【鉄板の教案】第1回 文型の導入を疑え!『辞書形+ことができます』

こんにちは!鈴木コウジです。

 現在、私は日本語教師歴17年目になります。日本語学校では非常勤講師、専任講師として、大学ではキャンパス長として授業と学生管理をしていました。日本語教師1年目からネットでのオンライン授業も行っていました。また、NAT-TESTの作問やJ-TESTの採点など大規模試験に携わったりもしました。現在は、養成講座の講師として働くかたわら、日本語教師向けセミナーを不定期で開催しています。

【鉄板の教案】シリーズは、私が自信を持っている教案をご紹介します。

第1回は、『辞書形+ことができます』です。具体的な教案の流れも書きますが、タイトルのように「文型の導入」の大きなポイントをお伝えしたいと思います。

これを読んだみなさんは、文型導入場面の作り方が変わります!そして、教案の書き方のバリエーションが増えます!ここに書いた教案を気に入っていただけたら、使えそうだな、良さそうだなと思ったら、100%パクってください。私はパクっていただいて大歓迎です。

目次

『辞書形+ことができます』の導入場面

今回は、「辞書形+ことができます(可能)」を取り上げます。ここでは、まず簡単に、典型的な導入の流れをご紹介します。※辞書形の説明や変換ドリルなどは全て省略します。(以下、教師=T、学習者=S)

 【教師】(学生を指して)◯◯さんは、この学校で、日本語を勉強しています。日本語を話すことができます。(「少し話すことができます」でも良い。)

とか、

【教師】私は、××××年から△△△△年まで、イギリスにいました。イギリスで英語を話しました。英語を話すことができます。

のような導入場面でしょうか。特別問題があるような導入ではないですし、これでも辞書形の説明をして、ドリルをして、「ことができます」を使う活動をすれば、学習者は使えるようになると思います。特に問題はありません。しかし、学習者が盛り上がるか?この文型を使いたくなるか?という点には、首を傾げたくなります。

養成講座では、「文型が使われる典型的な場面を想像して、教案を書きましょう。そういった場面を文型提示の場面に設定しましょう。」と担当講師から言われたと思います。私もそうでした。もちろん、それでいいと思います。

しかし、これをそのまま続けていたら、教師の成長はありません。基本の教え方を踏まえて、一歩進んだ、工夫のある導入を作ることを心がけたいところです。

授業がマンネリ化しない対処法。導入を疑え!

それでは、どういう点を変えたらいいのでしょうか?色々な参考書や手引きや導入例をよく見て比較してみてください。そして、その大部分に共通することは何か?を見つけてみましょう!

気がつくことは、導入の文型のほとんどが「〜〜ます/〜〜ました」のような肯定文であることです。もちろん、このほうが初級者は文をすぐに理解できる、教師も教えやすいという利点があります。この形で導入するのが、(普通、多くの教師が)当然と考えています。

はたして「肯定文での文型提示が適切か?」、ここに焦点を当てたいと思います。私は(大学は哲学科卒なんで)、当然とされることは疑ってみたいです。ここで、今回のテーマを思い出してください。

具体的に私の『辞書形+ことができます』教案を紹介!

「肯定文での文型提示が適切か?」と問われれば、「適切じゃない場合も結構ある」と答えます。疑問文でも、否定文でも、文型の提示に使っていい。適切に意味を伝えられるなら、そちらのほうがいいはずです。

それでは、ここで先に教案を見せていきます。その後に解説を少ししていきます。

ーーーここからTとSのやりとりーーー(PC=絵カード)

T:(PC[一輪車]を見せる)
みなさん、これはなんですか?(何人かに聞く)

S:知っています。でも日本語はわかりません。

T:一輪車です。(漢字・ひらがなを板書)みなさん、言ってください。いちりんしゃ。(2,3回言わせる)

S:いちりんしゃ

T:いちりんしゃにのります。(助詞「に」、「のります」を板書)みなさん、言ってください。いちりんしゃにのります。(2,3回言わせる)

S:いちりんしゃにのります。

T:いちりんしゃにのりますか?(この時点では、この文で良い。何人かに聞く)

S:はい、のります・いいえ、のりません。(ほとんどが、いいえを答えるはず。)

T:私も、のりません。(…私の経験上、大抵笑いがおこる。)

T:私も、のることができません。(ここで、文型の導入!!…否定文)

T:(学生をさして)◯◯さん、一輪車にのることができますか

S:いいえ。(フルセンテンスで答えられなくていい。)

T:一輪車にのることができますか?。(板書、のるに下線・色をつける)

T:はい、一輪車にのることができます。(板書)

T:いいえ、一輪車にのることができません。(板書、「はい・いいえ」に色、「ません」に色。)

※その後、辞書形の作り方の説明や口頭練習へ。

ーーーここまでTとSのやりとりーーー

『辞書形+ことができます』の教案解説

それでは、教案の解説をします。

なぜ一輪車なのか

なぜ一輪車を話題にしたか?という点から説明します。ポイントは「辞書形+ことができます」は、「能力」を表すという点です。

もう少し詳しくいうと、「◯◯ができるか?できないか?」ということです。「そんなことはわかっているよ。」という声が聞こえそうですが、ここを突き詰めて話題を決めなければ、学生には伝わりません。

「私(教師)は、フランス語が話せる(=フランス語を話せる能力がある)から、導入場面では、私がフランス語を話してみせれば、伝わるはずだ。」と考えるでしょう。間違いはないと思いますし、たぶん、授業は進みますが、学生は「ふーん。そうなんだ。この先生はフランス語が話せるんだ。」という程度です。多少驚きは起こるでしょうが、インパクトはあまりありません。

「話す」という動詞で、学生はわかりやすいですし英語や中国語が話せることよりは、ちょっとマイナーなフランス語が話せるというのは、多少キャッチーだと思いますが。

ただ、教案としては、教師のひとり語りで授業が進みますし、学生に考えさせたり、新しい語彙が増えたり、少し難しそうなことを教師が提供したり、そういったことが少ないように思えます。

「能力」という点を扱うなら、「できない」ことを全面に押し出すことによって、印象に残るようになる。つまりは、今回のテーマにつながります。とある時に、上記のようなヒントをもらいました。(※この話はまた別の機会に。)

これによって、私は「一輪車に乗る」という例を思いつきました。しかも、自分も学習者も「できない」を共有できて話が盛り上がるかな?と思い、一輪車を使うことにしました。

教師が「できる」、学習者が「できない」の対比でも良いと思いますが、これをやると、自慢をしあうだけになってしまいます。「先生はフランス語が話せるかもしれないが、私はロシア語が話せる」といった具合です。

笑いがおこる

教案例に、(…私の経験上、大抵笑いがおこる。)と書いておきました。ほぼ100%笑いが起きます。(笑いの大小はありますが。)なぜ笑いがおこるのでしょうか?

これも、今回のテーマにつながります。

教案例で、学生に一輪車に乗れるかを質問して、ほぼ100%の学生は乗れないと答えます。そこで、教師(私)が話し始めます。学生は「先生は乗れるから、この話をしているんだろう」と考えています。しかし、予想に反して「私も乗りません」と答える。予想を裏切られて、私達と同じなんだと思って、笑いが生まれます。

学生たちも「私(教師)は、乗れます」と想像しています。つまりは、肯定文を想像しています。この会話の流れ上、肯定文を想像するのが普通ですし、ここまでの文法の授業で肯定文で導入されるのが習慣となっているから、教師の答えは「〜ます」だろうと考えるのが自然です。

みんなの想像を裏切ったからこそ、印象に残ります。肯定文での導入が続いていたからこその今回の導入です。みんなの日本語であれば、第18課です。ここまできての「否定文を使った文型導入」です。

否定文で『辞書形+ことができます』を導入する利点

肯定文での文型導入をすると、その後に、疑問文の形をやり、はい・いいえの答え方で、否定の形を学ぶという順になります。

しかし、今回の教案例を見てみましょう。「私も一輪車にのることができません。」という否定文があり、その後に、「一輪車にのることができますか?」と疑問文があります。答える側に、肯定文、否定文があります。

ほんの少しのやりとりに、必要なものがいっぺんに提示されます。これを板書してしまえば、文の構造は一目瞭然ですし、動詞と名詞を変えれば、学生同士でいろいろな会話練習ができます。

まとめ

ここまで『辞書形+ことができます』の新しい導入を見てきました。このように否定文での導入のほうが文型の意味のわかりやすさや、その後の練習がしやすくなるものもあります。

「文型導入は肯定文だけでするものではない」ということが、この『辞書形+ことができます』で示せたと思います。

疑問文や否定文を使って導入することで、肯定文での導入よりも、授業(教案)がコンパクトになり、応用練習などの時間が増えるという利点もあるのは事実です。

みなさん、いかがでしょうか?

今回の文型導入を見て、肯定文じゃない導入を作ってみたくなりましたか?そう思っていただければ幸いです。無理に新しい導入を作る必要はありません。

しかし、少し時間に余裕があったら、授業のマンネリ化、授業の儀式化を避けるためにも、教師の成長のためにも、「疑問文や否定文で導入することはできないかな?」と立ち止まってみてはいかがでしょうか。

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