にとって初めて聞く話が多いです。まず「今日は怖い話をします」と言っただけで興味を引くことができます。

人気のある日本のポップカルチャー・サブカルチャーのコンテンツはアニメと漫画だけではありません。近年、「Jホラー」も幅広い層から支持されるようになりました。ホラーファンの学生も意外と多いんですよ。

授業で使いやすい怪談とは?

私がいつも授業で使用している怪談は、基本的に私が自分で聞き集めた実話です。それをそのまま使うこともあれば、クラスのレベルやその時の授業内容に合わせてアレンジを加えたりすることもあります。

ただ、自分で怪談を集めてそれを文章にまとめているという人はあまりいないと思います。0から作るのも大変ですよね。「それでも怪談を使ってみたい」という人は、既成の怪談を借りましょう!

以下に使いやすい怪談の素材をリストアップしました。

読む怪談

まずは読解に適した怪談です。クラスのレベルや授業時間にもよりますが、大体1000字以内の短編の怪談がいいかと思います。また、内容ですができれば現代の話がいいです。「雪女」や「おいてけ掘り」など古典的なものは時代背景が現代と全く異なっているので学生にとって理解しにくいですから。

実際に授業で使ったことがあるのは『恐怖怪談 呪ノ宴』城谷歩著『全国怪談オトリヨセ』黒木あるじ著などの短編怪談集です。語彙や文法も日本語学習者にとって難しすぎない話もあるのでお勧めですよ。

『全国怪談オトリヨセ』は、タイトル通り全都道府県の実話怪談が収録されています。ご当地怪談は授業で盛り上がるテーマなので個人的にお気に入りの一冊です。

聴く怪談

次は聴く怪談です。聴解練習などに使います。

怪談といえば何と言ってもやっぱり稲川淳二さんのイメージが強いですが、稲川さんのお話は早口で、日本語学習者にとってはかなり聴き取りづらいんですよね。

稲川怪談はオノマトペが多いのでいい教材になると思ったんですが、ちょっと難しかったです。日本のドラマを字幕なしで見る学生でさえ半分も理解できなかったと言っていました。

そこで、聴く怪談でお勧めなのが怪談ユニット「怪談社」のお話です。YouTubeに2~5分程度の短い怪談がたくさんアップされているのでチェックしてみてください。

【怪談社】実話怪談「噛む」

中級レベルの授業の聴解練習に最適です。ゆっくりとして聞き取りやすい話し方で、また文末が「です・ます」なので、事前にいくつか語彙を導入すれば初級クラスの授業でも問題ないと思います。

怪談を使った授業例

では、実際に怪談を使ってどのような授業(活動)ができるのか、詳しく説明していきたいと思います。ちなみにクラスは『みんなの日本語 初級Ⅰ・Ⅱ』を終え、『中級へいこう』や『みんなの日本語 中級Ⅰ』に入ったレベルです。まずは怪談本編をご覧ください。

ある日、田中さんは最終電車で家に帰っていました。電車がA駅を出発した時、突然電気が消えました。それから電車は次の駅に停まりましたが、電気は消えたままでした。暗くて何も見えませんでしたが、電車を降りた人たちの足音が聞こえました。

また電車が動き始めて、しばらくすると電気がついて明るくなりました。その時、「次は、B駅です」という車内放送が流れました。

田中さんはびっくりしました。

A駅の次はB駅です。A駅とB駅の間に駅はありません。あの駅は何だったのでしょうか。

読解の問題例

上記の怪談を読解問題として使った際に学生に出した問題です。

〇×問題(内容をざっくり理解する目的)
①電気はA駅に着いたあとで消えました。
②田中さんが降りる時、電車は暗いままでした。
③A駅とB駅の間で車内放送が流れました。

これで時系列を整理した後、以下の問題で詳しく確認します。

①田中さんはどうしてびっくりしましたか。
②「あの駅」はどんな駅ですか。

内容を詳しく確認する問題では、怪談の要点、つまり不可思議な現象や恐怖の対象などについて理解しやすいように解説します。一読しただけでは理解しにくい話でも、問題にして考えることで内容をしっかり把握させることができます。

文法練習の問題例

さらに、怪談で文法の練習もできます。

例えば「~たまま」の文型を導入した後でしたら、これまでの文型の復習も兼ねてこんな文法問題はどうでしょう。

・(   )内の言葉を正しい形にしてください。

駅に着いても電気は(消えます)ままでした/電車が(動きます)始めました/電気がついて(明るいです)なりました 等々。

また、本文には自動詞が多用されているので、自動詞・他動詞の復習として自他動詞のペアを提示し、正しいものを選んでもらうという練習も考えられます。

・(   )内に次の中から正しい言葉を選んで書きましょう。

「消えます 消します つきます つけます」

それから電車は次の駅に停まりましたが、電気は(    )ままでした。暗くて何も見えませんでしたが、電車を降りた人たちの足音が聞こえました。

また電車が動き始めて、しばらくすると電気が(    )明るくなりました。

このように、短い怪談1つで色々な練習ができます。

今回は読解と文法練習が中心でしたが、他にももっと学生のアウトプットに重点を置いた面白い活動もできますよ。また、怪談を朗読した音源があれば聴解練習だってできる!聴解やその他の活動については別記事にてまた詳しく書きたいと思います!

これだけは気をつけて!STOP オカハラ

1つの怪談で色々な活動ができる怪談ですが、注意しなければいけないことが2つあります。

  1. 語彙や文法をクラス(学生)の修学進度に合わせること。
  2. 内容が適切であること。

①についてはわざわざ言うまでもなく皆さんが常に心がけていることだと思いますが…。使いたい怪談にはどのような語彙や文法があるのかをいつも以上に念入りに分析しておくといいでしょう。できれば「教科書の〇課」や「N3文法」などのように、レベルの目安も併せて一覧にしておくと後々使いやすいです。

それから②ですが、怪談には過激な表現や殺人の描写など、不快に感じられる表現が含まれている場合があります。できれば「怖い」よりも「不思議な」話を選んだ方がいいですね。

いくらフィクションとはいえ、怖い話や心霊が苦手な人もいます。「怖いからやめてほしい」という学生がいるのに無理に怪談授業を行ったらオカハラ=オカルトハラスメントになっちゃいますからね(『オカハラ』元々は急に出てきて脅かしてくるオバケに対して使われていた言葉のようです)。

とは言っても、適切なレベルかつ適切な内容の怪談を探したり、自分で1から作ったりするのは大変ですよね。

SenSee Marketでは怪談教材を販売予定です。日本語学習者にとって理解しやすいようにアレンジした怪談で、文中で使われている文法・語彙リスト付きです。更に怪談の音声データ付き!読解だけでなく聴解練習やその他色々な活動に使えます。是非見てみてください。

というわけで、今回は怪談授業導入編でした。1人でも多くの先生と日本語学習者の方に「怪談って面白いな」と思っていただけたら嬉しいです。ではまた次の記事で!

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • とても参考になりました。
    オンラインの日本語授業で怪談社様の動画を使ってみたところ、Jホラー好きの学習者に大好評でした。
    今後も使えると嬉しいのですが、そこで質問があります。
    Youtubeやネット上で公開されている動画を画面共有することは、著作権上、どのような扱いになるのでしょうか。
    URLを送り、学習者に試聴してもらってから、その内容を使って授業するならば問題ないのでしょうか。
    アドバイスいただけると幸いです。

    • 佐々木様、こんにちは。
      記事を読んでくださり、ありがとうございます。

      ご質問の件ですが、文化庁のページに教育機関における著作物の扱いについて明記されています。それによると「授業中に教育の一環として使用するものであれば著作権者等への許諾を得なくてもいい」ということです。

      また、YouTube内の規約には「いかなる動画もダウンロード禁止」となっています。

      つまり、クローズドな授業内でクラスの学生のみを対象にYouTube上の動画を画面共有して再生するのは著作権的には問題ないという解釈でよろしいかと存じます。
      回答についてご不明な点がございましたら、またお気軽にコメント等でご質問ください。

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