外国語教授法を知って深みのある授業をしよう②―直接法を徹底解剖①

現役日本語教師のみなさん、それから、日本語教師を目指しているみなさん、こんにちは。

みなさんは外国語教授法というと、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

先日の記事『外国語教授法を知って深みのある授業をしよう①―外国語教授法の流れと文法翻訳法』で、筆者は「外国語教授法とは○○である」と言いました。それは…

どうやったら効果的に外国語習得が可能なのか、その時代の専門家たちが知恵を絞って編み出した方法

実際の授業運営を考えたとき、自分の体験だけに頼って、自己流で授業をするよりも、先人たちが考え出した方法を取り入れたほうが、より効果的で深みのある授業になるはず。

今回も、日本語教師養成講座で教授法の授業を担当した筆者が、実際の講座内容をもとに、外国語教授法について、どこよりも分かりやすくご紹介していきます。

みなさんも、外国語教授法の理論を知って、質の良い授業運営を目指してみませんか。

目次

直接法って何?知っているとどんな役に立つの?

今回は外国語教授法の中から、直接法について取り上げます。

直接法って一体何?簡単に言うと、こういうものです。

実際に外国語が話せるようになるために編み出された、最も古い外国語教授法

先日の記事では、外国語教授法の第1回として、おおまかな外国語教授法の流れと、文法翻訳法についてご紹介しました。

外国語教授法の流れとは「教養から実用へ」です。外国語教授法の中でも、いちばん歴史の長いのが文法翻訳法。その文法翻訳法とは、簡単に言うと「教養としての外国語の習得を目指すために編み出された教授法」ということになります。

文法翻訳法が誕生したのは、中世ヨーロッパ。当時の「教養」とは、ズバリ「ラテン語で文学作品が読めること」。ですから、文法翻訳法では、単語を暗記し、ひたすら翻訳するという学習方法を取ります。

そういった練習方法では、確かに文学作品を読むスキルはアップします。しかし、その外国語を話せるようにはなりません。

そこで、外国語を話せるようにと、考え出されたのが「直接法」というわけです。

直接法誕生の背景―外国語を話せるようになりたい!

「教養」のためだった外国語学習が、「話せるように」という「実用」へと舵を切ったのには、歴史的な背景があります。

それは、産業革命。

18世紀のイギリスで産業革命が起こり、ヨーロッパでは交通機関が発達しました。それにともなって、人々の往来も盛んになっていきます。

人々が外国に移動するようになると、どうなるでしょうか。

異なる言語を話す人との交流が始まります。そうなると、「その国の言葉で話したい!」と思うのは、当たり前の流れですよね。

でも、従来の文法翻訳法では、会話はできるようにはなりません。

そこで、外国語での実践的な会話能力を身につけるための教授法が次々と考案されていきます。

それらの外国語教授法をまとめて言うときの言い方が「直接法」です。

今回は「直接法」の中から、ナチュラル・メソッドフォネティック・メソッドについて、見ていくこととします。

ナチュラル・メソッド、キーパーソンは2人

ナチュラル・メソッド(Natural Method)は、「自然的学習法」とも呼ばれます。

ナチュラル・メソッドの特徴とは、次のようなものです。

幼児の母語習得を外国語習得の最良のモデルだと考える

このナチュラル・メソッドの中にも、いろいろな教授法が存在しています。ナチュラル・メソッドとは、赤ちゃんが言葉を話せるようになるプロセスをモデルにした教授法をまとめていうときの言い方です。

そして、このナチュラル・メソッドに属する教授法のなかでも、代表的なものが二つあります。

  1. グアン式教授法
  2. ベルリッツ・メソッド

ここからは、ナチュラル・メソッド誕生の背景と特徴、そして代表的な二つの教授法についてご紹介します。

ナチュラル・メソッド背景にある考え方

ナチュラル・メソッドが目指しているもの、それは「外国語が話せるようになること」です。

外国語ってどうやったら話せるようになるのでしょうか。

ナチュラル・メソッドでは、「幼児の母語習得」にそのヒントがあると考えました。

この記事を読んでいるみなさんの大部分は日本語ネイティブだと思います。

日本語を母語としているみなさんのなかで、日本語では日常会話もままならない、不自由しているという人はいるでしょうか?

いませんよね。母語習得を失敗する人はいないんです。

だから、幼児が母語を習得するプロセスを観察して、外国語学習に生かせば、外国語も同じように話せるようになるのではないか。それが、ナチュラル・メソッドの考え方です。

グアン式教授法もベルリッツ・メソッドも、この「幼児の母語習得を外国語学習に応用しよう」という考え方は同じです。でも、この二つの教授法には違うところもあります。

それでは、それぞれの教授法について、見ていきましょう。

グアン式教授法その特徴とは?

ナチュラル・メソッドの代表的な教授法その1は、グアン式教授法(Gouin Method)です。

フランスのグアン(Gouin, F. 1831-1895)が考案した教授法です。

グアン式教授法の特徴は、以下の2点です。

  1. ナチュラル・メソッドの中でも、特に幼児の心理的発達に注目した。
  2. すべての出来事は、小さい出来事の連続だと考えた。

①の特徴から、グアン式教授法は、サイコロジカル・メソッド(Psychological Method)とも呼ばれます。

また、②の特徴から、連鎖法とかシリーズ・メソッド(Series Method)とも呼ばれます。

②の考え方から生まれた練習方法は、例えば次のような感じです。グアンが作成したテキストはもちろん日本語ではないのですが、ここでは、分かりやすく日本語に直してみます。

例)「ドアを開ける」

STEP
ドアに向かって歩いて行く
STEP
ドアに近づく
STEP
ドアのところに到着する
STEP
ドアのところで立ち止まる
STEP
腕を伸ばす
STEP
ドアノブをつかむ
STEP
ドアノブを回す
STEP
ドアノブが音を立てる
STEP
ドアを引く
STEP
ドアを開ける

このように、「ドアを開ける」という「出来事」は、(1)~(10)という「小さい出来事」の連続として表すことができます。

教室では、まず教師が(1)~(10)の動作を、目標言語を使って、声に出しながら実演してみせ、その後で学習者にも同じことをやらせます。

グアンは、動詞を重視し、このように一続きの動作を順を追って言ってみることで、言葉が覚えやすくなると考えました。

みなさんは、どうやって母語を習得したでしょうか。母語を他の言語に翻訳して習得したという人はいますか?

もちろん、いませんよね。

グアンは、「翻訳によって母語を習得した幼児はいない」という考え方のもと、次のような順番で、学習者を目標言語に触れさせました。

聞いて理解する→話す→読む→書く

これは、幼児が母語を習得するときの順番と同じです。このようにして、自然な状況で学習者が目標言語に触れられるようにしたのです。

ベルリッツ・メソッド、グアン式教授法との違いは?

ナチュラル・メソッドの代表的な教授法その2は、ベルリッツ・メソッド(Berlits Method)です。

ドイツ人のベルリッツ(Berlits, M. 1852-1921)が提唱した教授法です。

ベルリッツも、グアンと同じように幼児が母語を習得する過程を再現しようとしました。

でも、グアン式教授法とは違うところがあります。それは以下の点です。

教室活動から学習者の母語を徹底的に排除した。

ベルリッツ・メソッドの教室活動の特徴は以下のようです。

  1. 教師は指導訓練を受けたネイティブ・スピーカー
  2. クラスは少人数編成
  3. 文や語の理解に学習者の母語は使わない

③のように学習者の母語を使わずに、どうやって文や語を理解するのでしょうか。

国内で教えている日本語教師のみなさんは、ピンときますよね。

そうです。絵を使ったり、動作をしてみせたりして、理解を促すのです。他にも実物を使ったり、身振り手振りを駆使して…。

発音練習も、ネイティブの教師のモデルの真似をさせます。発音の仕方を説明したり、学習者の発音を矯正することはありません。

ナチュラル・メソッドのメリット、デメリット―教室活動への応用方法

グアン式教授法とベルリッツ・メソッド、いかがでしたか。

それぞれの教授法にはメリットもあれば、デメリットもあります。

ナチュラル・メソッドのメリット

グアン式教授法とベルリッツ・メソッド、両方に共通するメリットといえば、次のようなことが考えられます。

目標言語の音声にたくさん触れられる

グアンの教室活動でも、動作の練習をしながら、目標言語の音声に触れる機会はたくさんありそう。ベルリッツの教室活動の場合は、そもそも教室の中の発話はすべて目標言語であり、学習者の母語が使われることはありません。

これだけ目標言語の音声に触れる機会があるということ、特にネイティブの発音に触れる機会があるということは、確かに外国語学習において、大きなメリットです。

ナチュラル・メソッドのデメリット

では、デメリットは?

グアン式教授法の場合のデメリットとは、「教えられる範囲に限りがある」ことが考えられます。具体的な動作動詞の練習はできますが、そのほかの語彙の練習はどうやったらいいの?

ベルリッツの教室活動は、現在の国内日本語学校の教室活動と少し似ているところもあるような気がします。

そこでのデメリットというか、難しさは、やはり「教師に求められるレベルが高い」ことではないでしょうか。

国内の日本語学校の場合、教材に翻訳がついていることもあり、完全に学習者の母語が排除されているわけではありません。

完全に学習者の母語を排除して、文や語の意味の理解を促すには、相当のスキルを教師側が持っていることが前提となっていると思います。

ナチュラル・メソッドを活用した教室活動アイデア

これらのメリット、デメリットを考えたうえで、グアン式教授法、ベルリッツ・メソッドを私たちの教室活動に活かしていくには?

毎日の授業全部をどちらかの教授法で運営することは難しいけれど、取り入れられる点はあると、筆者は考えます。

例えば、次のような教室活動はいかがでしょうか。

①グアンの教室活動「ドアを開ける」を、動詞の復習として活用する

動詞の意味理解としては、グアンの教室活動は活用しにくいかなと思います。

でも、ある程度動詞が積みあがっているクラスで、復習として活用してみては?

「ドアを開ける」動作を細分化して、学習者に日本語で説明しながらやってもらうだけです!

グアンの教室活動には、「ドアを開ける」の他、「とうもろこしの実をひいて粉にする」というものもあります。こちらの動作は、日本ではちょっとなじみがなさそうですが…。

代わりに、例えば「カレーを作る」のように、料理の手順を細分化すると、初級レベルの学習者でも知っている語彙を使った練習になりそう!

既習の動詞の意味確認にもなるし、動作が加わっていることで、息抜きのゲームみたいに楽しむことができそうです。

②ベルリッツの「教室から母語を完全排除」を、クラスのルールとして活用する

いつもは、辞書を引いたり、教科書の翻訳に頼ったりすることがあるかもしれません。

でも、

今からは100%日本語タイムです。

と時間を区切って、教師の発話を身振り手振り、絵、実物などだけで理解する時間を設けてみたり、または、学習者同士で日本語だけで伝える練習をしてみたりするのはどうでしょうか。

その時間はたくさんの日本語に触れられるし、実際の生活で「日本語を理解する、伝える」スキルを育てる練習にもなるのではないでしょうか。

今回は直接法誕生の背景と、ナチュラル・メソッドについてご紹介しました。

次回も「直接法徹底解剖」シリーズとして、引き続き教授法をご紹介していく予定です。

外国語教授法を知って、教室運営への活用を目指していきましょう。

<参考文献>

  • 小林ミナ(2019)『日本語教育 よくわかる教授法―「コース・デザイン」から「外国語教 授法の史的変遷まで』アルク
  • 佐々木泰子編(2019)『ベーシック日本語教育』初版9刷、ひつじ書房
  • 高見澤孟・大島弥生(2008)『日本語教授法Ⅰ』(NAFL日本語教師養成プログラム2)改訂 2版第2刷、アルク
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