みなさん、こんにちは。
日本語教師養成講座で教えた経験のある筆者による『外国語教授法を知って深みのある授業をしよう』シリーズ、参考にしていただけているでしょうか。
3回目の今回は『直接法を徹底解剖』第2弾として、フォネティック・メソッドについてご紹介します。
筆者が考える「外国語教授法」とは、以下のようなものです。それは…
そして、「直接法」とは次のようなものです。
詳しくはぜひ、筆者の記事『外国語教授法を知って深みのある授業をしよう②―直接法を徹底解剖①』をご覧ください。
今回ご紹介するフォネティック・メソッドも、「外国語で実際に話せるようになるために」編み出された教授法です。
先日ご紹介したナチュラル・メソッドとは、また違う魅力のある教授法ですよ。
それでは早速、筆者といっしょに見ていきましょう。
フォネティック・メソッドの特徴―ポイントは音声教育
ここからは、フォネティック・メソッド(Phonetic Method、音声学的教授法)についてご紹介します。
19世紀、それまでの文法翻訳法に代わって提唱された教授法が2つあります。それは…
- ナチュラル・メソッド
- フォネティック・メソッド
フォネティック・メソッドとは、「ナチュラル・メソッドとほぼ同時期に、外国語を実際に話せるようにと考え出された教授法」というわけです。
フォネティック・メソッドを提唱した代表的な言語学者は、以下の2人です。
- スウィート(H. Sweet 1845-1912)
- イエスペルセン(O. Jespersen 1860-1943)
そして、フォネティック・メソッドの特徴とは次のようなものです。
それでは、フォネティック・メソッドについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
フォネティック・メソッドの考え方―音声重視の教授法
みなさんは、外国語を学習するとき、目で文字を見ながら学習しますか。それとも、耳で音声を聞きながら学習しますか。
フォネティック・メソッドとは、「音声教育を重視した教授法」です。
フォネティック・メソッドが音声教育を重視したのには、歴史的背景があります。それは…
ここでの代表的な音声学者は、ヴィエトー(W. Viёtor 1850-1918)です。
ヴィエトーは、従来の文法翻訳法を批判し、音声教育と口頭練習が重要であると言いました。
そして、言語学者のスウィートやイエスペルセンが「音声教育と口頭練習が重要」だというヴィエトーの考えを発展させたのです。
フォネティック・メソッドの考え方は以下の2点です。
- 音声教育・口頭練習が重要である
- 文字言語は音声言語に付随的なものである
外国語を学習するとき、目で文字を見ながら学習するか、耳で音声を聞きながら学習するか…フォネティック・メソッドは「耳で音声を聞く」方法を重視したということです。
フォネティック・メソッドの練習方法―系統的な音声指導
それでは、フォネティック・メソッドでは、具体的にどのような音声教育・口頭練習をするのでしょうか?
みなさんは、「外国語の単語の発音練習をする」というと、どういった光景を思い浮かべますか。
- 先生の後について発音?それともCDの後について発音?
- 発音するときは文字を見ながら?それとも何も見ない?
フォネティック・メソッドでの練習方法は次のようなものです。
- 教師の真似をしない
- 文字を使わない
えっ?これって一体どういうこと?
フォネティック・メソッドは系統的な音声指導を目標としました。そこで編み出された練習方法とは…
例えば、「りんご」という単語を英語で発音練習したいとき、”apple”という「文字」を見ながら発音するのではなく、[ǽpl] という発音記号を使って発音練習をします。
フォネティック・メソッドVSナチュラル・メソッド―違いは音声教育にあり
フォネティック・メソッドはナチュラル・メソッドとほぼ同時期に考案された教授法です。
それでは、フォネティック・メソッドとナチュラル・メソッドの違いとは?
答えは音声教育の方法にあります。
ナチュラル・メソッドについて、詳しくは筆者の記事『外国語教授法を知って深みのある授業をしよう②―直接法を徹底解剖①』をご覧ください。
ナチュラル・メソッドには、代表的な教授法に、グアン式教授法とベルリッツ・メソッドがありました。
グアン式教授法とベルリッツ・メソッドの練習方法をかいつまんでご紹介すると…
- グアン式教授法の練習方法:教師が発音しながら動作をし、学習者が真似をする
- ベルリッツ・メソッドの練習方法:ネイティブ教師が発音、学習者が真似をする
どちらも「教師の発音を学習者が模倣する」という点で一致しています。
対して、フォネティック・メソッドは?
みなさん、もうお分かりですね。
フォネティック・メソッドの場合は…
「文法翻訳法に対して、実践的な学習方法」を提案したという点においては、ナチュラル・メソッドとフォネティック・メソッドは一致しています。
でも、練習方法には大きな違いがありますね。
フォネティック・メソッドの活用方法―音声教育を上手に取り入れよう
ここまで、フォネティック・メソッドの考え方や練習方法、ナチュラル・メソッドとの違いについて見てきました。
みなさん、いかがでしたでしょうか。
音声記号を使った発音練習というのは、ちょっと敷居が高く感じられるかもしれません。
でも、フォネティック・メソッドも、考え方によっては、実際の授業運営に活かせそう…
みなさんは学生の発音を直したいけど、なかなかうまくいかないという経験はありませんか。
筆者は山ほどあります(笑)
- 「ン」の発音がどうしても次の「チュ」になる学習者がいるけど、どうやって直そう?
- 「ドイツ」がうまく言えなくて「ロイツ」になる学習者がいるけど、どうしたら「ドイツ」になるんだろう?
- 「イ」と「エ」が混ざってしまう学習者は??
ひらがなやカタカナのような文字を見て発音練習したところで、矯正できるものではありませんよね。
英語の勉強をするとき、”apple”というスペルを見ても、”a”の部分の発音は分からない!
でも[ǽpl]という発音記号を見ると、”a”の発音は[ɑ]や[ə]ではなく、[ǽ]だから、口を横に引いて発音するんだなということが分かります。
発音記号についての知識は必要ですが、スペルだけを見るよりも、正確な発音が分かりますよね。
そこで、時には「今日は発音練習の日」または「1時間目は発音練習の時間」のように、発音練習を徹底する時間を作ってみてはいかがでしょう?
スペルの横に、発音記号を書いたり、発音するときの口の様子を見せたりしながら、発音練習をするんです。
学習者も、自分の発音の何が違うのか、具体的に理解できるのではないでしょうか。
今回は、直接法の中から、フォネティック・メソッドについてご紹介しました。
次回は、オーラル・メソッドについてご紹介します。現在の日本語教育でもおなじみの練習方法が登場しますよ。
それでは、またお会いしましょう!
<参考文献>
- 小林ミナ(2019)『日本語教育 よくわかる教授法―「コース・デザイン」から「外国語教 授法の史的変遷まで』アルク
- 佐々木泰子編(2019)『ベーシック日本語教育』初版9刷、ひつじ書房
- 高見澤孟・大島弥生(2008)『日本語教授法Ⅰ』(NAFL日本語教師養成プログラム2)改訂 2版第2刷、アルク
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