JLPTと同様に日本語力の証明に使える試験?日本語教師なら知っておきたいJ.TESTの基本③【出題内容と学習者の苦手ポイント】

こんにちは、SenSee編集部のいのっちです!

前回と前々回の記事ではJ.TESTの基本①として試験回数や受験場所、出題問題、レベルについてお話しました。まだ読んでない方はぜひ読んでみてください。

今回はJ.TESTの基本③として出題内容と指導ポイントを絞ってお伝えしたいと思います。

J.TESTではビジネス日本語が多く出てくるということは、基本①でお伝えしました。じゃあ、出題内容はどうでしょうか。見たことがありますか。

出題内容は、8分野に分かれています。

J.TESTの基本②で簡単にご紹介しましたが、その中でも学習者にとって得点を取るのが難しい出題内容があるんです。指導にも時間がかかります。

今回は、実際に指導してみて、学習者が最もつまずいた分野について、その理由なども交えながらお伝えします。プラス、学習者のつまずきに対して実際にどんな対策をしたかもご紹介します。指導のポイントやコツが見えてきますよ!

教えている学習者にJ.TESTを勧めるか迷っている方やこれから教える方は、学習者のつまずきを知って教えるときの参考になるはずです。

今回も自分が教えている学習者だったらこれはできるか?という視点で読んでみてください。

目次

JLPTとの違いって?受験科目の違い

J.TESTの出題分野は、8分野。レベルにもよりますが、AーCレベルではこの8つ!

  • 読解問題:「文法語彙問題/読解問題/漢字問題/記述問題」
  • 聴解:「写真問題/聴読解問題/応答問題/会話・説明問題」

分野の名前こそ違いますが、文法や語彙、読解、漢字、聴解などJLPTの出題区分と同じようなものが並んでいます。

今回はその中でも、JLPTと大きく異なる3つについてお話します。

  1. 漢字問題
  2. 記述問題
  3. 聴読解問題

今回もJLPTと比較します。なぜかって?多くの学習者は日本語学校に入学するため、進学の準備、日本語力を測るなどの目的でJLPTを受けています。なんてったって世界で年間136万人の受験者数です。

つまりJLPTの出題形式はなんとなく知っている学習者が多い。ところがそれと違うと、急に点数が取れなくなってしまう。

  • じゃあ、J.TESTで点数が取れなくなった学習者はどこで引っかかったのか。
  • なぜその問題ができなかったのか。
  • 指導のポイントは?

引っかかったこの3つについて詳しく見ていきましょう。既にJLPTに取り組んでいる学習者なら、この3つを強化することでJ.TESTの点数も劇的に取りやすくなりますよ。

漢字が読めるだけじゃダメ、読みを書く。マークシートじゃない!

まずは、「漢字問題」です。

何言っているの!?JLPTにも漢字問題はあるじゃない!と思った方。お待ちください。

最大の違いは、「漢字の読みを書かなきゃいけない、マークシートじゃない!」ってことなんです。

実際にやってみると、こんなに漢字の定着率が悪いのかと愕然としました。

JLPTは全てマークシートです。ところがJ.TESTは実際に受験者が書く問題がある。それがこの「漢字問題」とこの後にお話する「記述問題」です。

まずは、A-Cレベルの問題を見てみましょう。下線部を正確に書かないといけません。下線部のみというのもポイント。いつもの癖で送り仮名を書いてしまうのも✖です。(例:通って→〇とお ✖とおって)

選択肢はなし。JLPTとの最大の違いです。なお、下線部以外の未習の漢字にはルビがふってあります。

A-Cレベルは、N1以上を測れるとだけあって、ここには記載していませんがかなり難しい漢字も出題されています。学習者の間違えも例としていくつか見てみましょう。みなさんの教えている学習者もこんなミスしていませんか。

(「J.TEST 実用日本語検定問題集(A-Cレベル)2019年」より抜粋)

  • 部屋の植物に水をやる。 間違いの例:しょうぶつ、しょくふつ、しよくぶつ
  • 正確にえてください。 間違いの例:おし、かそ、すう、かぞえて
  • 会社の倉庫を整理しなければならない。間違いの例:そおこ、そこ、そうこう
  • 正直に話してください。 間違いの例:そうじき、しょじき、しょうしき、しようじき
  • 観光バスが2台並んでいる。 間違いの例:かんこ、かんこお

次に、D-Eレベルの問題を見てみましょう。下線部を正確に書かないといけません。選択肢はなし。なお、下線部以外の未習の漢字にはルビがふってあります。

(「J.TEST 実用日本語検定問題集(D-Eレベル)2019年」より抜粋)

  • 台所で料理をしています。
    • 間違いの例:たいところ、だいところ、だいどごろ
  • 田中さんのご主人、アメリカから帰ってきたそうですよ。
    • 間違いの例:ごしゅじん、しゅうじん、しゅしん、しゆじん
  • 週末は部屋の掃除をします。
    • 間違いの例:そじ、そおじ、そうし
  • はいつも優しいです。
    • 間違いの例:あに、おに、おね
  • 再来週、北海道に出張します。
    • 間違いの例:らいしゅう、さいらいしゅう、さらいしゅ

【学習者がどんなところで引っかかったか、まとめてみると…】

  • 送り仮名を書いてはいけないのに書いてしまう
  • 選択肢がないと何も書けない ←最初はこんな学習者が続出!!
  • 濁点がない、または濁点をつけてしまう
  • 長音が抜けてしまう、または入れてしまう
    • 例:【〇しゅっちょう ×しゅっちょ / 〇しゅじゅつ ×しゅうじゅつ】
  • 促音がない、または入れてしまう 
    • 例:【〇しゅっちょう ×しゅちょう / 〇てちょう ×てっちょう】

どんな対策と指導をした?

毎朝の漢字の小テストに力を入れました。

クラスやレベルによってやっていたり、やっていなかったりしたものをどのクラスでも毎朝実施。「書く」ということが必須。選択肢があるとできるのに自分で書くとなるとあれっ!?となる。

対策のポイントは「書くこと」を繰り返す!

小テストも丸つけて返すだけなどのやりっぱなしはダメ。必ずフィードバックもするのがポイントです。そうすると少しずつ学習者も漢字の読みを書けるようになりました。学習者自身も漢字の自学習に力を入れる。相乗効果で点数が取れるように。

日頃、宿題や校内のテストなどで長音や促音が抜けているのはよく見かけると思います。また忘れてるな~で留めず、丁寧にチェックしたり学習者に声をかけたりが大事。

ここの領域では日頃のミスがそのまま出てしまうので、致命的。毎日の積み重ねで対策をしましょう。

記述問題がある!?学習者は何ができない?

JLPTとの最大の違いは、「記述問題」があることです。

記述問題って聞くと、日本語教師の方なら、「日本留学試験の記述」問題が頭に浮かぶのではないでしょうか。

受験者が2つのテーマのどちらかを選択して、自分自身の考えを根拠をあげて筋道立てて書くというあれです。
(日本留学試験 記述https://www.jasso.go.jp/ryugaku/study_j/eju/about/score/writing.html

これを想像すると自分が教えている学習者のレベルではムリ!と思ってしまいます。

が、安心してください!大丈夫ですよ!

記述問題と言っていますが、何かを述べる必要はなく、文法の組み立て問題だと捉えてください。

とは言え、選択式でないだけで一気にハードルが上がります。

【学習者は何ができないかというと…】

  • 選択肢がないから何を入れればいいかわからない
  • 活用ができていない
  • 語彙がわからない
  • 文法を知らない
  • 助詞が間違っている などなど。

ちょっと問題を一緒に見てみましょう。記述問題はAとBがあります。

例えば、記述問題Aでは、適切な語彙や文法に合う活用を入れます。
(「J.TEST 実用日本語検定問題集(A-Cレベル)2019年」P138より引用)

問題69 今朝の(    A     )によると、明日は雨が(  B  )そうです。

答えは、A:天気予報 B:降る です。

これがJLPTのように選択肢があれば、学習者もなんとなく予想できます。ところが、見ての通り選択肢が何もない。

ここでは天気予報という語彙が書けなかった学習者、「てんきよほ」と書いてしまった学習者(ひらがなでも可、ただし正確に書くこと)、「降る」を「降り」と書いてしまい活用を忘れてしまっていた学習者などがいました。

分かっているのに、小さなミスや活用の違いにより点が取れません。

例えば、記述問題Bでは、3つの言葉を使って、合う文を作成します。
(「J.TEST 実用日本語検定問題集(A-Cレベル)2019年」P68より引用)

問題74 【1.アイディア → 2.忘れる → 3.メモする 】おきます。

答えは、「アイディアを忘れないように、メモして」です。

なんてハードルが高いんでしょう!

まず助詞が入れられなかったり、「は」や「に」を入れてしまったり。次に「~ないように」の文法。活用のない形「忘れる→忘れない」ができなかったり、「忘れないよう」と書いて最後の「に」を忘れてしまったり。

最後は、「~ておきます」の文法。活用のテ形「メモする→メモして」ができなかったり、余分な文が入ってしまったりしていました。

どんな対策と指導をした?

いや~まさか0点はないっしょ~と教師陣・・・しかし最初の模試では、問題形式に慣れていないこともあり、0点続出でした。8分野で0点がないことが必須条件なのに~と焦りまくり。

そこでこんな4つの対策と指導をしました。

  1. 記述対策の時間を作った
  2. 通常の授業の中で書く時間を増やした
  3. 活用の復習に力を入れた
  4. オリジナルの記述の宿題を作った 
①記述対策の時間を作った  

→記述問題の形式に慣れるため。助詞を意識させる

②通常の授業の中で書く時間を増やした

→文法の勉強でも書く時間が少なかったので文法を導入後、口頭練習+書いて練習を! 

③活用の復習に力を入れた

→そのレベルの文法は分かるのに、活用で間違えるということが多くあったため、プリントを作り、活用の復習を繰り返した。

④オリジナルの記述の宿題を作った

→JLPTの各レベルの文法問題を参考にしながらJ.TESTの記述問題に沿った宿題を作成

実際に宿題で出したものが本試験で問題に出て、喜びました!(みんなが書けたかは別ですが…汗)

聴読解がある!解き方と指導のポイントは?

3つ目は、「聴読解」があること。JLPTにはありません。

日本留学試験(EJU)には聴読解があります。EJUを受験したことがある学習者は、「えー!聴読解があるー!?苦手~難しい」と言った反応でした。

実際には、同じ聴読解でもEJUとは大分異なるように感じましたが。

「何かを見ながら、聞いて解く」ということが分かっている、やったことがあるってだけで有利です。

一方、EJUを全く知らない学習者の反応は…

えっ…何ですか?

そうですよね。

実際にやってみても大混乱。日本語を聞くこと(=聴解)だけでさえ学習者にとっては難易度が高い。それなのに絵やグラフ、調査結果などを見ながら聞く(=聴読解)って…

EJUを経験したことがある学習者でも内容は別、EJUは日本の大学に入学するためのもの、出てくる内容や語彙は全く違います。

聴解だけで500点、全体の半分です。

聴読解問題は、10問で各10点、100点。4択問題です。

配点が大きい分、繰り返しの練習で慣れて少しでも点をゲットしたいところ。

【学習者にとってここが難しい…】

  • 図や表、グラフなどを見ながら、聞いて解く
  • 図や表、グラフなどにある漢字が読めない(ルビがあるものもあるが、特にA-Cレベルではルビがないものが多い)
  • 問題も音声のみ。(EJUは、問題文が書いてある。問題内容を聞き取りだけで解くのはかなり厳しい)

どんな対策と指導をした?

問題に慣れるために繰り返し、練習。ポイントをおさえた指導と解説を実施。

<聴読解を解くポイントは?>

  • ・初めに図やグラフ、絵などから問題内容を推測する
  • ・問題は音声のみ(2回繰り返される)
    • →問題をきちんと聞き取り、キーワードを探す
  • ・問題文と同じ言葉を本文中に見つける
    • →同じ言葉が言い換えられている場合も。注意!
  • ・キーワードを探す練習を繰り返す

<指導のポイント>

  1. まずは教師自身が自分で解いてみる
  2. キーワードとなる言葉をチェック
  3. 指導のときに、全文を読まないこと。全文を理解させることは避ける。
  4. キーワードは何か。キーワードを確認。キーワードから選択肢をしぼる

学習者の苦手ポイントを把握して、早めの対策&得点アップを目指そう

本日は、J.TESTで学習者がつまずいた、特に難しかった「漢字問題」、「記述問題」、「聴読解問題」の3つを具体的にお話しました。

J.TESTは実施回数の多さやビジネス日本語に触れるチャンスなど学習者にとってメリットがあります。

でもJLPTとの出題方法や内容の違いから難しいと感じる学習者が多いんです。苦手意識を持ってしまうことも。

そこで、この記事でお伝えした対策やポイントを指導に入れてみてください。苦手モードだった学習者もコツがわかったり、問題形式に慣れてきたりすると少しずつ得点がアップしていきます。

コツがつかめて得点がアップすると学習者自ら漢字を練習したり、動詞の活用を復習したり、日本語学習に積極的に取り組んだりするようになるはずです!

学習者に得点アップの嬉しさを実感してもらうのが第一歩!苦手分野の得点アップで意識を変えて、学習者の日本語力を伸ばしましょう。

次回は、J.TESTの基本④、何をやったらいいかわからないという方必見!最初に取りかかるべき指導のポイント初歩をお伝えします。お楽しみに!!

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