模擬授業のための教案作成や練習、試験勉強などお疲れ様です。これから日本語教師として働くことに興味がある皆様は、日本語教師有資格者となった後、様々な道を考えていらっしゃると思います。
民間の日本語教師養成講座に入学して初めて日本語教育を学び、修了後そのまま日本語教師を目指す方々の間では、あまり選択肢の一つとして意識されることがないように思うことがあります。それは「大学で働く」ということです。
筆者はロシアの非営利機関で一年間日本語を教え、帰国後に大学で日本語を教え始めました。帰国後の進路を考えていた頃の筆者がそうだったのですが、日本語教師が働く場所=日本語学校というイメージが強すぎて、そもそも大学で日本語教師として働くという選択肢があることにすら気が付いていませんでした。
ただ、同じ日本語教師の仕事だとは言っても、日本語学校と比べると、応募の条件がかなり違うので、それなりの準備は必要になります。そう言ってしまうと、ちょっと面倒に感じてしまうかもしれませんね。
しかし、大学で働くということをぜひ選択肢の一つとして知ってほしいです。
筆者の記事「日本語教師は食べていけるのか~「お金のこと」を考えた働き方と就活の話」で、大学や日本語学校、派遣講師、色々な働き方を紹介し比較していますが、この記事は「大学」に焦点を当てて、もう少し詳しく書いていきます。
日本で約8年にわたり、合計4つの大学で勤務経験がある筆者が、大学で働くメリットと、大学の講師になるために必要な条件をお伝えします。
大学で働くメリット
大学で働くメリットは色々あると思いますが、ここでは「学ぶ機会」と「安定」について書きます。
学ぶ機会
ご存じの通り大学は研究機関なので、日本語教育やその周辺の分野を専門に研究している教授、準教授、専任講師などがいます。多くの場合は、それらの専任スタッフが中心となり、決められたスケジュールやシラバスに従って授業を行います。
中でも研究に力を入れている大学の場合は、上の先生方の研究がその大学の日本語教育に反映されています。そして実際に日本語の授業をした結果などからまた、次に研究するべきテーマを見つけ、研究と教育が結びついています。
そういったところでは、日本語学校などの典型的なやり方とは少し違う、大学独自の個性的な教育が経験できるでしょう。
また、専任講師に誘われて、共同研究をする機会が得られることもあります。共同で学会で口頭発表をしたり、論文を出したり、教科書を作ったりということをします。
ただ、やはり同じ大学機関でも違いはあり、大学自体があまり研究自体をしていなかったり、研究が行われていたとしても、それが大学の教育とそこまで結びついていなかったりすることもあります。
そもそも日本語教育やその周辺の分野の専任がおらず、非常勤同士で相談して日本語のクラスを運営していたり、専任がいても週に1コマ程度の授業であれば非常勤に一任されていたりすることもあり、その場合は非常勤が何から何まで全て行っています。
研究が活発に行われ、それが教育に反映されている大学と、そうではない大学、どちらがいいということはないと思います。前者の場合、その大学のやり方が自分に合う場合はとても有意義な時間を過ごすことになるでしょうし、合わない場合は苦痛以外の何者でもありません。
後者の場合、学ぶ機会は少なくても、比較的干渉されることなく自由に自分のやりたいように授業ができるでしょう。
違う話になるのですが、もう一つ、筆者がメリットに感じていることは、大学で働くとその大学の図書館が利用できるということです。これは結構嬉しいのではないでしょうか。
研究活動をしている方はもちろん、そうでない方も、ただ暇潰しに小説を読んだり、インターネットしたり、というだけのために利用できますからね(笑) 筆者は他校の日本語教師養成講座の仕事の準備をするときに、大学の図書館でその関連の本を探したりしていました。
安定
給与について、筆者の「日本語教師は食べていけるのか~「お金のこと」を考えた働き方と就活の話」から再度引用して見てみましょう。
1回(1日)出講した際に発生する金額の例
日本語学校
2000円/45分 ×4コマ= 8000円
講師派遣会社
3000円/1時間 ×4コマ= 12000円
大学
5000円/1時間 ×2※ ×2コマ= 20000円
日本語教師養成機関
3500円/1時間 ×1.5※ ×2コマ= 10500円
※90分授業が2コマと考えて計算。大学は90分授業は2時間に換算されることが多い。
大学は時給自体は高く、単純計算で1回出講すると日本語学校の倍の金額がいただけます。ただ、大学は学生が春休みや夏休みに入る期間は、非常勤講師の仕事も当然ありません。日本語学校にも長期休みで非常勤講師が出講しない期間というのもありますが、トータルでは大学の非常勤のほうが、休んでいる期間は長いです。
ですが、長い休みを凌ぐ方法は考えればいくらでもあります。
まず、大学によっては夏休みや春休みに集中講座が開講されており、そこに非常勤講師が駆り出されることもありますし、可能であれば掛け持ちの学校の仕事を増やすのもいいでしょう。
筆者はその他、短期で募集している学校を見つけて働いたり、日本語教師の知り合いに頼まれて単発や短期のレッスンを担当したりしたこともあります(この業界に数年いて知り合いが増えてくると、そのようにお声をかけていただけることがあります。)
また、大規模な日本語の試験の採点のお仕事も、ときどき求人サイトに出ています。筆者もしたことがありますが、普通のアルバイトよりも少し高い程度の金額で、一人で黙々と機械的に採点するだけなので、息抜きにもなりました。
また、収入とは別の話ですが、このまとまった休み期間を利用して、研究熱心な方であれば論文執筆などの研究活動をしたり、次の学期で担当するクラスの準備をある程度済ませておいたりすることもできます。
大学の日本語の授業について
筆者は日本語学校の勤務は1校しか経験していないのですが(__)、筆者なりに考えた大学の特徴です。
教える対象
大学の日本語のクラスに参加している学生は、20歳前後~20代後半ぐらいが中心ですが、30代以上の学生がいたりもし、日本語学校よりは少し年齢層が高めになっています。
交換留学で国の大学に在籍していながら、一時的に日本の大学に来て日本語を学んでいる学生、大学院で専門の勉強をしながら、日本語も勉強したい学生などがいます。
大学でも日本語学校のように、初級、中級などの総合日本語が中心ですが、会話、漢字、作文などスキル別のクラスが開講されているところもあります。これらのクラスに、学期開始前のプレースメントテストなどにより、学生を振り分けます。
非常勤講師の仕事
日本語の授業の組み立てや教え方などは、日本語学校や養成講座などで学んだことを活かしてやればいいかと思います(ただ、冒頭にも書いたように、独自のやり方を貫いている大学もあります。例えば筆者が最初に働いた大学だと、いわゆる『みんなの日本語』のような練習は嫌っていたので、戸惑いました。)
大学では日本語学校のように進路指導をしたりということがないので、比較的授業外で学生と関わることは少ないのかもしれません。
また、日本語のクラスを取ることで単位になる場合が多いので、試験、宿題などの提出物、出欠、授業態度などから、優・良・可・不可(A・B・C・D・F)で学生を評価します。
ただ、同じ初級クラスでも、「がっつり」やるのか、「楽しく」やるのか、大学によって違います。「がっつり」なところでは、週5日授業があり、欠席遅刻が厳しくカウントされ、宿題や小テストは毎日、それなりの分量とレベルの中間・期末試験があり…といった感じです。
一方、出欠や提出物は甘く、授業はゆっくり、試験や宿題もとても簡単、というかなり緩いところもあります。
その辺の違いによっても、非常勤の仕事量や、のしかかるプレッシャーの度合いも変わるでしょう。
大学で日本語教師として働くには
「日本語教師は食べていけるのか~「お金のこと」を考えた働き方と就活の話」と重なる部分があるのですが、大学の非常勤講師の求人によく見られる条件を改めてお話しします。
大学で働くには、いわゆる日本語教師有資格者である必要はないのですが、それでもやはり、大学の非常勤講師は有資格者であることがほとんどです。
学歴
大学の非常勤講師であれば、必要な学歴は「修士以上」(大学院修士課程修了以上)となっていることがほとんどです。まれに学士(4大卒)でOKなところもありますが、大学で働くのであればまず、大学院進学を考えたほうがいいでしょう。専攻は日本語教育か、言語学や日本語学、日本文学などの周辺分野です。
大学院進学は早いに越したことはないので、環境が許すのであれば「大学卒業後すぐに」、「日本語教師デビューする前に」修士課程に進んでしまうといいかもしれません。ですが、日本語教師デビュー後数年経ってから、大学院修士課程に進学するのもまたいい選択だと思います。
「大学で働きたいから」という理由で進学するのもアリですが、日本語教師という仕事にハマり、純粋に「考えてみたいテーマが見つかったから」進学するという方が沢山いらっしゃるように思います。一度現場で経験を積んでいると、より大学院での研究が面白く感じ、充実した日々を送れることは間違いないでしょう。
修士修了後も「大学で働く」以外に、更に上を目指して博士課程に進学する方、大学よりもやはり日本語学校の教育自体に興味を持って日本語学校に勤務する方、自ら学校を建てる方、皆さんそれぞれにやりたいことを見つけていらっしゃいます。
教師経験
これも大学により経験を問わないところもありますが、多くの場合教師経験について何らかの条件があります。どの程度の経験を求めてくるかも様々ですが、例えば「大学(大学相当の機関)で日本語教育経験がある」といった感じです。
これに、「3年以上」などという条件が加わったり、むしろ「大学」ではなくても、単にどこででも「日本語教育経験があればいい」ということもあります。
研究業績
これもほとんどの大学の求人で見られます。求人の「条件」よりもむしろ「提出書類」のところで、履歴書、職務経歴書(日本語教育歴)に並んで「研究業績一覧」という記載があることが多いです。また、「研究業績一覧」に加え、「主要な研究業績のコピー3点」と書かれていることもあります。
「研究業績一覧」は大学院時代の発表や修士論文に加え、どんなに小さいと思われるものでも全て記載して、紙を埋めておきましょう。口頭発表もいいのですが、それよりも著書や論文などの「書いたもの」が多いほど、また、「査読付き」の論文や口頭発表が多いほど印象がいいようです。
「コピー3点」などの記載があった場合は、論文など「書いたもの」があればそれを優先的に、なければ口頭発表などで使ったレジュメやPPTなどと合わせて、とりあえず「3点」のコピーを送付しておきましょう。
英語力
日本語学校では直接法(英語などの媒介語を使用しない教え方)が主流ですが、大学では教師、学生ともに英語使用が許されている場合が多いです。
日本語の授業でバリバリ英語を使わなくてもいい(というか使わないほうがいい?)のですが、授業で必要に応じて英語を取り入れたり、英語で学生対応したりする能力が求められることがあります。
「望ましい」は気にしないで応募してみよう
求人の条件のところで「~が望ましい」という表現をよく見かけます。
- 博士号を取得していることが望ましい
- 大学などの機関で3年以上、日本語指導経験があることが望ましい
などというようにです。「望ましい」は文面通り「望ましい」だけなのです。博士号を取得していなくても、3年以上経験がなくても、気にしないで応募してください。他の条件を満たしていれば、採用される可能性は十分にあります。
まとめ
以上、大学で日本語非常勤講師として働くことについてお話ししました。
最後に、大学の仕事を探そうとしている方々へ
筆者もこれまで色々な大学や日本語教育機関に応募しましたが、採用側が何を基準に採用/不採用にしているのかは、正直こちらにはわかりません。同じ応募者であっても、大学側の個別の事情で採用されたり、されなかったりしているということだと思います。
これは大学に限らず、どの機関に応募するにしても言えることだと思います。
求人を見て、条件をクリアしていると思った「すべての機関」に、あまり考えずに応募書類を送っておいてください。書類は使い回しできるものはどんどん使い回しましょう(笑)
とりあえず沢山出しておけば、どこかに採用されるぐらいの気持ちで気楽に挑戦してみてください。
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