混乱しまくる~と・~たら・~ば(なら) どうやったら混乱しない?導入例文と説明のまとめ

  • あの角を曲がる、花屋があります。
  • あの角を曲がったら、花屋があります。
  • あの角を曲がれ、花屋があります。

と、文章を並べて、学習者に「全部同じ意味ですか?どれを使ってもいいですか?」と質問されたら、新米日本語教師の方は焦っちゃいますよね。導入の途中に「前に勉強した文法と同じですか?」と聞かれると、「えぇ!?その質問はちょっと待って~」と思ったことがある方もきっといるはず。

今回は初級の「~と・~たら・~ば(なら)」の導入例文と説明をまとめ、特に「混乱しない」に重点を置きました。学習する順番は日本語学校でよく使われている「みんなの日本語1・2」と同じにしました。次の授業で、ぜひ実践してみてください!

目次

~と・~たら・~ば(なら):混乱しないための導入ポイント

学習者が混乱しない導入は、スバリ2つ。

  • 過去に使用した文法例文と似ている例文は使わないこと
  • 違いに注目させた導入にすること

「~と」「~たら」、どちらにも、「前件のあとに、後件が起こる」という意味があります。下記の①②の例文を見てください。

  1. あの角を曲がる、花屋があります。(みんなの日本語1 第23課)
  2. あの角を曲がったら、花屋があります。(みんなの日本語1 第25課)

①②どちらも「前件をすると、いつも後件が起こる」という内容ですね。この文では「~と」と「~たら」を置き換えることができます。

しかし、「~と」の導入のときに「あの角を曲がる、花屋があります」という例文を使ったのなら、「~たら」を学習するときには「あの角を曲がったら、花屋があります」という例文は使ってはいけません。同じ例文や似ている例文を使うと、学習者は「え?『~と』と『~たら』は同じ?」と思うからです。

似ている意味の文法を導入するときには、違いに注目させて導入するのが一番です!「~と」にはなくて、「~たら」にはある意味。それは仮定の意味です。「~たら」の導入のときには、仮定の意味で導入すると、違いに注目させることができます。

では、「~と」「~たら」「~ば(なら)」の導入では、どのような導入例文を使い、説明すればいいのでしょうか。具体的に考えていきましょう。

前件をすると、いつも後件になる【~と】

「みんなの日本語」のテキストでは、「~と」「~たら」「~ば(なら)」の中で、一番初めに勉強するのが「~と」です。ですから、「~と」を学習するときに、学習者から「前に勉強した文法と同じですか?」と聞かれる不安はありませんね。

「~と」には「前件をすると、いつも後件が起こる」という意味があります。導入例文には機械の説明や季節の変化を使うのが、ベストです。

  1. (教師がデッキのボリュームのつまみを指しながら)これを右へ回す、音が大きくなります。
  2. (教室の電気のスイッチを指しながら)スイッチを押す、部屋が明るくなります。(動詞+と)

①②どちらの例文も前件をすると、いつも後件の内容が起こります。学習者には、板書した例文を指しながら、「前のことをします。いつも、後ろの内容があります」という感じで、簡単な日本語で説明します。

「~と」の練習のときに、しなければならない注意ポイントは1つだけです。

機械の説明や季節の変化などを例文で使い、自分の意志や依頼、命令、許可などは後件に使えないことを説明する

  • ×ボタンを押すと、教室を出てください。
  • ×春になると、大学へ行きたいです。

のような例文は不可ですね。

仮定の意味の【~たら】(1)

「~たら」には2つの意味があります。

  1. 仮定の「~たら」
  2. 前件をすると、いつも後件の内容が起こる「~たら」

仮定の「~たら」と、「~と」の意味は似ていないので、学習者の混乱を避けることができます。

仮定の意味の「~たら」の導入例文

  1. 教師:もし100万円あります。何が欲しいですか。
       もし100万円あったら、何が欲しいですか。
  2. 教師:日曜日 もし暇です。私は映画を見に行きたいです。
       日曜日 暇だったら、映画を見に行きたいです。(普通形+ら)

導入と説明のときの、ポイントは2つ。

①導入例文は、後件に自分の意志を述べるものにすること

「~と」の文法では、後件に意志や依頼などを述べることはできませんが、「~たら」の文法では後件に意志や依頼を述べることができます。

②動詞以外の接続があることを説明すること

「~と」の接続は「動詞 辞書形+と」のみでしたが、「~たら」の接続は

  • 動詞 普通形過去+ら
  • い形容詞 普通形過去+ら
  • な形容詞 普通形過去+ら
  • 名詞   普通形過去+ら

と種類が多いです。

仮定の「~たら」と、「~と」の意味は似ていませんから、これらの説明のときに、違いについて学習者から聞かれることはないでしょう。

前件をしたあとで、後件をする【~たら】(2)

前件をしたあとで、後件をする「~たら」は仮定の「~たら」の意味とも区別をしなければならないし、「~と」の意味と似ていますから、注意が必要です。

「~たら」の導入例

  1. 教師 :今日の授業が終わります。あとで、どこへ行きますか。
        今日の授業が終わったら、どこへ行きますか。
    学習者:今日、授業が終わったら、アルバイトへ行かなければなりません。
  2. 教師 :冬休みになります。あとで、何をしますか。何をしたいですか。
    学習者:冬休みになったら、何をしたいですか。

 導入のときのポイントは2つ。

  1. 仮定の意味の「~たら」と区別するため、導入のときに「前件をしたあとで、後件をする」とはっきり述べること
  2. 例文では、後件に意志や依頼を表す表現を使うこと。「~と」の文法では後件に意志や依頼を述べることができません

決して学習途中の段階で、「スイッチを押したら、電気がつきます」というような、「~と」の文法を学習したときに使った例文を言ってはいけませんよ。学習者を惑わせてしまいます。

「~たら」には2つ意味がありました。

  1. 仮定の意味の「~たら」
  2. 前件をしたあとで、後件をする「~たら」

この2つですね。この2つの「~たら」の両方の練習が終わってから、「~と」と同じ意味の「~たら」について学びます。

  1. 私は冬休みになったら、毎年スキーへ行きます。
  2. 私は毎週土曜日になったら、両親に電話をします。

①②の文章が正しいかどうか、学習者に問いかけてみるのも、いい方法です。『「毎年」や「毎週」のときは、「~たら」ではなく「~と」でないといけない』と考えている学習者もいるかもしれません。このように学習者同士で文法の是非を考えたり、意見を言い合ったりすると、意味が印象に残りやすいので、おすすめです。

条件を表す【~ば・~なら】

「~ば・~なら」は条件形ですね。「条件」と名前がついているので、条件の意味で導入するのが、一番わかりやすいです。

  1. (クラスに歴史に詳しい学習者がいれば)
    教師:〇〇さんは日本の歴史をよく知っています。
       私たちは〇〇さんに日本の歴史を聞きます。
       私たちは日本の歴史がわかります。
       〇〇さんに聞け、日本の歴史がわかります。
  2. (教師が諸連絡を学習者に伝えたあとで)
    教師:わかりましたか。
       質問がありますか。教えてください。
       質問があれ、教えてください。

私は導入例文を板書し、意味を確認したあとに、「この文法と同じ意味の文法を知っていますか?」と聞いてしまいます。学習者に聞かれたら困るな、と思っているなら、聞かれる前に聞いてしまえばいいのです!

学習者は下記のように、「~ば」の例文を「~と」や「~たら」を使って置き換えることができると言うでしょう。

  1. 〇〇さんに聞け、日本の歴史がわかります。
    〇〇さんに聞く、日本の歴史がわかります。
    〇〇さんに聞いたら、日本の歴史がわかります。
  2. 質問があれ、教えてください。
    質問があったら、教えてください。

①「~と」は機械の説明や季節の変化などを例文で使い、自分の意志や依頼、命令、許可などの表現を後件に使うことができない。だから、「質問があると、教えてください」は不可。

②■〇〇さんに聞いたら、日本の歴史がわかります。
 ■質問があったら、教えてください。
 この「~たら」は仮定の意味。

ここまで文法説明をしてから、条件形の作り方の学習に移るほうが、条件形を学習する意味が明確になり、学習がはかどります。

【~と】【~たら】【~ば】の混乱理由

「~と」「~たら」「~ば」の使い分けに混乱してしまう理由はいくつかありますが、初級の段階では、下記の2つが考えられます。

  1. 前件の動詞は動作動詞?状態動詞?
  2. 前件と後件の主語が同じ?違う?

この2点について、混乱理由と混乱を避ける教え方を詳しく説明します。

1.前件の動詞は動作動詞?状態動詞?

下記の3つの例文の違いは何だと思いますか。

  1. 雨が降れ、涼しくなります。(〇)
  2. 雨が降れ、私の傘を使ってください。(✖)
  3. 質問があれ、教えてください。(〇)

①と③の例文は正しいですが、②の例文は間違っています。なぜでしょう?

「~ば」は、前件の動詞が動作動詞のとき、後件に意志・依頼・命令・許可は使えません。②の前件の動詞「降ります」は動作動詞なので、後件に「~てください」という依頼の意味が使えないのです。一方③の前件の動詞「あります」は状態動詞。だから、後件に「~てください」という依頼の意味が使えます。

2.前件と後件の主語が同じ?違う?

前件の動作が動作動詞のとき、後件に意志・依頼・命令・許可は使えません。

■雨が降れ、私の傘を使ってください。(✖)

この文は成り立ちませんね。しかし、下記①の例文を見てください。

①田中さんが私の国へ来れ、私は会いに行きたいです。(〇)

「来ます」は動作動詞ですが、後件で「会いに行きたいです」と意志を表しています。文として問題ありません。なぜでしょうか。

「~ば」を使った文の場合、前件と後件の主語が違う場合は、後件に意志を述べることができるのです。ですから、前件と後件の主語が同じ「田中さんが私の国へ来れば、ぜひエベレストを見てください」は文として成り立ちませんね。

つまり、ここでのポイントは…

  • 「~ば」の文では、前件と後件の主語をチェック
  • 前件と後件の主語が違う→後件に意志を述べるてOK

ということになります!

まとめ

最後に、もう一度「~と」「~たら」「~ば」の指導ポイントを確認します!

「~と」を学習するときのポイント
  • 機械の説明や季節の変化などを例文で使う
  • 自分の意志や依頼、命令、許可などは後件に使えない
「~たら」を学習するときのポイント
  • 導入例文は、後件に自分の意志を述べるものにする
  • 動詞以外の接続があることを説明する
「~ば」を学習するときのポイント
  • 「前件をすると、いつも後件が起こる」という意味の「~と」「~たら」「~ば」は置き換えることができる
  • 「~と」の後件に自分の意志や依頼、命令、許可は使えない

この3つが理解できてから、

  • 前件の動詞が動作動詞か状態動詞かによって、後件の内容がに影響がある
  • 前件と後件の主語が同じかどうかによって、後件の内容に影響がある

この2点を説明すると、階段をのぼるようなイメージで学習が進んでいくと思います。

似ている文法を使いこなすのは、なかなか大変です。理解するのに時間がかかり、使いこなすのにも時間がかかります。学習後に教師が自然な会話の中で使うことも大切ですね。

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