物の授受表現を上手に教えよう!②―「くれる」っていつ使うの?

みなさん、こんにちは。前回、物の授受表現の教え方第1弾として、「あげる」と「もらう」の教え方をご紹介しましたが、さっそくみなさん、ご活用いただけているでしょうか。今回は物の授受表現の教え方第2弾として、「くれる」の教え方をご紹介します。

みなさんは「くれる」ってどのように教えていますか。「あげる」と「もらう」だけでも、教えるほうも教わるほうも大混乱。なのに「くれる」まで?「もらう」と「くれる」って一体何が違うの?「あげる」と「もらう」は?

「くれる」って、日本人なら日常的によく使う言葉ですが、いざ外国人学習者に教えるとなると、一体どこから手をつけたらいいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。

でも、大丈夫!「くれる」は使う場面にルールがあって、そこさえきっちり押さえれば、みなさんも「物の授受表現マスター」になれるんです。それでは今から「くれる」の効果的な教え方を見ていきましょう。

目次

「くれる」が使える場面、制約が多いって知ってる?

「あげる」と「もらう」に比べて、「くれる」は使い方に制約が多いって、ご存じですか。「くれる」の使い方のルールとはズバリ、次の2点です。

  1. 「物の受け手」は必ず「私」になる。
  2. 主語が「私」の場合は「くれる」は使えない。

この2点さえ押さえれば、「くれる」の教え方はバッチリ!です。それではこの2点をくわしく見ていきましょう。

「くれる」の使い方ルール①―「山田さんが鈴木さんにプレゼントをくれました」は何がおかしい?

ここからは、「くれる」の使い方のルール①「『物の受け手』は必ず『私』になる」について、見ていきます。まずは次の例文を見てください。

例文(1):山田さんが鈴木さんにプレゼントをくれました

この例文はおかしいですね。一体何が間違っているのでしょう?こういうときは、「山田さんが鈴木さんにプレゼントをあげました。」が正しいです。

では、「物の受け手」(=プレゼントをもらう人)を「鈴木さん」から「私」に変えると、どうなるでしょうか。

例文(2):山田さんは私にプレゼントをくれました

「物の受け手」を「私」にすると、自然な日本語になりますね。さらに、例文②と同じ状況で動詞を「くれる」から「あげる」に変えてみましょう。

例文(2)´:山田さんは私にプレゼントをあげました

この文もおかしいですね。「物の受け手」が「私」の場合は、「あげる」は使いません。つまり、「くれる」の使い方のルール①「『物の受け手』は必ず『私』になる」をよりくわしく見てみると、以下のようになります。

  • 「くれる」の場合、「物の受け手」は必ず「私」である。
  • 「物の受け手」が「私」以外の場合は、「あげる」を使う。
  • 「物の受け手」が「私」の場合、「あげる」は使わない。

授業で学習者に教える際には、最初からこのルールを意識した例文づくりを心がけましょう。

「くれる」の使い方ルール②―「私が鈴木さんにプレゼントをくれました」は何がおかしい?

次に、「くれる」の使い方のルール②「主語が『私』の場合は『くれる』は使えない」について、見ていきます。次の例文を見てください。

例文(3):私は鈴木さんにプレゼントをくれました

この日本語はおかしいですね。どこが間違っているのでしょうか。動詞を「くれる」から「あげる」に変えてみましょう。

例文(3)´:私は鈴木さんにプレゼントをあげました

自然な日本語になりましたね。つまり、「くれる」の使い方のルール②「主語が『私』の場合は『くれる』は使えない」については、以下のことが言えます。

  • 主語が「私」の場合、「くれる」を使うことはできない。
  • 主語「話し手」は必ず「私」以外の人である。
  • 主語が「私」の場合は「あげる」を使う。

授業で教えるときには、導入のときから、学習者が「話し手」が「私」であるような文を作ってしまわないように注意を払いましょう。

「私に」を省略してみよう

上で紹介した、「くれる」の使い方のルール2つをまとめると、以下のようになります。

  • 「くれる」を使った文では、主語は必ず「私」以外の人である。
  • 「くれる」を使った文では、「物の受け手」は必ず「私」である。

つまり、「くれる」を使った文の構造は、以下のようになります。

「くれる」を使った文の場合、「物の受け手」は必ず「私」になるということは、以下のことを表しています。

  1. 「くれる」を使った文の場合、「物の受け手」=「私」というのは言わなくても分かる。 
    →「私に」の部分は省略可能
  2. 「くれる」を使った文の場合、主語=「『誰が』私にくれたのか」が重要。

②のように、「くれる」を使った文の場合は、「誰が」の部分が重要になってくるので、主語の後ろにつく助詞は「は」よりも「が」が使われやすくなります。

最初に紹介した例文「山田さんは私にプレゼントをくれました」を例に考えてみましょう。例文(1)a:山田さん私にプレゼントをくれました。例文(1)b:山田さん私にプレゼントをくれました。例文(1)aと(1)bなら、(1)bのほうがより使われやすいということになります。

そして、①のように、「私に」の部分は普通省略されます。

例文(1)c:山田さんがプレゼントをくれました。構文にすると、以下のようになります。

学習者には「私に」の部分は省略することを伝え、「誰が」と「何を」の部分を変えて、練習をするといいでしょう。

ちょっと上級編―「物の受け手」が「私」ではない場合でも「くれる」が使える場合があるって本当?

ここまで繰り返し、「くれる」を使った文では「物の受け手」は必ず「私」になると言ってきましたが、実は「私」ではなくても「くれる」が使える場合があるんです。それは、「物の受け手」が家族や会社の仲間など、私の「ウチ」の人の場合です。

例文(4):山田さんが私の娘にプレゼントをくれました。

初めて学習する段階では、このように「ウチ」の人が「物の受け手」になるような場合は、なかなか教科書の練習に出てこないかもしれません。でも、日本語教師のみなさんは自分の中の引き出しとして、ぜひ「くれる」を使った文では「ウチ」の人も「物の受け手」になりうることを覚えておきましょう。

日常生活では例文(4)のような文もよく使いますよね。学習者が生活の中で例文(4)のような文を耳にして質問してきたとき、すぐに答えられるようにしておいて損はありません!

中級以降の授業で「くれる」を復習するとき、そして、初級段階でも教科書に載っていないことも貪欲に吸収できる学習者を担当している場合には、教師の側から「物の受け手」が「私」ではない場合の「くれる」について一言付け加えてもいいと思います。

「くれる」どんな練習方法が効果的?

筆者は、物の授受表現「あげる」・「もらう」・「くれる」のうち、「くれる」がいちばん学習者にとって難しいのではないかなと考えています。

そう考える理由は次の4つです。

  1. 使い方の制約があって分かりにくい
  2. 「私に」が省略されるので「誰が?」「誰に?」くれるのかが分かりにくくなる
  3. 学習者の母語に「くれる」にあたる語彙がない、または「あげる」と区別をしない可能性がある
  4. さらに、「物の受け手」が「私」ではない場合の文は、「ウチ」と「ソト」の考え方が学習者にとって難しい可能性がある

3つ目の学習者の母語については、筆者も今まで教えた学習者の母語を全部把握しているわけではありません。しかし、例えば筆者が学んだ韓国語の場合は比較的日本語と似た言語だといえると思いますが、「あげる」と「くれる」は同じ単語を使います。

それでは学習者が混乱するのも無理ないですよね。それでも「誰が」「誰に」くれるのか、物の移動の方向をきちんと押さえて、反復練習をすれば、大丈夫です。ここからは、「くれる」を効果的に身につけるための練習方法をご紹介します。

「誰が」「何を」に絞った練習―「物の受け手」は「私」であることを覚えよう

「くれる」を使った文の場合、「物の受け手」は必ず「私」(または「私」のウチの人)であることは繰り返し見てきましたね。そこを定着させるためには、「物の受け手」は固定して、「誰が」と「何を」だけを変えて反復練習をしていくのが効果的です。ここでは「物の受け手」は「私」に固定して、「私に」を省略する練習をしましょう。

練習(1):鈴木さん、コーヒー→鈴木さんがコーヒーをくれました。

練習(2):佐藤さん、チケット→佐藤さんがチケットをくれました。

このように、「誰が」と「何を」だけを次々に変えて、繰り返し「くれる」を使った例文を作っていくことで、学習者も「<『私』以外の人>が+<物>を+くれました。」の構文を、具体的な物の移動といっしょに覚えられるはずです。

「くれる」と「もらう」同じことを主語を変えて言ってみよう

「くれる」を使った文は「誰が」という主語の部分を変えると、「もらう」を使った文にすることができます。練習(3)a:高橋さんは(私に)花をくれました。同じことを「もらう」を使って言うと、次のようになります。

練習(3)b:私は高橋さんに花をもらいました。図式化すると次のようになります。

「くれる」を練習する段階で「もらう」が既習の場合は、実際に学習者に物を渡しながら、

学習者:「私は先生に○○をもらいました」
「先生が○○をくれました」

このように、学習者に発話を促すことで、「もらう」の復習も「くれる」の定着もバッチリ!です。

「誰がくれましたか」学習者の実体験を尋ねて発話を促そう

さらに、「くれる」を使いこなせるようにするためには、学習者の実体験を尋ねる練習をしましょう。

学習者が「くれる」を本当に理解できているか確認できるうえに、学習者にとっても「自分の話題を日本語で言えるようになった!」という達成感を味わえて、一石二鳥です。

<練習例(1)>

教師:○○さんの帽子(かばん、時計)、すてきですね。

学習者:母(父、友達、恋人)がくれました。

<練習例(2)>

教師:○○さんの誕生日はいつですか。

学習者:〇月〇日です。

教師:誕生日プレゼントは?

学習者:母(父、友達、恋人)が○○をくれました。

このように学習者の持ち物をほめたり、誕生日の話題を出したりして、学習者が「物の受け手」になった実体験を聞き出しましょう。ここまで「くれる」の教え方をご紹介してきましたが、いかがでしたか。

物の授受表現は学習者にとって難しいポイントですが、実生活では物をやり取りする機会が多く、物の授受表現は生活に結びついている表現だとも言えます。

上手に教えて、学習者が自分の言葉で話せるようにサポートしていきたいものですね。

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