JLPTと同様に日本語力の証明に使える試験?日本語教師なら知っておきたいJ.TESTの基本①【受験場所と出題内容】

こんにちは、SenSee編集部のいのっちです!

多くの日本語学校で指導に力を入れている、たくさんの日本語学習者が必死に勉強していることと言えば、JLPT(日本語能力試験)じゃないでしょうか。

JLPTは日本語力の証明として使えます。

日本語学校を卒業したら進学・就職に、または日本語学校に入学するための証明として。

つまり日本語教育、日本語教師、日本語学習者にとってめちゃくちゃ重要。

じゃあ、JLPTがなくなったら?誰もがそんなことないって思っていたら、昨年(2020年)7月に予定されていた、2020年第1回のJLPTはコロナ禍で実際に中止になりました。

さて困りました。進学や就職のためには日本語力の証明がどうしても必要です。代わりにどんな試験を学習者に紹介しますか。

JLPTほど受験者数が多くて、認知されているものってないのよね・・・ホント。

そこでご紹介するのが、J.TEST(実用日本語検定)。この試験聞いたことがありますか。

聞いたことはあるけど、内容はそこまで知らない、試験を実施したことはないって方多いかもしれません。

今回はJLPTほど万能じゃないけれど、日本語力の証明として使えるこのJ.TESTについてお伝えします。知っている方も、知らない方も、聞いたことあるけど教えたことはないって方も、ここで基本をおさえて、学習者にアドバイスできるようになりませんか。

コロナ禍で求められる柔軟な対応と知識、ここでゲットしましょう!

目次

JLPTが中止になったら!?勤務校がJ.TESTを実施した2つの理由

  • JLPT(日本語能力試験)は、年に2回、7月と12月に試験があります。
  • 日本(47都道府県)でも世界(85の国・地域、249都市)でも受験することができます。
  • 2019年、年間受験応募者数は、136万6,020人で過去最多だったそうです。

もうなんて最強の試験・・・学習者はこの試験に向けてめちゃくちゃ頑張ります。誰も中止になるなんて思いません。今までだったら。

ところが新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって「2020年度7月試験については、日本国内実施、海外実施ともに、全面中止」となりました。

みなさんの学校はどうしましたか。学習者にどのように対応しましたか。

私が勤めている日本語学校では、J.TEST(実用日本語検定)を実施するという選択をしました。理由は2つ。

  • 9月に卒業する学生がいる=12月のJLPTまで待てない。
  • 就職や進学にどうしても日本語力の証明が必要だった。(9月卒業の学生)

今後もコロナウイルスの状況により、試験がどうなるかわかりません。

このような状況だからこそ、J.TESTの知識をゲットして学習者の日本語レベルアップに活かしましょう。

JLPTの代替案になる!?J.TESTって何?基本の2選

2020年5月19日にJLPTの中止の発表、すぐにJ.TESTへ舵を切ったわけですが・・・めちゃくちゃ大変でした。なぜって?

  • JLPTに比べてJ.TESTは、情報が少ない。(Web上の情報やテキストなど)
  • J.TESTの名前は聞いたことがあるけど、教えたことがある先生がいなかった。

みなさんには、そんなドタバタな思いはしてほしくない!学習者に聞かれた時に、他の先生に聞かれた時にアドバイスができるようにJ.TESTの基本をお伝えします。

本日お伝えするのは、J.TESTの基本の2つです。初歩の初歩、バッチリ理解しましょう。

J.TESTの基本

  • ①日本全国、世界、学校受験もできる。
  • ②企業向け団体試験=ビジネス日本語が出る

日本国内、世界で受けられる?学校受験まで!?

J.TESTは、JLPT同様、日本国内、世界でも受けられるんです。
2021年度は世界12か国、国内は24都道府県で実施されています。
(年度により受験都市は変動、また都市により年6回実施と年3回実施がある)

年間受験者数は、会社員、留学生、日本語学校生などで約5万人。

JLPTに比べたら・・・受験場所数も受験者数も比べものになりません、はい。でも2020年7月にJLPTが中止になったとき、多くの日本語学校がJ.TESTに切り替えたと聞きました。正式な発表は出ていませんが、5万人より受験者数は増えているはずです。

J.TESTのメリット

  1. 年間の試験回数が多い
  2. 準会場試験(国内)=各教育機関で実施できる

①年間の試験回数が多い

JLPTは年に2回の試験、一方J.TESTは年に6回試験(場所やレベルにより)があります。

  • A-Cレベル/D-Eレベル 年6回(1月、3月、5月、7月、9月、11月)
  • F-Gレベル 年3回(1月、5月、9月)

※レベルは次の記事、J.TESTの基本②でお伝えします。受験地域によっては、年3回のところもあるので詳しくはHPをチェックしてみてください。

http://J.TEST.jp/newjtest/schedule

試験回数が多いことによる学習者にとってのメリット

  • 気軽に今の自分の実力を測りやすい
  • 短期的な目標、学習計画が立てやすい(長期学習が苦手な学習者向き)
  • 着実に点数が上がっていく様子が分かりやすい(=モチベーションアップにつながる)
  • 上のレベルにもチャレンジしやすい

②準会場試験(国内)=各教育機関で実施できる

これが私の勤めている学校にとっての最大のメリットでした。なんと、日本語学校で実施できるんです。

コロナ禍の今、これは最大のメリットだと思います。なぜって?他の都市に移動しなくていいからです!

私が勤めている日本語学校は地方にあります。JLPTの試験は大きな都市で行われ、日本語学校からはバスで3時間(冬)かかります。移動だけでも学習者は疲れる、さらにコロナ禍での2020年12月実施のJLPTでは、感染対策などでかなりの神経を使いました。

それが軽減されるのが各教育機関での団体受験です。ただし、どこでも実施できるわけではなく、J.TESTを各教育機関で実施するためにはいくつかの条件があります。

J.TESTの各教育機関での実施条件などはこちら

  • 最大年6回まで実施可能
  • 公開試験日の前日の土曜日に実施
  • 午後1時開始
  • 最低実施必要人数40名
  • 認定証発行
  • 実施レベル 「A-Cレベル」「D-Eレベル」

■実施可能団体

中学校、高等学校、大学、大学院、専門学校、法務省に告示された日本語教育機関、日本国内の学校法人・公益財団法人・公益社団法人が運営する日本語教育機関 のいずれか

※ J.TESTのホームページより(https://J.TEST.jp/ju

!注意点!

  • 実施できるのは試験日に在学中の自校の学生のみ。卒業生、職員は受験不可。(受験当日当日は学生証または在学証明書などが必要)
  • 他の学校との合同実施は不可。つまり自校だけで最低40人の受験者が必要。

<やってみて感じたメリットは?>

  • 移動時間が少ないので、学習者は体調を整えやすい。
  • 普段の教室など慣れている環境での実施なので、寒い、暑いなどの環境に左右されることが少ない。
  • 学習者はいつもの環境で受験できるので、リラックスして試験を受けられる(もちろん人によって。めちゃくちゃ緊張している学習者もいました)
  • 試験開始少し前まで、教師が学習者に声をかけることができる。
  • 教師もどんな問題が出されているのか、その場で確認できる。
  • 公開試験(個人申し込み)より受験料が安くなる。

学習者にとってのメリットが多いように感じました。環境面や受験料など。教師側としても試験問題を同じ時間に見られるので、試験後のフィードバックがしやすかったです。

<やってみて感じたデメリットは?>

  • 教師の負担が大きい 
    • →試験教室の準備、当日の試験監督は教師でやる、各教室に2名の試験監督×教室数の人数が必要。
    • わからないことも多く、事前に何度も問い合わせたり、教師間で打ち合わせをしたり、教室に不備がないか、音声は大丈夫かなど何度も確認したり結構な時間をとられました。受験料が安くなる分、教師の人数が必要なので人件費もかかります。(試験は土曜日実施)
  • いつもの環境、いつもの先生、いつもの学習者同士なので、緊張感に欠ける。
    • →リラックスできるというメリットがある半面、学習者によってはデメリットになることも。
  • ・試験当日は本部より「立会人」の人が来る=緊張する
    • →これは大したデメリットではありません。汗 知っておくといいですよというもの。

立会人の方は、試験問題を一緒に出したり、受験者をチェックしたり。試験中は不正がないか、見回りをしていました。

ちなみに試験問題は1週間前ぐらいに送られてきます。手順やマニュアル、解答用紙などと一緒に。でも試験問題と音声問題のCDのみ、鍵のかかったかばんに入れられています。当日、立会人の人に鍵をあけてもらい、試験問題を受け取ります。ズルはできません(笑)

ビジネス日本語がたくさん、空気を読む力も必要?

J.TESTのホームページには「J.TESTは外国人の日本語能力を客観的に測定する試験として」との記載があります。でも去年までは「実施当初より、企業向け団体試験として・・・」という文があったんです。受験者数が増えて変更したのでしょうか。

問題を見てみるとわかりますが、ビジネス日本語やビジネス場面で使われる日本が出てきます。

例えば・・・(『J.TEST 実用日本語検定問題集(A-Cレベル)2019年』P11より引用)

部長:「営業部に僕がいなくても、君達だけで仕事はできるだろう?」

部下:「まさか。いてくれないと困りますよ。(         )」

1 部長あっての営業部ですよ

2 部長であれ営業の仕事ができるわけではないですよ

3 部長なんて最初からいないも同然ですよ

4 いなければ私が部長になるまでのことです

いかがですか。みなさんならすぐに答えがわかりますよね。1が正解です。

ですが、学習者にとっては、なんのこと?って感じです。なぜって?これは日本語の文法を知っているだけでは解けないからです。

日本語の文法を知った上で、日本の文化的背景を理解して、ビジネス場面まで理解する必要があります。

文法的に見たら「困りますよ」と言っているので、その後ろに部長を否定する2,3,4がくるのはおかしいと分かります。ただ本当に理解しようと思ったら、なぜその後に「部長あっての営業部ですよ」という一言がくるのか、学習者にはなかなか理解しづらい。

「〇〇あっての・・・」という文法が難しいのに加え、この問題、ものすごく日本ぽいと思いませんか。部長の言葉に部下の返答、上下関係を重視する日本ならでは。このセリフはヨイショしているとも捉えられます。

私は、学習者の反応を考えてクスっとしてしまいます。

教えている学習者だったら、「私が頑張ります」とか「私が部長になります」とか言いそうだなと。日本では不正解だけれど、別の国では自分が代わりにリーダーになる、代わりに頑張ることは問題ないのかもと。

どんな学習者に向いている試験?

パッと見ただけでもハードルが高そうな試験です。じゃあ、どんな学習者に向いている試験なのでしょうか。メリット、デメリットを比べながら見ていきましょう。

【学習者にとって一番のデメリット】
・学習者にとって馴染みのない語彙や知識がたくさん出てくる。

学習者によっては、高校を卒業してすぐの学習者もいます。つまり自分の国ですら社会経験がないわけです。そんな学習者にとってはビジネスシーンを想像すること自体が難しい。

聴解問題では、「新入社員、産休制度、パワハラ」なんて言葉も出てきます。JLPTN1 以上を測れると言っているだけあって、これは日本人でも難しいと思うような話題も。学習者にとってはかなりハードルが高い。

進学希望の学習者にとっては、少し遠い話。ビジネスでよく使われる語彙まで入れている余裕はないかもしれません。J.TEST基本⓷の記事でお話しますが、JLPTと異なる出題領域もあり、慣れるまでには時間がかかります。

【学習者にとってのメリット】
・実際に日本社会で使う語彙や会話、話題に触れることができる。

日本で就職を希望する学習者にとっては、実際の日本社会で必要な語彙や会話を身につけられるいいチャンス。授業では、様々な学習者がいるので、プライベートレッスンでない限りビジネスに特化して授業をするということは、なかなかありません。

日本で就職をすることを考えている学習者がいる場合には、おすすめすると役立つかもしれません。すでに就職先が決まっている学習者にも、入社までの勉強としてアドバイスしてみてはどうでしょうか。時間を有効に使えてモチベーションアップにつながるはずです。

さらにオンラインで個人の方に教えている方にもおすすめ。ビジネスマンには日本社会で使われる語彙やマナーの基本を知るチャンスとも言えます。

試験回数が多くて、受験場所が選べるJ.TESTを活用しよう

いかがでしたか。本日はいのっちが実際にやってみて感じたメリット・デメリットを加えながらながらJ.TESTの基本①をお伝えしました。

ポイントはこの3つ!

  1. 年間6回試験がある    = 自分の実力、日本語力の伸びを測りやすい
  2. 各教育機関で試験ができる = コロナ禍の移動の心配が減る
  3. ビジネス日本語が多い   = 学習者によって受験をすすめると役立つ

試験回数が多くて、受験場所が選べるのは、コロナ禍にあって学習者にとっては助かるポイントです。勤めている日本語学校でやってみたいって先生は、検討してみてください。でもすぐに自分の勤めている学校で実施できるという先生は多くないかもしれません。

加えて、出題内容はちょっと難しい・・・

だからこそ日本語教師の腕の見せどころです!J.TESTの基本を押さえて、どの学習者にとって有用な試験なのかを見極める。それを学習者にアドバイスをしてみてはいかがでしょうか。

学校単位で受けるにしろ、個人で受験するにしろ、その学習者にとって「J.TESTを受験することでこの先役に立つのか、使えるのか」という視点で考えてみるといいと思います。

次回、J.TESTの基本②では、レベルがどうなっているのか詳しくお伝えします。このJ.TESTの基本シリーズで知識を得て、学習者にアドバイスできるようになりましょう。

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