外国語教授法を知って深みのある授業をしよう①―外国語教授法の流れと文法翻訳法

外国語教授法というと、みなさんどんなイメージをお持ちですか?

現役の日本語教師の方、日本語教師を目指して勉強をされている方なら、文法翻訳法やオーディオリンガル・メソッドなどといった用語を耳にしたことがあるのではないでしょうか。でも、○○アプローチとか、○○メソッドとか、たくさんあって、何が何やら覚えきれないよ~ってなりがちですよね。

日本語教師養成講座を受講しているとき、または日本語教育能力試験受験のためだけに知識を詰め込んで、いざ日本語教師になってしまったら、せっかくの知識を忘れてしまうなんて、もったいない!先人たちの歩みの中には、現役日本語教師が実際の授業運営で使える!ヒントがぎっしりつまっているんです。

そこで、日本語教師養成講座で教授法を担当した筆者が、外国語教授法について分かりやすく!ご紹介します。外国語教授法を知って、深みのある授業運営を目指しましょう。

目次

外国語教授法を知って得られるもの

外国語教授法を知って得られるものとは、一体なんでしょう?先に答えだけを簡単にお教えしましょう。それは、以下の3つを身につけられることです。

答えだけ簡単に言うと、以下を身に着けられることです。

  1. 学習者の学習目的・適性に合った、適切な教え方
  2. 学習者の学習目的・適性に合った、効果的な練習方法
  3. 実験によって効果が認められた教え方

日本語指導に外国語教授法の知識が役に立つ理由

みなさんは授業をするとき、どのように授業を組み立てているでしょうか。教え方は?練習方法は?学習者が10人いれば、学習目的も適性も10通りありますよね。それなら、効果的な教え方、効果的な練習方法も10通りあるはずです。

外国語教授法とは簡単に言うと、「どうやったら効果的に外国語習得が可能なのか、その時代の専門家たちが知恵を絞って編み出した方法」だと言えるでしょう。外国語教授法を知ること、それはすなわち、各時代の外国語習得の目的、根底にある考え方、そこから考え出された学習法、そしてその学習効果まで!知るということではないでしょうか。

学習者の学習目的、適性に合わせて、ある外国語教授法が採用している練習方法だけを活用するもよし、いくつかの外国語教授法を組み合わせてみるもよし、はたまた根底にある考え方を応用するもよし。

外国語教授法を知っておけば、ただ自己流に授業をするよりもはるかに深みのある授業運営ができるようになりますよね。外国語教授法を知って得られるもの、それは日本語教師として教え方の引き出しを増やすことができるということです。

外国語教授法を知って、より効果的な授業運営をしてみませんか?さっそく筆者とともにそれぞれの外国語教授法をくわしく見ていきましょう。

第1回目の今回は、外国語教授法の歴史的変遷を概観し、文法翻訳法についてご紹介します。

外国語教授法の歴史的変遷

それぞれの外国語教授法の説明に入る前に、その歴史的変遷を概観してみましょう。

日本語教育のためだけの特別な教授法があるというわけではありません。これからご紹介していく外国語教授法はどれも海外で提唱、実践されてきたものです。そして、日本語教育でもさまざまな外国語学習法を取り入れて言語教育が実践されてきました。

それぞれの外国語教授法が生まれた背景には、その時代その時代のニーズや学習条件、価値観などがあります。時代のニーズ、学習条件、価値観が変われば、それに合わせて、新しく教授法が編み出されるもの。

それぞれの外国語教授法は、決してばらばらに生まれたものではありません。大まかな歴史の流れがあって、生まれてきたものです。歴史の流れを俯瞰することで、個々の外国語教授法をもっともっとよく知ることができますよ。

外国語教授法の歴史的変遷を知って得られるものとは?

外国語教授法の歴史的変遷を知って得られるものとは何でしょう?

それは、簡単に言うと、以下の2つです。

  1. どうしてその外国語教授法が生まれたのか、歴史の流れの中で理解できる。
  2. 同時代に生まれた外国語教授法を比較し、その外国語教授法ならではの特徴を理解できる。

歴史の流れの中で外国語教授法を捉えると、その外国語教授法について、より深く理解ができ、より効果的にみなさんの授業運営に知識を生かすことができるんです!

みなさんの周りの日本語学習者を思い浮かべてみてください。その人たちは何のために日本語を学習しているのでしょうか。そして、学習環境は?日本国内で学習していますか?それとも自分の国で学習しているでしょうか?日本語学習に使える機材にはどんなものがあるでしょうか?きっと学習者の数だけ、学習目的や学習環境があるのではないでしょうか。

そうです!現代は学習者の学習目的、学習環境が多様化している時代だということができます。学習者の学習目的、学習環境が異なれば、当然のことながら適切な教授法も異なってくるものです。

ここで気をつけたいのは、決して「古い教授法=悪い」、「新しい教授法=良い」ということではないということです。そのためにも、ぜひ歴史的変遷の中でそれぞれの外国語教授法の特徴を理解しておきましょう。

教養から実用へ

外国語教授法の歴史というと、みなさんは何年くらい前までさかのぼることができると思いますか。外国語教授法の歴史は中世ヨーロッパにさかのぼります。当時採用されていた外国語教授法とは、文法翻訳法であり、その学習目的は知識人の教養のためでした。

その後、産業革命が起こり、人々が鉄道を使って他国へ行き来するようになると、コミュニケーションを取るための実用的な外国語学習が求められるようになっていきます。つまり、外国語教授法の歴史的変遷とは、簡単に言うと教養としての外国語学習から実際に使えるようになるための外国語学習への変遷だと言うことができます。

「使える」ようになるための様々な試み

さらに、教養から実用へと外国語学習の目的が変遷を遂げた後は、「実際に使えるようになるためにはどのような学習法が効果的なのか」、それはもう数多くの試みが、さまざまな専門家によってなされました。

その中でも大まかな歴史の流れというものがいくつか認められます。

それは、

  • 機械的な練習から人間の心理を考慮した練習方法へ
  • 形式重視から意味重視へ

といった流れです。

文法翻訳法って何?知ってて役に立つの?

先ほど外国語教授法の歴史は中世ヨーロッパにさかのぼると言いました。もちろん中世ヨーロッパ以前にも人々が他言語との接触の機会を持つことはありました。そして、必要に応じて他言語を学ぶことはありました。

しかし、それは他言語を話す人々との接触による自然な「習得」、または個人的に上流家庭の子弟が他言語を話す人と接触する機会を設けての「習得」を目指したものであり、教育機関で複数の人々が同時に「学習」するようなシステマチックなものではありませんでした。

ヨーロッパで行われた初めてのシステマチックな言語教育は、中世ヨーロッパのラテン語教育・ギリシア語教育であり、そのとき採用されていた教授法は文法翻訳法でした。

ここからは、個々の外国語教授法の中から、文法翻訳法について見ていきましょう。

時代背景

中世ヨーロッパというと、みなさんはどんなイメージを持っているでしょうか。昔々の遠い国の話で、なかなか身近なイメージはわきにくいかもしれませんね。現在ヨーロッパで話されている言語をどのくらい挙げることができますか。ドイツ語、英語、オランダ語、フランス語、イタリア語、スペイン語……。

上に挙げた中でフランス語、イタリア語、スペイン語はもともと一つの言語を始祖とするって知っていましたか?その言語がラテン語です。ドイツ語、英語、オランダ語もルーツをたどれば、ラテン語とは兄弟関係にあります。

ラテン語は古代ローマ帝国の共通語として発達し、中世ヨーロッパでも知識人たちがコミュニケーションを取る共通言語として使われ続けました。

筆者は学生時代にドイツ文学を専攻していましたが、ドイツ文学研究の役に立つそうだという理由で、1年間ラテン語を履修していました。

前期に一通りラテン語の文法を学習した後、後期の教材はラテン語で書かれた聖書、そしてユリウス・カエサル(英語名はジュリアス・シーザーですね)の記した『ガリア戦記』を辞書を引き引き読むというものでした。

ラテン語の学習経験がドイツ語文学研究の役に立ったかですって?

もちろんです!19世紀にドイツ語で書かれた文学作品を読んでいて、間にラテン語がぽん!と出てきたとき、「ラテン語をやっていてよかった!」と膝を打ち、本棚からラテン語の辞書を取り出して、引いたものです。

文学作品を読んでいても、聖書や神話など、ラテン語の文献から題材を取っていることが多いです。これはドイツ文学だけではなく、他のヨーロッパ文学についても言えることでしょう。

そんな筆者が身をもって断言します!

21世紀の日本でドイツ文学を専攻しても、ラテン語の素養はあるにこしたことはない。中世ヨーロッパで、知識人であるためにはラテン語は必要であったに違いないと。実際、ラテン語で文献を読むことができ、聖職者の演説を理解することができるということが、当時の知識階級の必須条件でした。

文法翻訳法が目指したもの

文法翻訳法の学習目的はズバリ「目標言語で文学作品が読めるようになること」です。目標言語とは、これから学習して身につけていく言語のこと。中世ヨーロッパの知識人にとっては、ラテン語が目標言語になります。

背景にある言語観は、

  • 文字言語は音声言語より優れている(文字言語重視)
  • 目標言語のあらゆる単語には、それに対応する母語がある

というものです。

「目標言語で文学作品が読める」ようになれば、外国語学習は成功であり、外国語学習は指知的訓練に役立つという言語学習観を持っています。学習方法は、文法規則・動詞の活用・単語の意味などの暗記、翻訳が自由にできるように訓練していくという方法を取ります。

あれ?なんだかこのやり方って既視感がありませんか?

そうです。私たちが高校などの英語の時間に受けてきた教育にも、全部ではなくても、部分的でも、文法翻訳法が使われているんです。ヨーロッパでは16世紀にグラマー・スクール(grammar school)が設立され、ラテン語授業の中で文法翻訳法が採用されてきました。

18世紀後半になって、ラテン語以外にドイツ語や英語などが教えられるようになってからも、文法翻訳法は使われつづけました。日本では、明治維新後、英語教育の必要性が高まりましたが、会話よりも文献を通して欧米文化を吸収することを重視したため、文法翻訳法が採用されました。

筆者が学生時代にドイツ文学を専攻していたときの勉強法も、ドイツ語の文学作品を日本語に訳していくというまさに文法翻訳法。何百年もの歴史を持つ文法翻訳法は、現在もなお、生き続けています。

外国語で文献を読みこなしたいという学習者にとっては、文法翻訳法はこの上なく効果的な教授法であると言えます。

新しい教授法の誕生―文法翻訳法でできるようにならないこととは?

文法翻訳法ではできるようになることとできるようにならないことがあります。文法翻訳法でできるようになること、それは「外国語で書かれた文章を自由に読む」ことです。

それでは、できるようにならないこととは?

それは会話です。18世紀に入り、産業革命が起きると、交通機関が発達し、人々の行き来が盛んになりました。そうなると、異なる言語を話す人と交流するようになり、外国語での実践的な会話能力が求められるようになってきます。

でも、従来の文法翻訳法では会話ができるようにはなりません。では、どうしたらいいのでしょうか?そこで、会話能力を育成するための外国語教授法が次々と編み出されていくのですが、その話はまた次回することにしましょう。

<参考文献>

  • 小林ミナ(2019)『日本語教育 よくわかる教授法―「コース・デザイン」から「外国語教 授法の史的変遷まで』アルク
  • 佐々木泰子編(2019)『ベーシック日本語教育』初版9刷、ひつじ書房
  • 高見澤孟・大島弥生(2008)『日本語教授法Ⅰ』(NAFL日本語教師養成プログラム2)改訂 2版第2刷、アルク
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