★地域の日本語支援に参加したい。
★海外に住んでいて、「日本語を教えて!」と言われた。教えたいけど、教え方がわからない…
資格はないけれど、日本語を教える人(教えたい人)いますよね。でも、テキストを見ても日本語教育の用語や教え方がわからない人がほとんどなんです。
今回は「資格をもっていなくても上手に教えたい!」という方のためのシリーズ第1回目。
日本語教育の基本的な用語を説明します。用語がわかれば、テキストを理解するのも楽になりますよ。
日本語の動詞は3種類
日本語教育では動詞を3種類に分けています。私たち日本人が学生のときに習った五段・上一段…なんてのは使いません。
3種類の動詞の名称
■1グループ
■2グループ
■3グループ
日本語教育で使う動詞は1グループ・2グループ・3グループの3種類だけです。
1グループ・2グループ・3グループにはそれぞれどんな動詞があるんでしょうか?説明していきますね。
1グループの動詞とは?:「い」+ます
1グループの動詞
動詞を「~ます」の形にしたとき、「ます」の前の文字の母音が「い」になる動詞。
例 買います
行きます
読みます
帰ります
これらの動詞は「ます」の前の文字が「い・き・み・り」で、母音が「い」ですね。このような動詞を1グループの動詞と呼んでいます。
2グループの動詞とは?:「え」+ます・「1文字」+ます
2グループの動詞
動詞を「~ます」の形にしたとき、「ます」の前の文字の母音が「え」になる動詞と「ます」の前がひらがな1文字の動詞。
例 覚えます
あげます
食べます
止(と)めます
ねます
みます
います
上記の動詞は「ます」の前の文字が「え・げ・べ・め」で、母音が「え」。または「ます」の前がひらがな1文字ですね。このような動詞は2グループです。
ただし!!2グループの動詞には例外が多いので、注意が必要です。
例 7時に起きます
本を借ります
シャワーを浴びます
階段を降ります
これらの動詞は「ます」の前の文字の母音は「い」ですが、2グループなのです。理由は簡単、下記を見てください。
起きます・起きて・起きない・起きる
借ります・借りて・借りない・借りる
浴びます・浴びて・浴びない・浴びる
動詞活用しても、「ます」の前の部分は変化しないですね。このような動詞は2グループに所属します。
学習者は動詞活用を学ぶ前に、動詞のグループ分けを学びます。だから、2グループの「例外の動詞」とか「スペシャルな動詞」だと覚えています。
3グループの動詞とは?:「名詞」+ます
3グループの動詞
3グループの動詞はわかりやすいです。
例 来ます
します
名詞+します
「名詞+します」とは
・コピーします
・結婚します
・運転します
のように「名詞+します」でひとつの動詞になっているもののことです。
以上、1グループ・2グループ・3グループが日本語教育で使う動詞の種類です。学習者は動詞のグループごとに活用を覚えているんですよ。
て形って何?日本語教育の動詞活用
「読まない・読みます・読む…」というふうに動詞が変化することを「活用」と言います。「未然・連用・終止…」という名称は、日本語教育ではあまり使いません。では、何を使うのか?下記のとおりです。
動詞活用の名称 | 動詞の形 |
ます形 | 飲みます・食べます・します |
て形 | 飲んで・食べて・して |
ない形 | 飲まない・食べない・しない |
辞書形 | 飲む・食べる・する |
た形 | 飲んだ・食べた・した |
意向形 | 飲もう・食べよう・しよう |
命令形 | 飲め・食べろ・しろ |
禁止形 | 飲むな・食べるな・するな |
条件形 | 飲めば・食べれば・すれば |
可能形 | 飲めます・食べられます・できます |
受身 | 飲まれます・食べられます・されます |
使役 | 飲ませます・食べさせます・させます |
使役受身 | 飲まされます・食べさせられます・させられます |
日本人なら活用された動詞を見れば、名称の理由がわかるのではないでしょうか?
学習者は「ます形」で動詞を覚えてから、他の動詞の活用を覚えていきます。
動詞の活用はグループごとに覚えます。なぜなら、グループごとに活用方法がルール化されているからです。覚える順番はふつう活用が単純な2グループから始め、3グループ・1グループと続きます。
さて、どうやって動詞を変換させるのでしょうか?日本人は自然と活用しちゃってるから、活用のルールを意識したことはないですよね。次に活用のルールを載せました。活用のルールなんて知らないわ、という方は参考までにご覧ください。
て形の変換方法
「ます形」で動詞を覚えたあと、一番初めに学習することが多い「て形」。特に1グループの動詞変換は複雑なので、注意が必要です。
2グループ
覚えます | 覚えて |
あげます | あげて |
食べます | 食べて |
「ます」を「て」に変えるとて形になります。
3グループ
来ます | 来て |
します | して |
2グループと同じ変化。「ます」を「て」に変えるとて形になります。
1グループ
買います | 買って |
行きます | 行って |
読みます | 読んで |
帰ります | 帰って |
1グループは変換が複雑なので、注意が必要です!注目ポイントは、「ます」の前のひらがな!ルールは以下の通りです。
「ます」の前が「い」「ち」「り」の動詞は「って」に変える。
「ます」の前が「み」「び」「み」の動詞は「んで」
「ます」の前が「き」の動詞は「いて」
「ます」の前が「ぎ」の動詞も「いて」
「ます」の前が「し」の動詞は「して」
「行きます」は例外で、「行って」
になります。変化が複雑なので、歌にして覚えやすくする教師もいますよ。
ない形の変換方法
ない形、つまりは否定形です。
2グループ
覚えます | 覚えない |
あげます | あげない |
食べます | 食べない |
「ます」を「ない」に変えると「ない形」になります。
3グループ
来(き)ます | 来(こ)ない |
します | しない |
「ます」を「ない」に変えることは2グループと同じですが、「来ます・来ない」は漢字が同じでも、読み方が変わるので、注意が必要です。
1グループ
買います | 買わない |
行きます | 行かない |
読みます | 読まない |
「ます」の前の文字の母音が「あ」になり、「ます」が「ない」に変わります。ただし、「い」は「あ」ではなく、「わ」に変わるので、注意が必要です。
辞書形の変換方法
辞書に掲載されている動詞と同じ形なので「辞書形」と呼んでいます。
2グループ
覚えます | 覚える |
あげます | あげる |
食べます | 食べる |
「ます」を「る」に変えると、辞書形になります。
3グループ
来(き)ます | 来(く)る |
します | する |
1グループ
買います | 買う |
行きます | 行く |
読みます | 読む |
「ます」がなくなり、「ます」の前の文字の母音が「い」から「う」に変わります。
た形の変換方法
た形への変換はて形と同じ。「て」が「た」に、「で」が「だ」に変わります。
2グループ
覚えます | 覚えた |
あげます | あげた |
食べます | 食べた |
3グループ
来ます | 来た |
します | した |
1グループ
買います | 買った |
行きます | 行った |
読みます | 読んだ |
意向形の変換方法
2グループ
覚えます | 覚えよう |
あげます | あげよう |
食べます | 食べよう |
「ます」が「よう」に変わると、意向形になります。
3グループ
来(き)ます | 来(こ)よう |
します | しよう |
「ます」が「よう」に変わるのは2グループと同じですが、「来(き)ます」は「来(こ)よう」になります。
1グループ
買います | 買おう |
行きます | 行こう |
読みます | 読もう |
「ます」が「う」に変わり、「ます」の前の文字の母音が「お」に変わります。
命令形の変換方法
2グループ
覚えます | 覚えろ |
あげます | あげろ |
食べます | 食べろ |
「ます」が「ろ」に変わると、命令形になります。
3グループ
来(き)ます | 来(こ)い |
します | しろ |
1グループ
買います | 買え |
行きます | 行け |
読みます | 読め |
「ます」がなくなり、「ます」の前の文字の母音が「い」から「え」に変わります。
禁止形の変換方法
禁止形はどのグループも「辞書形+な」です。
2グループ
覚えます | 覚えるな |
あげます | あげるな |
食べます | 食べるな |
3グループ
来(き)ます | 来(く)るな |
します | するな |
1グループ
買います | 買うな |
行きます | 行くな |
読みます | 読むな |
条件の変換方法
条件形は形容詞や名詞にもありますが、ここでは動詞のみに触れておきます。
2グループ
覚えます | 覚えれば |
あげます | あげれば |
食べます | 食べれば |
「ます」が「れば」に変わると条件形になります。
3グループ
来(き)ます | 来(く)れば |
します | すれば |
1グループ
買います | 買えば |
行きます | 行けば |
読みます | 読めば |
「ます」が「ば」になり、「ます」の前の文字の母音が「い」から「え」に変わります。
受身の変換方法
2グループ
止(と)めます | 止(と)められます |
見ます | 見られます |
食べます | 食べられます |
「ます」が「られます」に変わると受身になります。
3グループ
来(き)ます | 来(こ)られます |
します | されます |
1グループ
買います | 買われます |
呼びます | 呼ばれます |
読みます | 読まれます |
「ます」が「れます」になるのに加え、「ます」の前の文字の母音が「い」から「あ」に変わります。しかし、ない形と同じで「い」は「わ」になります。
使役の変換方法
2グループ
覚えます | 覚えさせます |
あげます | あげさせます |
食べます | 食べさせます |
「ます」が「させます」に変わると使役になります。
3グループ
来(き)ます | 来(こ)させます |
します | させます |
1グループ
買います | 買わせます |
行きます | 行かせます |
読みます | 読ませます |
「ます」が「せます」に変わり、「ます」の前の文字の母音が「い」から「あ」に変わります。ない形・受身と同じで「い」は「あ」ではなく、「わ」に変わります。
使役受身の変換方法
使役受身は初級よりも、初中級や中級で学習することが多いです。
2グループ
覚えます | 覚えさせられます |
あげます | あげさせられます |
食べます | 食べさせられます |
「ます」が「させられます」に変わると使役受身になります。
3グループ
来(き)ます | 来(こ)させられます |
します | させられます |
1グループ
買います | 買わされます |
行きます | 行かされます |
読みます | 読まされます |
話します | 話させられます |
「ます」の前の文字の母音が「い」から「あ」に、ない形・受身・使役と同様、「い」は「わ」ではなく、「あ」に変わります。「ます」は「されます」になります。
辞書形が「す」で終わる動詞(話す・出すなど)は、「されます」ではなく、「せられます」になります。
動詞活用とは別物!丁寧形と普通形
文法解説で見かける「丁寧形」と「普通形」。「普通形接続」なんて言葉もよく見かけます。「丁寧形」と「普通形」とは何なんでしょうか?
簡単に言うと動詞は「~ます」「~ません」「~ました」「~ませんでした」の形が丁寧形です。丁寧形に対し、「買う(辞書形)」「買わない(ない形)」「買った(た形)」「買わなかった(ない形・過去・否定)」の形が普通形です。
そして、形容詞や名詞にも丁寧形と普通形があります。
丁寧形 | 普通形 |
おもしろいです | おもしろい |
おもしろくありません | おもしろくない |
おもしろかったです | おもしろかった |
おもしろくなかったです | おもしろくなかった |
丁寧形 | 普通形 |
有名です 雨です | 有名だ 雨だ |
有名じゃありません 雨じゃありません | 有名じゃなかった 雨じゃなかった |
有名でした 雨でした | 有名だった 雨だった |
有名じゃありませんでした 雨じゃありませんでした | 有名じゃなかった 雨じゃなかった |
丁寧形と普通形を使い分ける理由はいろいろありますが、初級で初めて習うときは「友達と話すときには普通形を使う」と教えるのが一般的です。
日本語で日本語を教える「直説法」
日本語で日本語を教える方法を「直説法」と言います。教室で学習者に指示するときも、語彙や文法の説明をするときも、日本語で行います。一方、日本語以外の言語を使いながら教える方法を「間接法」と言います。
日本にある日本語学校は直説法がメジャーです。地域の日本語支援者募集の欄に「外国語ができなくても教えられます」と書いてあるのは、直説法で日本語を教えるからですね。
「挨拶もわからない外国人に、どうやって日本語だけで日本語を教えるの⁈」と思う人もいるでしょう。
日本語学校では教室でよく使われるフレーズを覚えてから、日本語の学習を始めるので、挨拶や指示の言葉は通じます。それに、学習者に母国語での文法解説書を配布している学校も多いし、直説法でも教えやすいように、イラストを使った練習や教材も多数あるんですよ。
「直説法だから上手に教えられる」とか「間接法だから学習者から人気がある」とかはありません。
導入って何?
いい導入が浮かばない
導入が大切
そんな言葉をよく耳にしますが、導入とは何なんでしょう?
導入とはその時間のメインの学習を始める前の5~10分の時間を使って、学習者に学習項目に興味を持たせ、理解してもらうことです。
同じ文法を学習する場合でも、学習者の興味や状況に合わせて、導入を変えます。
例えば「AとBとどちらが~ですか」という文法を学習するとき。下記の2パターンのクラスではどのような導入例文がいいでしょうか。
- 会社員が多いクラス
- 日本の小学校に通う児童が多いクラス
①会社員が多いクラスでは、仕事や家族に関係がある例文が身近に感じます。
母国と日本とどちらが仕事の時間が長いですか。
〇〇さんと奥さんとどちらが帰る時間が早いですか。
②日本の小学校に通う児童が多いクラスでは、学校や勉強に関係がある例文のほうが身近に感じるし、興味も持ってもらえます。
国語と算数とどちらが好きですか。
サッカーとバスケットボールとどちらがおもしろいですか。
導入例文は学習者の生活でより使いやすいものにするといいですね。
導入の方法に関しては以前の記事「不自然な演技での導入はもうおしまい。使える導入例文を生み出す方法!学習者と会話しながら導入するには!?」で書いたことがありますので、興味を持った方は読んでみてください。
最後に
最後に、日本語を教えるときに気をつけて欲しいことがあります。
直説法でも間接法でもどちらでも上手に教えられます。でも、教育機関から指示がある場合は、その方法(直説法or間接法)で教えてください。教師によって方法が異なると、学習者が戸惑います。「〇〇先生は母語でも説明してくれるのに…」と言われても困りますしね。
間接法で教えると、学習者は自分が理解できる言葉があるので、安心感を感じます。でも、教師が片言の外国語しか話せない場合は、学習者が正確に意味を理解できないかもしれません。その場合は直説法のほうがいいでしょう。
「英語ならみんなわかるだろう」と英語で解説するのは避けたほうがいいです。たとえ英語がわかったとしても、学習者によって理解レベルが異なると、日本語の理解の差につながってしまいます。
今回は日本語教材でよく使われている用語を説明しました。これで、解説書が理解しやすくなること間違いなしですよ!
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