こんなときどうする?③ 四技能のバランスが悪い学生への指導

こんにちは!

みなさんの教えている学習者に「話せるけど、書けない」や「書けるけど、話せない」という人はいませんか?

バランスよく四技能が身につけられたらいいですが、なかなかそうはいかないですよね。

今回はそんな学習者への指導の仕方について、扱ってみたいと思います。みなさんのクラスの学生を思い浮かべながら、一緒に考えてみましょう!

目次

こんなときどうする?

 ※T=教師 S=学生

S:先生、わたしにこのクラスの勉強は必要ありません。

T:どうしてですか?

S:先生の話は全部わかるし、意見も日本語で言える。
 今の勉強は、俺にとって意味ないです。
 上のクラスに行きたい。

これは授業初日、ある新入生との実際の会話です。ちなみに、このクラスはゼロ初級です。

突っ込みたいところはいくつかありますが、会話だけ聞くと、50音から勉強する学生とは思えません。

わたしはプレースメントテストを確認しました。あんなに日本語で話していたのに、びっくりするくらいできていませんでした。この点数ではゼロ初級クラスだ…。

こんなとき、みなさんならどうしますか?

みなさんの教育機関の状況や、学習者の日本語学習目的によって対応は変わってくると思います。一つの例として見てみてください。

この学生はある程度話すことができたので、まず3つ質問しました。

Q1.これまでどうやって日本語を勉強してきたのか
Q2.日本で日本語を勉強する目的は何か
Q3.(軽く結果を伝え)なぜプレースメントテストがこのような結果になったのか

この時わたしが所属していたのは、進学がメインの日本語学校です。彼は高校を出たばかりで、漢字圏の学生でした。

 Q1.これまでどうやって日本語を勉強してきたのか

   → 母国で日本語の塾に通っていた。
     日本のアニメやゲームをよく見ているので耳は慣れている。

 Q2.日本で日本語を勉強する目的は何か

   → 大学に行きたい。学校と学部はまだわからない。とにかく大学。

 Q3.なぜプレースメントテストがこのような結果になったのか

   → 日本に来てすぐのテストだったから緊張していた。
     もう一度やったら全部わかる。

筆記テストができないから、一から勉強し直したほうがいい。いやいやこれだけ話せるから、筆記は自主学習にしてクラスのレベルを上げてあげたほうがいい。いろいろな選択肢が考えられますね。

その後、通訳を入れながらもう少し話をして、このときの学校の方針や、学生の性格、テストでできなかった部分などから、結果的に彼はゼロ初級クラスから始めることになりました。賛否両論あると思います。

どうして彼がこのクラスになったのか、その後教師はどうやって接していたのか、卒業する頃にはどうなったのか、後ほどお話ししますね。

クラス分けの基準

みなさんの教育機関では、どのようにクラス分けがされているか聞いたことがありますか?専任講師はもちろん、非常勤講師であっても、クラス分けの基準は知っておいたほうがいいです。

「わたしはどうしてこのクラスですか?」と聞いてくる学生(特に新入生)は少なくありません。自分が思っていたより、決められたクラスが低いレベルのときに多いです。プライドもあるんでしょうね。

それに対して「どうしてだろうねえ。何かが足りなかったんじゃない?」というような答えでは、学生は納得しません。モヤモヤして、やる気がなくなってしまうこともあります。

教師がまずクラス分けの基準を理解して、目の前にいる学生に身につけてもらいたい力を見つけてあげることが大切です。ぜひ「このクラスで、この力を伸ばそうね」と前向きな言葉をかけてあげてくださいね!

四技能について

言葉を学ぶ際には、四技能を磨くことが大事だとされています。四技能とは「聞く」「話す」「読む」「書く」の4つの力です。

バランスよく身につけていくのが理想ではありますが、日本語に触れてきた背景や、個人の興味、日本語を学ぶ動機などによってバラつきが出ます。

趣味で勉強していて、「アニメを日本語で理解できるようになりたい」という学習者なら、「聞く」力を身につけたいと思うでしょう。

「日本語で漫画が読めるようになりたい」というなら「読む」力。「日本人と話したい」なら「聞く」力と「話す」力。・・・と、早くできるようになりたいことは学習者によって異なります。

日本語学校のような、1つのクラスに学生がたくさんいると、極端にバランスが悪い学生が出てくることがあるんですよね。

それ自体は悪いことではないんですが、できる部分だけを過信して、「もっと上のクラスに行きたい!」「このクラスの勉強は自分に必要ない」と言ってくる場合があります。最初に会話例を挙げた学生もそうです。

プライドを傷つけないよう、接し方や指導の仕方を考える…難しい!試行錯誤の連続です。

話せるのに筆記テストができない学生

「聞く」力と「話す」力に長けている学習者。子どものころから日本のアニメやドラマ、ゲームなどから日本語を覚えてきた学生に多い印象があります。耳が日本語になれていて、自然に語彙や言い回しを覚えているのは素晴らしいことです。

ただ、その学生が進学や就職を目指していたら、「読む」「書く」は避けられません。試験はもちろん、進学先や就職先でも必要になってきますよね。

このような学生は「書く」作業がもともと嫌いだったり、「正確に書く」ことにあまり必要性を感じていない場合があります。

「日本語が読めるようになったら、こんなに世界が広がるよ」
「日本語が書けるようになったら、こんないいことがあるよ」

とメリットをたくさん伝えて、苦手なことに取り組むモチベーションを上げてあげましょう!

筆記はできるのに話せない学生

次は先ほどとは逆のパターンです。日本人の英語力を話題にする際に、よく聞かれることかもしれません。

字を目で見て理解したり、紙の上にある質問に字で答えることはできる。年齢が高くなってから日本語を学び始めた学習者や、性格的に大人しい学生に多い印象です。まじめにコツコツ勉強しているため、知識としては身についている。これも素晴らしいことです。

努力を認め、ぜひ「あなたともっと話したい」ということを伝えてください。

こういった学生は「話したいけど言葉が出てこない」ということが多いと思います。

時には、言葉が出てくるまでじっくり待ってあげる。きちんと伝えられたらしっかり喜んであげることも大切です。すこしずつ成功体験を積ませて、自信をつけてあげましょう!

学習者にとって必要なものを明確にしよう

最初の話に戻りますが、例の学生はアニメやゲームと同じくらい、日本のアイドルが好きでした。しばらく話しているうちに彼が言ったんです。

いつか握手会に行って手紙を渡したい

それだ!と思いました。

自分の言葉で手紙を書くには練習をしなければなりません。
せっかくなら上手なものを渡したいでしょう?

記述の試験のことなども話しましたが、彼に一番響いたのはこれでした。自分から「一から書く勉強をします」と、納得してゼロ初級クラスになったんです。

ただ、担当する教師はなかなか大変でした。クラスにいる意味は見出したものの、やはり授業は簡単だと感じてしまう。(小テストはレベル相応なのですが…)

質問に答えられない学生を見て、いらいらしたような態度をとったり、授業中に塾の宿題をすることもありました。そのたびに、モチベーションを保つ工夫が必要でした。

  • うまく自分で話せない学生のサポートをお願いする
  • 授業中に聞きとった教師の言葉をノートに書かせる
  • 課題がすべて完璧にできたら、(課題時間が終わるまで)他の教材を見ることを許す

…など、担当する教師で情報共有しながら何とか乗り切った感じです。教師間で学生への対応の仕方を統一するということが重要だと思います。そのために情報共有は欠かせません。

授業が進むにつれ他の学生も話せるようになってきて、彼よりテストができる学生もいたので、刺激を受けたのでしょう。少しずつ書く力がついてきて、同時に話すことばも正確になってきました。

その後、彼は無事に大学生活を送り、日本での就職も決まりました。何度かアイドルへのファンレターの添削を頼んできて、こちらも無事に渡せたようです(笑)

学生は十人十色!必要な力や目標、モチベーションを上げるきっかけも様々です。教師はそれを見極めて、明確に本人に伝えてあげる必要があります。

学習者は好んで四技能を偏らせているわけではありません。きっと彼らももどかしさを感じていると思います。いろいろ試して、うまくいったりいかなかったりしますよね。どうか諦めずに寄り添ってあげてください。

そして、「この学生にはこういうアプローチをした」という記録を残しておくと他の学生について考える際にも役立つと思います。

困った学生に出会ったら、教師力を磨くチャンスです!そう思ったら、学生が愛おしくなりませんか(^^)

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