「導入が大切!」は日本語教師がよく耳にする言葉です。養成講座や就職試験などで行う模擬授業はいつも文法導入。しかし、語彙を理解していないと、文法学習には進めない。みなさま、語彙の導入と説明ってどのように進めていますか。
新出語の導入や説明方法にもいろいろ種類があるんです。授業方法次第で、単調な授業になりやすい新出語学習もリズミカルにでき、学習者を飽きさせません。今日は私が実践していた新出語学習の基本をお伝えします!後輩に指導した際もとても好評だった内容です。
私の失敗
お恥ずかしい話、私は語彙指導で大失敗をしたことがあります。というのも、語彙学習に関して誤解をしていたことが原因です。どんな誤解かというと…
- 単語と意味を何度も書いたり読んだりして、覚えたら単語は完璧!
- 学習者が単語を予習してきたら、授業ではコーラス&絵教材を見て単語が言えれば大丈夫。
こんな感じです。笑
その結果…学習者は語彙の意味が印象に残らない!単語の使い方がわからない!という問題に直面しました。
The 定番 音読&コーラス
音読したり、教師が発言したあとに、学習者が真似して発言するのは定番の練習。よくある音読&コーラス練習です。基本パターンはこんな感じです。
- 学習者がひとつの単語を1・2回音読し、教師は正しく学習者が読めるかどうかを確認。
- 教師の後に続けて音読。同じ単語を2回程度繰り返す。
ここで注意したいのが、「単語を学習者に読ませるのか」という点。どういうことかと言うと、文字が満足に読めない学習者に単語を読ませると必要以上に時間がかかってしまいますよね。クラスでの授業では「誰に読ませるか」も考えてください。文字を読むことを必要としていない学習者には読む練習は省くといいですね。
この他にも、私がみなさんに注意してほしい点が2つあります。1つ目は発音やイントネーション、2つ目はアクセントが複数ある単語です。
発音やイントネーションについて、日本語教師のみなさんは自信がありますか?最近は鼻濁音を使う日本人は非常に少なくなりましたが、音声教材が鼻濁音を使っている場合があります。学習者から「先生の発音と教材の発音が違う」と言われないように注意してください。
2つ目のアクセントが複数ある単語について。簡単な単語でも2パターンのアクセントがある場合があります。「電車」なんかがそうですね。どちらのアクセントも使うのか、どちらか一方にするのか、事前に教師間で決めておくと、授業しやすいですよ。アクセントを調べるときは「NHK日本語アクセント辞典」が便利でおすすめです!
授業準備が一番大変!語彙の使い方説明
私たち日本人が英語を勉強するときもそうなのですが、単語だけわかっても使い方がわからなくて困った経験、ありませんか?日本語学習者も似たような困難を抱えることがあります。だからこそ、語彙の使い方をわかりやすく説明しなければなりません。
私は一方的な説明ではなく、学習者とやり取りしながら説明しています。以下で、私が授業でやっている方法を2つ紹介します!
新出語を使って短文を作らせる
例えば、「みんなの日本語 第26課」の新出語「見ます・診ます」の場合。第6課で「見ます」は学習している状態です。
教師 :何 見ますか?
学習者:テレビを見ます
教師 :テレビだけですか?
学習者:悪いところを診ます
教師 :だれ?(教師は助詞を言わない)
学習者:医者が悪いところを診ます/患者の悪いところを診ます
教師 :すばらしい答えです!もう一度言います。「医者が患者の悪いところを診ます」
学習者:医者が悪いところを診ます。
という感じです。ポイントは以下の4つです。
- 「みます」には「見ます」以外に「診ます」の意味があることを学習者に説明させる。
- 助詞は学習者の苦手な部分でもあるので、できるだけ学習者に答えさせる。
- 学習者とやり取りしながら、少し長めの例文を作成する。
- 学習者とのやり取りのなかで、未習語を使う必要があれば、それを板書し紹介する。
動詞や名詞の例文作成は比較的しやすいですが、副詞の例文作成はレベルが高く、間違いが多発しますので、穴埋め形式などにするのがいいですよ。
新出語を使って似ている意味の語彙や関連語彙を学習
「みんなの日本語 第26課」には「運動会」「~弁」「缶」などの名詞も新出語として登場します。「運動会」から、「~会」という他の語を導入したいときには、
教師 :「運動会」以外に何会がありますか?
と発問できます。
「音楽会」という言葉を調べている学習者がいるかもしれませんし、歌手のコンサートのことを「音楽会」だと理解していたら、訂正する必要がありますね。第26課以降に学習する「二次会」や「新年会」ももう知っているかもしれません。
では、方言としての「~弁」の語彙を広げたければどうしますか?
教師 :何弁?
学習者:関東弁、関西弁
このように学習者に聞き、語彙を強化できますね。
日本に住んでいる学習者なら、自分が住んでいるエリアが何弁を話すエリアなのか、知っているほうがいいでしょう。イギリス英語を話す学習者が、「イギリス弁」などと言うかもしれないので、日本語では「イギリス英語」ということを紹介するチャンスでもあります。
「缶」から飲み物系の語彙を増やしたい場合には、学習者の飲み物(水筒)などを使って導入できます。
もし机上にペットボトルが置いてあるようなら、それを指さして
教師 :これは何ですか?
と発問し、学習者が語彙をもう知っているようなら、
学習者:これはペットボトルです。
と答えるでしょう。適切な語彙が出てこなければ、
教師 :これはペットボトルです。
と語彙を増やしていくとわかりやすいですよ。
この新出語導入は、語彙を広げようと思えばどこまででも広げられます。学習者からの質問があるかもしれないので、教師も事前に詳しく調べておく必要があります。
ただし!
なかなか語彙が覚えられない学習者には、長めの例文音読や教科書以外の語彙学習は苦痛です。そういった場合には、学習者の様子を見て、例文を短めにしてみたり、なるべく身近な語を取り上げたりして、臨機応変に新出語導入を行うことが大切です。
イラスト&写真を使う方法
「みんなの日本語1 2」には絵カードが副教材としてあり、語彙導入や説明時に使っていらっしゃる方も多いと思います。どうやって使っていますか。絵カードを見せて、新出語が言えたらそれでOKですか?いえいえ、それだけでは満足な練習ができません。
絵カードを見せるなら、できるだけ絵を文章で説明させるようにすると、単語の使い方まで理解させられるのでおすすめです。
この写真を見せるなら、「診ます」だけを答えさせるのではなく、
- 病院の先生が子どもの病気を診ます。
- お母さんは子どもを抱いています。
と、文章で答えさせます。日頃から文章で話す習慣をつけることが、会話や作文のレベル向上に繋がります。
中級以上の教科書には副教材として絵カードがほとんどありません。例えば「テーマ別 中級から学ぶ日本語(改訂版)」の第1課の新出語には「小判」があります。「小判」が何かを知っていたとしても、写真を見せるほうが学習者の記憶に残ります。
「昔」も「みんなの日本語2」第35課で学習していますが、「テーマ別 中級から学ぶ日本語(改訂版)」の第1課の新出語です。さらっと「初級のときに覚えた言葉ですね」で終わらせるのではなく、「昔」がどのくらい前なのか聞いてみてください。文脈によって、「昔」が何年前なのか、違いますからね。
新出語でクイズ
新出語の学習が一通り終わった後にするクイズです。復習としても使えます。「みんなの日本語2」第26課の新出語学習が終わったあとには以下のようなクイズができます。
①お金をもらいません。他の人を助けることは?
答え:ボランティア
②お金が入っている小さい袋・小さい鞄は?
答え:財布
③財布が落ちています。どうしますか?
答え:財布を拾います
④一週間、二週間あとで、ご飯を食べに行きましょう。「一週間、二週間あと」を別の言葉で?
答え:今度
答えになっている「ボランティア」「財布」「拾います」「今度」が「みんなの日本語2」第26課の新出語です。自由に答えさせると、複数の答えになってしまうので、必ず新出語から答えることにします。
この問題は問題文も聞き取れないといけないし、すぐに口から新出語が出てこないといけません。「すぐに口から言葉が出てくること」は会話では非常に大切です。また、クイズにすることで学習者も楽しく新出語句を復習できるというメリットもあります。
新出語でウケる話を!
授業にはシーンと真面目な雰囲気のときもあれば、楽しくワイワイする時間もある。どちらも大切ですね。新出語学習の時間も真面目な雰囲気が続くと、集中力が切れてしまいます。新出語を使って、楽しくワイワイする時間が作れたら素敵ですよね。
みなさんには「これを話すと学習者はノッてくれる。笑ってくれる」話はありますか。各課の新出語を使って、「これを話すと学習者はノッてくれる。笑ってくれる」話があると、便利です。
例えば、「みんなの日本語1」第10課の「あります・います」の新出語学習の際、「幽霊は?」と日本の幽霊の写真を見せます。すると学習者はいつも「え?生きていないのに、いますを使うの?!」と反応してくれます。
「みんなの日本語2」第26課には「直接」が新出語にありますが「直接告白しますか?メールで告白しますか?」などの話をすると、いろいろな意見が聞けて、楽しめます。
まとめ
日本語教師のみなさんは、何か外国語を勉強していらっしゃいますか。多くの日本語学習者は、仕事やアルバイトをしながら、日本語を勉強しています。生活の中心が日本語学習でない中で、言葉を覚えるというのはかなりの努力が必要です。その努力の手助けができる授業方法を考えてみると、自ずと学習者が楽しめる、役に立つ授業になりますよ。
新しい言葉を覚えるとき、何か印象に残ることや連想するものがあると覚えやすくなるものです。私は印象に残る授業、連想を手助けする授業を心がけています。
みなさんの授業がもっともっと楽しく、学習者の日本語力向上につながるものになりますように!
コメント