日本語初級「~んです」の導入方法① 話し手が驚いたり、疑問に思ったりして理由が知りたいときに使う「~んです」の教え方

「~んです」は学習者に意味理解をさせるのが難しい文法のひとつです。しかも簡単なようで誤用が多い文法です。

  • 「~んです」のわかりやすい導入は?
  • どうしたら、意味理解させやすい?

そんな悩みを持つ方に、日本語教師歴17年目の私が、盛り上がる!そしてわかりやすい導入を紹介します!「~んです」にはいくつかの意味がありますが、今回は話し手が驚いたり、疑問に思ったりして理由が知りたいときに使う「~んです」 の導入です。

ちなみに、それ以外の意味の理由を付け加えるときに使う「~んです」 はここ丁寧な依頼をするときの「~んですが、~いただけませんか」と相手にアドバイスなどを求めるときの「~んですが、~らいいですか」 はここで、紹介しています。

目次

学習者の印象に残る導入方法とは

 導入は学習者とのコミュニケーションの中で行うのが理想的。そして、最初に提示する例文は学習者の興味をひくもの、実生活で使いやすいものを用いることが大切。

しかし、そのような例文を考えるのが非常に難しいのです。日本語でのコミュニケーションが楽しくなってくる時期に、学んだ文法を使って話すというのは、文法の定着を図るいいチャンスです。それに、コミュニケーションをとると、自然と学習者との信頼関係も築けます。

「~んです」の問題点 

「~んです」の文法をなかなか上手に使えない学習者が多いのも事実です。作文を書かせたら、「~んです」を多用して書く、なんて学習者もよく見かけます。よくある誤用例を紹介します。

事例その1

学習者:私は中国人なんです。

日本人の心の中:え?あなたが中国人なのはもう知っていますよ。

事例その2

学習者:(レストランで席に座ったら、すぐに)田中さんは麻婆豆腐が食べたいんですか。

田中氏の心の中:え?なんで?私は麻婆豆腐が好きだなんて、アピールしてないよ。

という不自然な状況になってしまいます。このような誤用を防ぐためには、『いつ・どのような場面で(気持ちで)「~んです」を使えばいいのか』ということを適切に伝える必要があります。

「~んです」の導入

 話し手が驚いたり、疑問に思ったりして理由が知りたいときに使う「~んです」の場合

「~んです」を導入する際も、「1学習者の印象に残る導入方法とは」の部分でも述べた通り、

  • 自国や日本についての話題
  • 教師についての話題

に関係がある内容で導入すると、学習者が興味をもち、自発的に発言してくれることが多いです。そこで、私は「~んです」の導入では、

  • 例1:教師が民族衣装を着た写真を見せる。
  • 例2:教師が有名な観光地(日本、又は学習者の国)へ行ったときの写真を見せる。

このふたつのどちらかを使って、導入をしています。「例1 教師が民族衣装を着た写真を見せる」 これで導入したときは、私がベトナムの民族衣装アオザイを着て撮ったときの写真を見せました。すると、

生徒:いつ行きましたか。

生徒:どこで写真を撮りましたか。

生徒:服を買いましたか。

などと、聞いてきてくれ、教室は一気ににぎやかになりました。男性と一緒に写っている写真だったこと、比較的若い年齢層の学習者だったこともあり、その男性についての話でも盛りあがりました。このにぎやかになったときの学習者の気持ちを使って、導入と文法説明を続けます。

教師:今、えー?!と思ったでしょう?

この写真を見て、「知りたい!聞きたい!と思ったでしょう?今日はそのときに使う文法を勉強します。」と続ければ、この文法が状況を見て、驚き疑問に思った事を相手に聞くという意味であることはスムーズに理解ができます。それさえわかれば、学習者がレストランに行って席に座っただけの日本人に「麻婆豆腐が食べたいんですか」とは聞いてしまうことはなくなります。

・提示する例文

 上記導入のいいところは、この1枚の写真を使って、多くの例文が作れることです。以前に「例1 教師が民族衣装を着た写真を見せる」の導入で、私がアオザイを着て、男性と一緒に移っている写真を見せたときは、

(学習者の発言として)

(先生は)アオザイを持っているんですか。(動詞)

(先生は)ベトナムへ行ったんですか。(動詞)

それは先生のアオザイなんですか。(名詞)

アオザイはいくらだったんですか。(疑問詞・動詞)隣の男性は日本人じゃないんですか。(名詞否定)

(教師から学習者への質問として)

ベトナムの方はいつアオザイを着るんですか。(疑問詞・動詞)
みなさんが持っているアオザイは高いんですか。(い形容詞)

  のような例文を提示することができました。

「例2 教師が有名な観光地(日本、又は学習者の国)へ行ったときの写真を見せる」の導入方法を使い、冬に友人と兵馬俑へ行ったときの写真(たくさん服を着こんでいる)を見せたときは、

(学習者の発言として)

先生は西安へ行ったことがあるんですか。(動詞)

寒かったんですか。(い形容詞)

いつ兵馬俑へ行ったんですか。(疑問詞)

  のような例文を提示しました。

このことによって、学習者の驚いた気持ちや疑問に思っている気持ちを維持させながら、文法を使って質問する時間が長くなり、印象も強く残ります。ひとつの導入で複数の例文が挙げられると、その後の接続の説明もしやすくなるのです。ちなみに、私が導入に使った写真はたまたま撮影した1枚ではありません。

ベトナムに行き、アオザイを買い、現地で着たまでは旅行先でしたことですが、男性と写真を撮ったのはこの文法の導入に使うためです。男性と写真を撮ったほうが、写真を学生に見せたときにインパクトがあると思い、現地のホテルでよくしてくれたスタッフの方に、事情を話して撮って頂いた1枚です。このように、普段の生活の中で、導入に使える材料を収集しておくと、授業準備の負担が減ります。

どうして~んですか。…んです。(「~んです」を使って答える)の導入

 上記のような導入方法で進めていくと、学習者の母国の民族衣装や日本の着物の話が、自然な流れでできます。「アオザイを着て、ベトナム料理の店で働いています」なんて教えてくれる学習者がいたら、料理の話にまで話題が膨らみます。そのような話の流れを利用して、

母国の民族衣装を持っている学生、持っていない学生、レンタルして着たことがある学生などがいれば、アオザイを持っているが、日本に持って来なかった学生がいれば、

教師:どうして民族衣装を買わなかったんですか

アオザイを持っているが、日本に持って来なかった学生がいれば、

教師:どうして日本へ持って来なかったんですか。

  などと、「どうして~んですか」の文法を使った質問ができます。最近の若い日本人は着物を持っていない人も多いし、自分で着られない人も多いという話題につなげて、

生徒:どうして先生は着物を持っていないんですか。…高くて買えないんです。どうして日本人は着物が着られないんですか。…着るのが難しいんです。

 と、学習者から教師への質問も促すことができ、お互いの民族衣装に関する意識の違いや現状を知ることができます。

まとめ

 このように導入は、

  • 自国や日本についての話題
  • 教師についての話題

など、学習者が興味を持っているもの、話したいと思っているものをテーマにすると、意味理解がよりスムーズにでき、印象にも残りやすいです。

今回は、

  • 例1:教師が民族衣装を着た写真を見せる。
  • 例2:教師が有名な観光地(日本、又は学習者の国)へ行ったときの写真を見せる。

のふたつを例として挙げましたが、民族衣装を着た写真がなくても、観光地で撮った写真がなくても、構いません。学生が「わぁ!何?!」と興味を持つものなら、何でもいいのです。非常勤の先生で複数のお仕事をお持ちの方なら、他のお仕事のときのお写真、コンサートに行くのが趣味の方なら、コンサートに行ったときのお写真などでも大丈夫。

写真を使わなくても、学習者が知らない教師の別の一面を紹介すると、学習者は驚いたり、疑問に思ってくれます。その気持ちを使って「~んです」の導入につなげるのです。

また、「~んです」にはほかにも意味があります。理由を付け加えるときに使う「~んです」や、丁寧な依頼をするときの「~んですが、~いただけませんか」、そして相手にアドバイスなどを求めるときの「~んですが、~らいいですか」です。

リンクを書いておきますので、興味ある方はぜひご覧ください!

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