こんにちは、SenSee編集部のいのっちです!
突然ですが、日本語学校で働いているみなさん!働いていて苦労していることや指導でうまくいかないことはありますか。
これから働こうと考えている方、興味がある方は日本語学校で働いたらどんなことで悩むと思いますか。
意外だと思いませんか。私は意外でした。だって大学でも養成講座でも生活指導のことなんてほとんど学びません。授業と授業準備が全てだ!ぐらいに思っていました(笑)
もちろん授業がメインで準備の比重は重い。授業準備でも悩みは尽きません。でも実はクラス運営や生活指導も地味に重い。
地味だけど、疎かにはできません。生活指導を疎かにすると、日本語力低下、学習意欲低下、クラス不和にまでつながってしまうからです。
生活指導の中でも欠かせないのが留学生のアルバイト。アルバイトを始めると、学習態度が悪くなったり、授業についてこれなかったりということが起こります。授業中に寝てしまうことも。
留学生のアルバイト許可、可能労働時間について知らない方はぜひ知識をゲットしてください。
留学生のアルバイト事情もお伝えするので日本語学校で働きたい方や興味のある方はイメージがしやすくなりますよ。
アルバイトを始めた学習者の日本語力が落ちて悩んでいる、アルバイトを始めてから学習態度が悪くなったという方は、学習者に対応するヒントが見つかるはず!
留学生のアルバイト事情

日常生活の中でも外国人の方を見かけるようになりました。例えば、コンビニやファミリーレストランなど。
留学生がアルバイトをしているって、日本語教師ならなんとなくみんな知っていること。じゃあ、実際は?
この2つの疑問を見ていましょう。
- 日本語学校ではほとんどの留学生がアルバイトをしているってホント?
- 留学生はどこでどんなアルバイトをしているの?
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が行った調査結果「令和元年度私費外国人留学生生活実態調査概要」(令和3年6月公表)を元にお伝えしたいと思います。プラス、いのっちが日本語学校で働いて見聞きしたこと、実際の学習者がしていたアルバイトのお話も。
なお、調査は令和元年に実施されたものなのでコロナウィルスの影響により、ここ1,2年は多少変わっているかもしれません。コロナ禍では、日本人がアルバイトを減らされているのと同様、留学生も苦しい状況に置かれています。
出典:https://www.studyinjapan.go.jp/ja/statistics/seikatsu/data/2019.html
日本語学校ではほとんどの留学生がアルバイトをしているってホント?
日本語学校ではほとんどの留学生がアルバイトをしているってホント?
「多く」ってどのくらいでしょうか?
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が行った調査によると、1,317の日本語教育機関に聞いたところ67.5%の留学生がアルバイトに従事しているそうです。(令和元年結果)
大学や短大、専門課程に留学している人などを含めると70.4%が何らかのアルバイトをしているという結果。
出典:「令和元年度私費外国人留学生生活実態調査概要」https://www.studyinjapan.go.jp/ja/statistics/seikatsu/data/2019.html
この結果、どうでしょうか?この数は予想通りですか。
みなさんが働いている日本語学校ではどのくらいの学習者がアルバイトをしていますか。
この感覚の違いは、日本語学校によって違うのでは?と思います。
例えば、日本語学校があるのは都市部か地方か(アルバイトの数や物価)、留学生の生活状況(アパートか寮)、留学生の出身国、年齢層、留学の目的なども関係していると思います。
【働いていた埼玉県の日本語学校は…】
- 都市部に近くて、交通が便利。(=自力でアルバイトに行ける)
- 工場なども多く集まる地域でアルバイト数も多数。
- 多くがアパート暮らし、学費、生活費、進学費用などを自分で工面(国に送金している場合も。自分で学費や生活費を工面することを前提に来日している学習者も多い。)
- 多くの留学生が高校卒業後の10代~20代で進学希望。
国別では、ベトナム、ネパール、スリランカ、バングラディシュ、フィリピンなどの学習者のほとんどがアルバイトをしていました。
一方、中国の学習者は、親から送金がある場合が多く、アルバイトをしているほうが少なかったです。
【北海道の日本語学校は…】
- 地方にあり、交通がとても不便。
- お店が少なく、アルバイトも少ない。
- ⇒①、②の状況を来日前から理解している人が多い。
- 学習者のほぼ100%が日本語学校近くの寮生活。寮費、学費も都市部に比べて安く、奨学金もある。
- 学習者の年齢は10代~30代と幅広く、自国で働いていて貯えがある学習者も多い。留学後は帰国する学習者が多く、その次に就職希望、進学希望と続く。
国別では、ベトナム、インドネシア、フィリピン、タイなどの学習者のほとんどはアルバイトをしていました。
一方、中国、韓国、台湾の学習者は親からの送金や自国での貯えがある元社会人などのためアルバイトをしている学習者はほぼいませんでした。
ちなみにある東京都の日本語学校では、上級クラス以上の学生以外はアルバイトを認めないそう。
上級クラス以上の学生のみアルバイトを許可するというのは、アルバイトはお金稼ぎではなく、日本語学習や社会勉強の一環として考えることが学校側の狙いのようです。
日本語学校によって留学生のアルバイト事情は、様々なんですね~
留学生はどこでどんなアルバイトをしているの?

じゃあ、実際に留学生はどこでどんなアルバイトをしているのでしょうか。私たちが目にするのはコンビニやレストランに食事に行ったときなど。
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の調査によると留学生のアルバイトの職種は…
- 1位:飲食業 40.2%(1,989人)
- 2位:営業・販売(コンビニ等) 33%(1,631人)
- 3位:翻訳・通訳 6.3%(310人)
出典:「令和元年度私費外国人留学生生活実態調査概要」https://www.studyinjapan.go.jp/ja/statistics/seikatsu/data/2019.html
この調査は日本語教育機関だけではなく、大学や短大、専門課程に留学している人なども含まれているので日本語学校の学習者と接していると少し違うところもあるなと思います。
来日当初の学習者からは「アルバイトをして、もっと日本語が上手になりたいです。」という話を聞きます。コンビニやレストランで働いてアルバイト先でも日本語を使うことを望んでいる学習者は多くいる。でも現実は難しい。
ある程度の日本語力がないとファミリーレストランやコンビニでは面接すらしてもらえません。
私が教えていた初級の学習者のほとんどが工場でのアルバイトをしていました。
圧倒的に多かったのが、「飲食料品製造業」と「運送業」でした。飲食料品製造業は、野菜の洗い、カット工場、お弁当の製造ラインなどが多くありました。
運送業は男性学習者に多く、宅配便の仕分けや積み込みなどをしていると聞きました。どちらもとても体力を使うとのことでアルバイトを始めたばかりの学習者からは身体が辛いという声が。
留学生がどこでどんなアルバイトをしているのか?これも日本語学校があるのは都市部か地方か、(アルバイトの種類や数、アルバイト希望者の数)が大きく関係していると思います。
さらに、その留学生の日本語力(初級・中級・上級)によって、本人の希望に関わらずどんなアルバイトができるか?が決まってしまいます。
アルバイトをしている学習者に気をつけて指導するポイント3つ

日本語学校の留学生の多くがアルバイトをしていること、アルバイトの職種もわかった。そしたら実際に指導するときに気をつけることは何でしょうか。
- アルバイト許可
- 労働可能時間
- アルバイトと学習態度の関係
この3つに絞って、指導するポイントをお話します。①と②は絶対に必要な知識なのでぜひ覚えてください。
③はアルバイトの影響で寝てしまっている学習者、学習態度が悪い学習者に対して悩んでいる先生必見です。
寝ている学習者に悩んでいる方は、「こんなときどうする?① 居眠りしてしまう学生への対処法」の記事もおすすめです!
アルバイトを始めるときには、アルバイト許可印の確認と約束事の指導を!
留学生だからといって誰でもアルバイトをできるわけではありません。
「資格外活動の許可」
留学生は働きに来ているわけではないので、本業は勉強。この許可は、勉強以外の時間で、ある一定の時間内ならアルバイトを認めますというもの。
これは自動的には付与されるものではないので、取得する必要があります。取得すると在留カード裏面の「資格外活動許可欄」に許可の押印がされます。
アルバイトを始めたいと学習者から相談を受けた時は、必ず許可の押印をチェックしましょう。これは常勤講師でも非常勤講師でも知っておきたい知識です。
詳しくは「知っていると役に立つ?日本語教師が知っておきたい「入管法」知識3選」の記事を読んでみてください。
学習者がアルバイトを始めるときにもう一つ大事な指導ポイントは、「日本語の勉強を一番に考える」という約束をすることです。
初級、中級、上級どのレベルの学習者でも初めの約束が大事。学習者のレベルに合わせた日本語で学習者自身の言葉で言ってもらうことが重要。
学習者が疲れて話を聞いていない、授業に集中していないというのは、本人が「やっている」と言えばそれまで。
「アルバイトも始めるけど、日本語の習得が目的で留学したんだ、進学したい、JLPTの〇級取りたい」ということを学習者に再認識してもらう。
アルバイトを始める前にこんな話をしておくと、後々の指導もスムーズにいきますよ。
雑談をしながら、労働可能時間オーバーを防ごう
アルバイトの許可が下りたからといって、何時間でもアルバイトできるわけではありません。
- 週28時間以内にかぎり、アルバイト可能
- 長期休み(学校が定める春、夏、秋、冬休み)は、1日当たり8時間以内で週40時間以内が上限
この時間をオーバーすると法令違反になります。
在留期間更新や在留資格変更の時にも影響が出ます。場合によっては強制送還もあり得るので注意しましょう。
特に2年目の学習者が要注意。1年目は、日本の生活に慣れることや授業についていくために無理はしません。でも1年目から時間を守っているかを確認することは必要。
指導のポイントは、
- 労働可能時間をきちんと把握しておくこと
- 労働時間オーバーになる前に、普段の学習者とのやり取りや様子から気づいて早めに声をかけること
学習者が労働時間をオーバーしていないか、雑談をしながら「〇〇さん、今日は眠そうですね~昨日は何時から何時までアルバイトをしましたか」などと聞くのがおすすめ。
私はこれで何度か労働時間オーバーになりそうな学習者に気づくことができました。
ちょっとした雑談は短い休憩時間が使えます。休憩時間の活用については、「新しいクラスですぐに実践できる!学習者を伸ばすコミュニケーション術②【休憩時間の有効な活用方法】」の記事もおすすめです。
雑談で気づいたら、きちんと話をする、聞く時間を設けましょう。
自分が担任や常勤講師の場合は早めに面談を。自分が非常勤講師の立場で気になる学習者がいたら常勤講師への相談を。
進学費用のためなのか、授業についていけていないのか、卒業後の進路は?などこれからのことを一緒に考えながら話を進めるのがポイントです。
2年目の学習者の中には
- あと少しで進学、少しでも多く進学費用を稼がなければいけない
- お金さえ払えば、少しぐらい日本語力が低くても進学できる、だから稼ごう
と考えてアルバイト時間を少しでも多くしようとする傾向があります。
でも今の学力では進学は難しい、アルバイトに専念する留学生を進学先は求めていない、などのこれからに関して事実を伝えてあげることも大事。
実際に通帳のコピーを提出して、アルバイト時間のオーバーがないかの確認があった進学先もあります。これを知らない留学生も多いので、通帳の提出などの事例を教えると指導に役立ちますよ!
アルバイトと学習態度の関係は?本来の目標を重視する面談をしよう

アルバイトを始めると学習態度が変わる。来日当初は日本語学習に対してすごくやる気があって授業中も積極的だったのに…遅刻ばかり…ということを何度も目にしてきました。
そこにはこんな悪循環が・・・
- アルバイトをする
- →疲れて授業中に寝てしまう
- →寝ると先生に注意される
- →なんとか起きるが、授業内容は耳に入らない
- →授業内容がわからなくなる
- →授業についていけなくなる
- →わからないし疲れているから寝る
- →先生や他の学習者との溝ができて質問しにくくなる
- →さらに授業がわからなくなる
- ⇒学習意欲がなくなる
この悪循環でどんどん学習意欲も成績も落ちて、最後には下のレベルのクラスへ移動となってしまいます。
この悪循環を断ち切るためには、クラスの時間外で時間を作って学習者の話を聞くことが指導のポイントです。
非常勤講師として働き始めたころ、私はアルバイトで疲れて寝ている学習者を「授業中に」どうにかしようとしていました。「〇〇さん、寝てはいけません」、「ダメです。起きてください」、「聞いてください」と、注意の連続攻撃。
でも学習者は疲れていて睡魔に勝てない。最初は笑ってた周りの学習者もだんだん冷ややかな視線に。
寝ている学習者を注意しないのは、暗に疲れていたら寝てもいいんだよ~と言っているようなもの。注意することは必要。でもそれが何度も、繰り返しになると✖。
他の学習者の時間を奪ってしまい、クラス不和や学習意欲低下の原因にもなります。
そこで寝ている学習者がいたら、最初は休み時間などで状況を把握します。アルバイトの時間や内容を聞いたり。
その後に少し長めの時間を確保して、ゆっくり話を聞きましょう。その時に「これから」のことを話すことが大事。進学したいなら、それに向けてアルバイト時間数を減らしたり、勉強法のアドバイスを。
アルバイトをしていると国では稼げないようなお金が入ってきて、学習者は自分自身を見失いがちになります。意識を本来の目標に向かわせてください。
進学はどこでもいい。お金を稼ぎたい、は要注意。クラスや点数が下がることに危機感を持っていないからです。
そんな時は、出席率や遅刻率、成績などで進学できない、在留期間が更新できないこともあるという現実を伝えながら、軌道修正を測りましょう。
留学生のアルバイトを理解して、日本語力低下につながらないように指導しよう

新任の頃、「授業が楽しければ学習者は寝ないもの」と先輩先生に言われました。
ところが、学期途中に入ったクラスでは、授業中どころか授業開始前から寝ている学習者たち…いくら注意しても起きる気配すらない。
授業が楽しければ寝ないというのは、少し眠いなぁ~という学習者には効きます。もちろん授業を魅力的にする工夫は大事です。
しかしアルバイトに疲れ果てて学習意欲もなくなってしまったという学習者には、向き合い方を変えるほうがベスト。
アルバイトの生活指導として基本のポイントは2つ!
- アルバイトするための資格外活動の許可を受けているかどうか
- アルバイトの労働時間がオーバーしていないか
さらに学習態度を変えるためのプラスの指導は3つ!
- アルバイトを始める前の約束
- 休み時間の雑談
- クラス時間外での生活指導
→話の内容をこれから、目的にフォーカスすることがポイント
休み時間やクラス外の時間など一見すると面倒。時間も取られます。
でも授業中にひたすら注意を繰り返すより指導がスムーズ。学習者の変化も見える。クラス全体の学習の雰囲気も良くなります。
学習者は、日本語力が低下してもいいと思ってアルバイトをしているわけではありません。本当は頑張りたいけど、アルバイトで疲れきって日本語の勉強ができなくなっていく。悪循環にはまります。
その悪循環の流れを指導を通して変えていきましょう。
ダメですという責めたネガティブな向き合い方や注意の繰り返しはNG。
これからや本当の目的に視点を合わせると、学習者本来の力を引き出す指導につながるはず。ぜひ実践してみてください!
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